16 動き出した捜査線⑦

~整備室~


 中は部屋一杯に色々な機械で埋め尽くされていた。鈍い機械音が響き、幾つものランプがあちこちで点灯していた。


「――あった……」


 入り組んだ部屋の1番奥。こんな状況にも関わらず、一瞬懐かしいとさえ思ってしまった。


「爆弾確認しました」

「やっぱりね。黒野君、気を付けなさいよ。このままこの携帯を本部全体に繋いでもらうから待ってて」

「了解」


 爆弾の構造まで同じなのか? 見た目は似ているけど。それに、もう当たり前だけど、また爆弾解除するんだよな俺。まぁこの日の為に最低限の知識入れて何度か練習もしたから前よりマシだろ。先に使えそうな物揃えておかねぇと。


 現在、時刻10:58――。


 爆破まで後1時間か。今の所かなり順調。これなら爆弾解除も焦らず出来る。

 問題は、碧木がいるセントラルタワーと奴らの居場所。いくら爆弾を解除しても、結局奴らを見つけなければ終わり。また悲劇が繰り返される。それだけは絶対に阻止しないと。


 頼むぜシン。水越さん。


 俺は爆弾解除に使えそうな物を探しながら、もう1台の携帯で碧木に電話を掛けた。


 ――プルルルルッ……プルルルルッ……。

「はい。碧木です」

「お前何で中に入ったんだよ!」


 開口一番、俺は大声でそう言った。


「すいません……」

「すいませんじゃねぇだろ。あれ程言ったよな、中に入るなって」

「反省しています。でももう入って閉じ込められたのでしょうがないです」


 コイツ……。何で開き直ってんだよ。


「確かに今更言ってもしょうがないか。そっちに残された人達は大丈夫か?」

「はい。何とか。さっきの動画でパニック寸前でしたけど、何とか私と鈴木巡査で落ち着かせる事が出来ました」


 鈴木巡査? さっき藍沢さんが言ってた碧木ともう1人の警官か。不幸と言うべきか幸いと言うべきか、お互いに1人よりは2人の方が何かと協力出来るだろう。起きた事はしょうがない。プラスに考えろ。


「そうか。何が起きてもいい様に気持ちの準備だけはしておけ」

「はい。分かりました」

「動画見たって事は、そっちにもやっぱ爆弾仕掛けられてるのか?」

「丁度今確認しに来た所です」


 碧木が中に入ったと聞いた時はつい同様しちまったが結果オーライとしよう。俺と同じでソサエティを追っていただけあって迷いがねぇ。ある意味適役かもしれないな。


「黒野さん。爆弾確認しました……」

「絶対不用意に触るなよ」

「分かってます。黒野さんの方にもあったんですか?」

「ああ。思い出の品を見てる気分だ。爆破予告された時間までまだ1時間近くある。今のうちにドライバーとかハサミとかカッターとか、使えそうなの用意しとけよ」

「分かりました」


 本当に肝っ玉が据わってるな。俺の時と全然違うもんな。


「――至急、至急! こちら本部長の服部だ。黒野刑事、碧木刑事、聞こえているか?」


 繋いでいた携帯。本部から連絡がきた。


「こちら黒野。聞こえます」

「こちら碧木。大丈夫です」

「よし。2人共、先ずは迅速な対応に感謝する。君達のお陰で被害は最小限だ。本部でも既に準備を整えている。6年前の悲劇を絶対に繰り返してはならない! 今回こそ確実に奴らを捉える!

今爆発物処理班がこちらに向かっている。前回同様、携帯はそのまま繋いでおいてくれ。そちらの状況はどうかね? 簡潔に教えてくれ」

「はい。こちらシティホテルですが、取り残されたのは私を除いて5名。前と同じでエレベーターは使えず、非常階段は降りられますが下の階は鍵が掛かっています。取り敢えず1階まで下りる事は出来ると思いますが、奴らが監視している以上下手に動くのは危険かと。ちなみに、既にパソコンに表示された場所にて爆弾を確認しました」


 俺は一通りの状況を説明した。やはり前回と比べて、遥かに俺達警察の動きは迅速になっている。幾分か余裕もあるが、やはりまだ主導権は奴ら。同じ轍を踏まない為にも、どこかで奴らより1歩先に動かなければ。ただ、今は中からも外からも無理に動かない方が賢明だ。時間はある。


「こちら碧木です。私達がいるのはセントラルタワーの最上階。残されたのは私と鈴木巡査を除き、全部で17名。

全員このフロアに入っている会社で働く従業員との事です。黒野さんと同じく、エレベーターは明かりが消えており、出入口の扉が閉まっています。ソサエティが出した地図通り、非常階段から向かった2つ下のフロアにて爆弾を確認。そこまでの道のりで一応扉を確認しましたが、どこも閉まっていました」


 怖いぐらい6年前と同じ。ただし今回は覚悟も経験値もあの時とは全く違う。待ってろソサエティ。


「報告ご苦労! たった今、爆発物処理班が到着した。直ぐに代わる。君達は一旦残された市民の様子を確認してくれ。パニックにならぬ様、落ち着いて状況を説明するんだ」


 本部長の指示に従い、俺と碧木は皆の様子を伺いつつ、これから爆弾解除を行う事を伝えた。

 皆の表情はとても困惑している。無理もないが、俺に今出来る事は、大丈夫だから安心してほしいと再度ゆっくり丁寧に伝える事のみ。何とか皆に納得してもらい。俺は再び爆弾のある部屋へと戻った。


 

 そして何故だろう……。


 また6年前と同じ様に、ずっと体の奥の方でモヤモヤが残っているのは。


 あの時も同じだった。


 感覚的なものだから何と言えばいいか分からない。良くも悪くも、直感の“余韻”とでも言えばいいのだろうか。いつもならこの直感が当たったと同時にスッキリ消えているのに、あの時はそれが無かった。


 ビルの中で確かに嫌な予感がした。


 でも、それは爆弾を解除した後も、最後の黒と白のコードを選んだ後も、ランドタワーが爆破された後も……何故だか“何かがまだ続いてる”様なモヤモヤした感覚が残ったままだったんだ。


 奴らを捕まえられなかったから……?

 今度もまた逃げられるという予兆なのか……?


 そんな事は絶対にさせない。


 あの時、最後に一真が俺に託したんだ――。


 何が何でも、俺の命と引き換えてでも、今回こそお前らを捕まえて、このモヤモヤと一真の無念を晴らしてやる。


 絶対逃がさねぇからな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る