11 過去と始まり⑦
どれだけ驚こうと信じられなくとも、見ている現実の事態に、都合の良い変化は起きない。
そうしている間にも赤い数字は容赦なく動き続けるのだから。
「どうなってるんだ……タイマーが止まらねぇ」
「全部切ったのか一真!」
「ああ。全部しっかり切った。お前の方は止まってるのか?」
「大丈夫。こっちは止まってる」
こんな時までこっちの心配しなくていいから自分の心配をしろ。
「そんなまさか……。白石刑事! もう1度爆弾全体を映してくれ!」
山本さんの声から少しばかり困惑が感じられる。
無理もない。それは恐らく全員が思っている事だ。
「やはり全て解除し終えている……何故白石刑事の方だけ……」
誰も事態を飲み込めていない。
しかし、妙な緊張感が生まれている事だけは誰でも分かっているだろう。状況を把握出来ず、今にも止まりそうな俺の思考回路が唯一振り絞って出した“最悪”という名の答え――。
きっとこの一瞬で、俺と同じ様に“最悪”が頭を過った者は少なくないだろう。
ダメだ。やめろ。
絶対そんな事考えるんじゃねぇ。
「一真。もう1回よく爆弾見てみろ。どっかに何か変わった様なの無いか?」
「そう言われてもな……特に変わった所なんか……「――これは?」
そう声を出したのは一真と一緒にいた女性だ。確か碧木さんとか言う名前だったな。何か見つけたのか?
「どうした?」
「ああ、ちょっと待って。碧木さんが何か見つけたみたい。……ん? 何だここ。何か開きそうだな」
「白石刑事、触る前にこちらに確認させてくれ」
一真と碧木さんは何かを見つけたのか、再び携帯で爆弾を映した。
「ここなんですけど、何か外れそうなんですよね」
「確かに。少しグラついているな。周りに配線も無いから慎重に開けてみてくれ」
「分かりました」
皆が固唾を飲んで見守る中、一真はそこを慎重に開けた。すると、パカッと蓋の様に外れ、その中に黒と白の2本のコードが現れた。
「これは……」
「まだコードが残ってたって事か」
「コレ切れば止まるのかな?」
「待つんだ!」
徐に山本さんが声を荒げた。その山本さんの声と表情が、少なくとも良い事ではないと物語っていた。
――ブッー!ブッー!ブッー!ブッー!ブッー!
「何だ……⁉」
「どうした、何の音だ!」
「本部長!コレを見て下さい!」
今度は何なんだ。
突如警報音みたいな音が聞こえてきた。それもこの部屋からじゃない。上の階だ。しかもどうやら俺の所だけじゃなく、一真の所と警察本部からも同じ様な音が響いてやがる。
「黒野刑事、白石刑事! 直ぐに近くのパソコンを見てくれ!」
本部から慌ただしく指示が入った。
パソコンだと? まさかまたソサエティの奴らが……!
俺は急いで部屋を出て上の階に戻った。すると先程と同様、パソコンの画面に奴らの姿が映っていた。そしてまたも動画が動き出した。
『――流石正義の警察諸君。見事爆弾を解除した様だな。いや、正確には“最終ゲーム”に突入したと言うべきか。
まさか2ヵ所共爆弾を解除するとはな、中々楽しませてもらっているよ。
おっと。無駄話をしている間にどうやら残り3分を切ったか――。
ここまで盛り上げてくれた警察諸君よ。最後にもう一賑わいと行こうじゃないか。ルールは至って簡単。ランドタワーの爆弾には黒と白のコードが残っている。どちらかを切れば爆弾は止まる。時間一杯考えて決めるがいい』
動画はそこで終わった。
――ガンッ!!
俺は苛つきが収まらず、気が付いたら机を思い切りぶん殴っていた。
どこまで人を弄べば気が済むんだクソ共ッ……!
『――おっと言い忘れていた』
「……⁉」
この動画、もしかして今リアルタイムで流してるのか……⁉
突然切れたと思った画面が再び付くや否や、奴らがまた話し始めた。
そして、その発言は誰もが想定していない恐ろしいものであった。
『コードを切れば爆弾は止まる。だがそれは勿論、どちらか一方だ』
言葉の意味を理解するのにここまで時間が掛かった事は無かった。
『ハァァァハッハッハッハッ! どうした? まさかどちらかを切って運良く全員で助かればとでも思っていたのか?あぁ? そんなクソみたいなつまらん結末があるとでも? 笑わせるでないぞ警察共!
言った筈だ。恨みあるお前達警察へと清算と制裁だとな。皆で仲良く助かろうなんて虫唾が走る。
これは我々ソサエティが楽しむ為のゲームなんだ。ゲームというのはルールが存在するから楽しいのだよ。ルールが存在するから勝ち負けの行方が面白いのだよ。両方生き延びるなんてつまらない。最終ゲームらしく、どちらか一方が生き延び、どちらか一方が死ぬ――。
これはそういうゲームだ。
さぁ! 残り“1分半”! はっきり白黒着けようじゃあないかッ!
ランドタワーにいる若き刑事よ。 貴様の手に全てが懸かっている。最後の最後まで楽しませてくれよ。
ハァァァハッハッハッハッ!!』
不愉快な笑いが響いたと同時に、パソコンの画面が突如真っ暗になった。
耳鳴りが聞こえる程の静寂。
嵐の前の静けさだろうか。
もしそうだとしたら、この場合の嵐は爆弾?
いや。
その嵐はここに取り残された人達の“叫び”だ――。
「おい! どういう事だよ今のは⁉」
「私達助かるんじゃないの⁉」
「どちらか一方なんて噓だよな刑事さんッ!」
「心臓に悪いのぉ。大丈夫じゃろ? 若い刑事さん」
「お願いしますッ!助けて下さい!」
俺はこの時、直ぐに声を掛ける事が出来なかった――。
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