20 動き出した捜査線・最終ゲーム③

<下へ伏せろ!>

<抵抗するんじゃない!>

<犯人と思われる人物達を確保!>

<こちら逃亡者なし>

<2階も無人です>

<こちら正面入り口も異常なし>

<了解。こちらSATより本部に連絡。たった今工場で確認した犯人と思われる人物3名“全て”確保! 全員動画と似た服装をしており、犯行に使用したとみられるマスクやパソコンも確認>


 一瞬の出来事だった。


 現場にSATが突入して僅か数十秒。ずっと追ってきた奴らソサエティを遂に捕まえた。結末は意外とあっけない。現実の物語は意外とそんなものなのだろうか。


 本部で見ていた皆も喜んでいるのだろう。電話越しから多くの声が聞こえてくる。

 

 だがまだ終わりではない――。


 湧いた歓喜を一刀両断するかの如く、本部長が無線でSATに応答した。


「よくやった。 そのまま奴らに爆弾を停止させるんだ」

<了解>


 本部長のその一言で、俺はやっと少し力が抜けた気がした。

 捕まえるのが前提であったが、それで終わりではない。更に重要なのはこの爆弾を止める事だからな。でも、このまま何とかなりそうだ。6年間ずっと追っていた奴らを遂に捕まえた。


 まだ全然実感が湧かないな。

 奴らを実際に見ていないし、突入と確保の声しか聞こえていない。向こうが一体どうなっているのか分からないが、兎に角ソサエティを捕まえた。それだけは確かだ。


 それなのに。

 

 この妙な違和感が抜けないのは何故だ――。

 まだ実感が無いとはいえ、ずっと追ってきた奴らをとうとう捕まえたのに。

 

 何故一向に“終わった気がしない”んだ……?


 俺のそんな疑問を氷解したのは、他の誰でもない、奴らだった。


<……ハァァァハッハッハッ!……おい、貴様! 勝手に動くな!>

<早く爆弾を止めろ。 それ以外不審な動きをするんじゃない>


 突如無線からあの不愉快な笑い声が聞こえてきた。

 奴の笑い声を聞いた時、俺の心臓が一瞬高鳴った気がした。そしてそれは間違いなく良いものではない。


<さっさと爆弾を止めろ。……ハッハッハッ! それは出来ねぇ頼みだなぁ。……ふざけている場合じゃない。抵抗するならば命はないぞ。……抵抗じゃないさ。“本当に出来ない”から出来ないと正直に言っているんだ。こうしてお前達の言う通り下に這いつくばってな。……>


 今奴らが言っている事を理解しようとすればする程、全身に悪寒を感じずにはいられない。


<どういう事だ貴様。無駄な抵抗はしない方が身のためだぞ。……貴様ら警察が何処まで把握しているのかは知らんが、我々ソサエティはぞ。……⁉ どういう事だ! まだ仲間がいるのか!>


 やられた――。


 確かにこっちは、奴らソサエティが“何人”いるか確証は無かった。だが事件の後の調査で、犯行は3人でほぼ確定していたんだ。

 犯行声明やその後の動画で映っていたのも3人。事件当日からその1ヵ月前まで遡り、ビルで不審物を持って出入りしている奴を何とか監視カメラの録画で特定した。奴らはその監視カメラの録画にも偽造していたが、逆を言えばその偽造が外ならぬ、そこにいたという証拠にもなった。


 追える範囲でビルやビル周辺の監視カメラの録画から割り出した、ソサエティと思われる奴らは全部で3人だった。ビルに入り込んだ奴が1人に車に乗っていた人物が2人。勿論その車は盗難車だった挙句、車を特定した頃にはもぬけの殻だった。だがその車も分析班が隅々まで調べた結果、人物を特定するまでの証拠は出なかったが、奴らは犯行の為によくその車を使っていたのか、運転席、助手席、そして後部座席の片方だけが使われた形跡が残っていたのだ。


 色々な調査結果から奴らソサエティは3人組のテログループとして認識していた。


 だがどうやら……いや。今この時点で、俺達警察が辿り着いていたその答えは間違っていた。


「まだ他に仲間がいるだと……」


 本部長が覇気のない声でそう呟いたのが聞こえた。


「――シンッ! 残りのSATが待機していた場合は⁉ 逃げた奴はいないか!」


 俺は気が付いたらそう叫んでいた。スピーカーにしている携帯から俺の声が本部中に響き渡った。


「至急確認するんだ! 鶴矢町に向かっていた班も直ちに戻れ! だが建物の中には決して入るんじゃないぞ!」

<了解>


 その俺の声に反応した本部長も直ぐに指示を出した。もし奴らにまだ仲間がいるとしたらそこしか考えられない。


「千歳、聞こえるか?」

「ああ。どうなってる? まさか他の所に奴らの仲間が?」

「だがそれは考えにくいぞ。ウイルスを送った時に“何も反応が無かった”。もしそこにいたのなら、少なからず動きを見せる筈だ」

「じゃあ他の所にもいないのか? この期に及んでまだ奴らがくだらない嘘を付いてるってのか」

「それは分からん……「黄瀬君、やはり周辺のカメラにも怪しい奴は映っていない」


 横にいる水越さんの声が聞こえてきた。

 どうやら一足先に監視カメラを調べてくれていた様だ。


「水越さんそれ本当ですか?」

「ああ。SATが待機していた建物の出入口の監視カメラを見ているが、奴らの仲間が逃げるどころか“誰1人”として出入りしていない」


 何だと……。どういう事だ。


 やはり奴らが――。


 そう思った瞬間、俺の心の声でも聞こえているのだろうか。無線から再び奴らの声が聞こえてきた。 

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