19 動き出した捜査線・最終ゲーム②
「――ありました」
繋いでいる携帯から碧木の声が聞こえた。
「見せてくれ……確かに、そこが開きそうだな。ゆっくり慎重に開けてみてくれ」
「分かりました」
目の前で起きている爆弾解除。それを行う2人の何気ない会話を聞き、俺の体に沸き上がっていた殺意が徐々に収まっていった。
自分でも分からない。
もし実際に奴らと対面した時、俺はどうするんだろう。
「奴らの言う通りか」
「“黒と白のコード”……」
その声を聞き、俺は携帯の画面を見た。
碧木の爆弾が映し出されている画面には、確かにあの時と同じ、黒と白のコードが映っていた。
「まだそのまま触らない様に」
「はい」
「やはり最後にコードが残っていたか……。しかもあの時と全く同じ爆弾の構造だ。奥に付けられたセンサーが光っている。まだ爆弾が“起動”している証拠だ。黒野君の方の爆弾と遠隔で繋がっているだろう」
残り20分。
もうこの爆弾を止められる方法は1つしかない。
俺は自分の携帯でシンに電話を掛けた。
「――そっちはどうだ?」
「あと少し……あと少しで突破出来そうなんだが……」
「黄瀬君。こうなったら最後の手段に出よう」
電話の向こうで水越さんの声も聞こえた。
何だ? 最後の手段って。
「千歳聞こえたか? もう時間がない。奴らの居場所を完全に特定したわけではないが、現状怪しいサーバーを幾つか見つけてある。そしてもうその近くにSATが待機しているが、計画的な奴らの事となると本体以外はフェイクという可能性も十分に考えられる。もし外れを引いたら間違いなく奴らに気付かれるし、最悪爆弾が仕掛けられているとも考えるべきだ」
成程な。そりゃシンの言う事に一理ある。用意周到なソサエティなら可能性は十分だ。
「確かにな。で、水越さんの言った最後の手段って?」
「ああ。さっきからずっと奴らのサーバーに潜り込もうとしているんだが、向こうに中々厄介な奴がいるらしくてな。後一歩の所で交わされちまう。残り時間もないから、水越さんがウイルスを送り込む」
「それはつまり……?」
「このウイルスを送り込めば、奴らの居場所が特定出来る。その代わり、こっちが居場所を特定した事も奴らに気付かれる。だが特定した瞬間にこちらからSATに合図を出してもらえば、フェイクに危険を冒す事無くそのまま奴らを捕まえられるだろう」
「そう言う事か。勿論万が一の可能性もあるが……それしか手は残ってねぇみたいだな。今すぐ本部長に伝えてくれ。どの道最終的な判断は俺達じゃ出来ない」
「分かった。水越さんと本部長に伝えに行く」
「絶対逃がすなよ」
「当り前だ」
最終ジャッジは本部に従うしかない。だが現状、これ以上に取れる策はないと思う。どの道何も出来ないままじゃ終了だし、6年前と違って奴らの背中を捉えているんだ。ここで勝負かけるしねぇだろ。
シンと水越さんが本部に伝えたのか、山本さんと代わって本部長が画面に映った。
「黒野刑事、碧木刑事。爆弾解除ご苦労。取り残された人達も大丈夫か?」
「はい。問題ありません」
「こちらも大丈夫です」
「そうか、分かった。少し前に、サイバーテロ課から怪しい動きをしているサーバーがあると聞き、既にその周辺にSATを配備している。そしてもう残り時間が少ない。こちらでも今サイバーテロ課から最後の案を受け検討した結果、これから奴らの元にSATを送り込む!
今回こそソサエティを捕まえ、君達も人質も必ず救い出すからな!」
「「了解」」
奴らとのくだらないゲームもいよいよ大詰め。待ってろよソサエティ。
<――こちら準備出来ました。何時でも動けます>
本部にSATからの無線も入り、奴らを捉えるべく、警察総動員で確保態勢に入った。
「よし、サイバーテロ課! ウイルスを送り込め!」
「行くぞ黄瀬君」
「はい!」
本部長の合図でシンと水越さんが動いた様だ。
そして、“その時”は思ったよりも早かった。
「――見つけた……奴らの居場所を特定しました! 場所は
本部中に響く様な大声でシンが言った。
それを聞いた本部長も直ぐに動き、瞬く間にSATへと指示を入れる。
「聞こえたか! 奴らの居場所を特定した! 場所は鶴矢町46の9番地の工場跡! 中にいる者は一先ず全員確保!周りも完全に包囲して鼠1匹逃がすな! そこ以外で待機していた班も至急鶴矢町へ向かうんだ! 突入!!」
<了解。突入だ!>
本部長の合図で遂にSATに突入命令が下った。
SATの無線がこっちにも聞こえてくる。
複数の足早な音が響き、ヘルメットや服や持っている銃が当たり、静かにカチャカチャと鳴る音も聞こえてくる。
<こちら配置に着きました>
<裏口もOKです>
<よし、行くぞ…………突入!!>
その合図で、無線から聞こえてくる音が一気に騒がしくなった。
――ガガンッ……!
<――“全員動くな”!>
<床に伏せろ!>
本部には、SATからのカメラで映像も見られているだろうが、流石に俺の携帯からではそこまで確認出来ない。だが、確実に声だけは聞こえた。“全員動くな”と。
いたのだ――。
奴らがそこに――。
それだけは俺にも確実に分かった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます