15 動き出した捜査線⑥

 不愉快で耳障りなその笑い声も6年前と同じか。

 どうやら模倣犯でもないらしいな。正真正銘あの時と同じ奴だ。


「何だこれ?」

「イベントでもやってるのかホテルで」

「猪鹿町のシティホテルってここですよね?」

「ちょっと待って。私なんか見覚えありますよ今の」

「私も覚えておるわ。確か何年か前の、何とかって言う犯罪グループの事件じゃよ」

「おいおい、それ俺も記憶にあるぞ」


 マズいな。以前は前例が無かったからまだ半信半疑で落ち着いていたが、やはり覚えてる人達がいるか。それに、こんなの携帯で調べれば直ぐに……「あ! コレじゃないですか⁉」


 そう声を出した男性。思った通り、持っていた携帯の画面を見て何かを見つけた様子。困惑した表情を浮かべながら他の人達にも見せ始めた。


 はぁ……何とかパニックにならない様にしないとな。何よりまず爆弾を解除しなくちゃいけない。


「本当だ! 今画面に映っていたのと同じ格好だぞ」

「え⁉ 嘘ですよね⁉」

「まさか……悪戯か何かでしょう」

「悪戯でこんな警察が動いて避難までする訳ないでしょ!」

「じゃあマジなのかよこれ。本当に爆弾が仕掛けられているって⁉ おい、アンタ警察だよな? 何が起きてるんだよ!」

「皆さん落ち着いて下さい。大丈夫です。私は特殊捜査課の黒野と言います。今警察が迅速に動いていますので、安心して下さい。直ぐにここから出られますから」


 半分嘘で半分本当。

 ここまで前回と同じ犯行ならば、恐らくこの先の展開も同じだ。


 それを分かっていながら俺は今、目の前で不安を抱いてる人達に取り返しの付かない嘘を付いてしまっている。勿論、俺が思っているこの先の展開にが起きなければどれ程嬉しいだろうか。そこは何とも言えない。まだ実際に起きた訳じゃないから、そうならない可能性だって十分にある。


 でもきっと起こるよ。


 ホント、こんな時ばっかり“感じてしまう”俺の勘などクソ食らえだ。イライラする。


「本当ですか⁉」

「はい。必ず出られます。いいですか皆さん。今起こっているこれは悪戯ではありません。今あなたが調べた通り、これは6年前に起きた猟奇爆破テログループによる犯行です」

「おいおい! その事件って本当にビルで爆破起こったじゃないか!」

「そ、そんなッ⁉ じゃあここにも爆弾が⁉」

「落ち着いて! 大丈夫です! 今から私がその爆弾を解除しに行ってきます。なので皆さんはくれぐれもここから動かない様に。絶対に爆破は起こさせません。落ち着いてここで待機していて下さい」


 ――プルルルルッ……プルルルルッ……。

「はい黒野です」

「やっぱり出て来たわねソサエティ」


 電話の声は藍沢さんだ。


「黒野。奴らは順調にハッキングしてきやがった。必ず黄瀬君と奴らの居場所突き止めるからな」


 どうやらスピーカーで話しているみたいだな。水越さんも一緒か。


「はい。マジで頼みます。そっちはどうですか?」

「見たでしょ? 警察本部にも今映像が流れてきたわ。ホント胸糞悪い連中ね。獅子ヶ町のセントラルタワーも黒野君と全く同じ様な状況よ」

「やっぱりそうか。藍沢さん、ちなみに碧木とは連絡取りました?」

「……」


 ん? 何だこの間は。電波悪いのか?


「藍沢さん。聞こえてます?」

「え、ええ。聞こえてるわよ。あの……それがね……」


 どうした? 何でこんなに歯切れが悪いんだ。藍沢さんらしくない。


「驚かないで聞いてほしいんだけど、実は……明日香ちゃんがセントラルタワーに入っちゃったのよ」

「……は??」


 やりやがった。マジかよアイツ。


「それ本当ですか? さっき俺が電話した時は外で避難誘導してたけど」

「多分その後ね。私もついさっき知ったんだけど、どうやら“迷子の子供”を探しに中に入ったらそのまま閉じ込められたらしいわ」


 何だそれ。もしかしてさっき電話から聞こえて来た子供とはぐれたって言うお母さんか? あれ程中に入るなって言ったのによ。嫌な予感が早くも当たっちまった。次はどうにか良い方向に働いてくれ俺の勘。


「そうですか。向こうは何人取り残されました?」

「正確な数は私も知らないけど、確か15人ぐらいはいるって聞いたわ」

「そんなに?」

「ええ。一般人が十数名、警官は明日香ちゃんともう1人よ。そっちはどうなの?」

「こっちは警察が俺1人で、残りは全部で5人です。辛うじて前回より人が少ないのが幸いですね」

「あなたがいち早く動いたお陰よ。セントラルタワーも爆破されたマークタワーも、スタートが遅れていたらもっと被害者が増えていたわ。兎に角切り替えてここからね。爆弾は見つかったの?」

「今向かってるのでこのまま繋いでおきます」


 案の定、今しがた確認して閉まってた非常階段の扉が解除されてる。パソコンに表示された地図通りだと、扉を出てすぐ横にあるこの整備室。ダメだと思うが一応このまま下の階まで行って扉が開くか確認しよう。


「……やっぱり開かないか」


 淡い期待を抱いたがやはりダメか。仕方ない。戻るか。


 俺は爆弾が仕掛けられているであろう整備室へと戻った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る