17 動き出した捜査線⑧
「――黒野刑事、碧木刑事、聞こえるか?」
本部長から指示を受けた数分後、爆弾のある部屋へと着いたほぼ同時に、本部と繋がっている携帯から声が聞こえてきた。
今度は本部長ではなく別の人の声。
「“山本さん”」
「久しぶりだな黒野君」
そう。
声の主は爆発物処理班の山本さんだった。
あの日から俺は、今日この日がいつ来てもいいようにと何度か山本さんに指導を仰いでもらっていた。
爆発物の知識から処理の仕方まで。自分が出来る限りの事は何でもした。
「ご無沙汰してます」
「いつかこの日がと、ずっと思っていたが……遂に来た様だな。私も6年前の事を1度たりとも忘れた事はない。必ず爆弾は解除してみせる。白石君の為にも、今日こそ奴らを捕まえるぞ」
「はい!」
「碧木刑事も必ず私が助ける。今日初めて会うが、是非私を信用してほしい」
「いえ、こちらこそ宜しくお願い致します! 黒野さんからも当時のお話を伺っております。山本さんが来てくれてとても心強いです。“親子共々”ご迷惑をお掛けますが、お願い致します!」
「親子共々……」
そうか。まだ山本さんは碧木の事を知らなかった。
「山本さん。実はそいつ、6年前に一真と最後まで一緒にいたあの女性の娘なんです」
「――⁉」
そりゃ驚くよな。俺も初めてそれ聞いた時はビックリしたし。しかも山本さんからしたら、時を経て親子が現れたと同時に、またこんな爆弾事件に巻き込まれてるのを目の当たりにしてるんだからな。無理もない。
確率にしたらきっと物凄い天文学的な数字だろ。碧木にしても山本さんにしても。
「そうか……。まさかこんな偶然が起こるとは驚いた……。碧木刑事。今更謝った所で何も変わらないが、君のお母さんを救えなくて本当に申し訳なかった」
「いえ! そんな、やめて下さい! 山本さんのせいではないですから。悪いのは全部ソサエティです」
碧木の言う事が正論だ。だが、当時の爆弾処理に関わった山本さんは、どこかで負い目を感じているのだろう。誰も何も悪くない。俺達警察や事件に巻き込まれた人達が、そんな事を感じる必要は一切ない筈。なのに、あの日から今日まで、そしてこれから先もずっと、大勢を苦しめている全ての元凶はお前達なんだよ。ソサエティ。
「山本さん。こっちは何時でも解除始められますよ」
「私もです。一通り工具借りてきました」
俺と碧木がそう言うと、山本さんは力強く頷き、俺達に指示を始めた。
「よし。流石だな。爆破予定まで時間は50分近くある。早速解除を始めよう。先ずは順番に爆弾の全体を映してくれ」
こうして、俺達の爆弾解除が始まったのだった――。
♢♦♢
「――そうしたら、次は隣にある緑のコードを切ってくれ」
「これですね」
――パチンッ……。
爆弾解除から10分。何度かこなした練習のお陰で嫌な汗も掻かずここまで順調そのもの。前は時間が永遠にも感じられた。流石の碧木も声から緊張感が伺えた。
「碧木、大丈夫か? 後少しだぞ」
「はい……大丈夫です。経験しているからって先輩風吹かせないで下さい」
全く、可愛げがない後輩だ。その度胸だけは買うけどな。
「ハハハハ。頼もしい後輩を持ったな黒野君。確かに碧木刑事の方が黒野君の時よりスムーズだ」
「勘弁して下さいよ山本さんまで」
まぁ碧木が大丈夫ならそれに越した事はない。いつもの口調が出るなら問題ないだろう。逆にそんな余裕も無い方が心配になる。それにしても、本当に大したメンタルだよ。
「よし。黒野君も碧木刑事も順調だ。残り3分の1もないし、タイムリミットまで30分以上ある。一呼吸置いて大丈夫だよ」
口ではああは言っていたが、山本さんがそう言うと同時に、電話越しから碧木の深い溜息が聞こえてきた。
やっぱりアイツも緊張ぐらいするんだな。少し安心したぜ。
「少しだけ雑談でも交えようか。差支えが無ければ教えてもらいたいが、碧木刑事は何故警察に入ろうと思ったんだい?」
「私は……1番はやはり6年前のこの事件です。母が爆破に巻き込まれ、その後重体で病院に運ばれました。当時、まだ学生だった私と弟は、父と一緒に急いで病院に向かいましたが、少しして亡くなりました。
その時はただただ悲しくて、暫く抜け殻の様な日々を送っていましたが、丁度自分の進路を決めなければいけない時期で、特にやりたい事も決まっていなかった私は、ふと母と最期に交わした会話を思い出したんです」
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< 明日香……、人生はいつ何が起こるか分からない。だけど、この先のあなたの人生で……あの若い刑事さんの様に、人を思える、強くて優しい人間になってほしいわ……。皆とはいかないけれど、せめて、自分にとって大切だと思える人達だけは……あなたが助けられる所にいる人だけは……手を差し伸べてあげてほしい。そんな強くて優しい人間になってね……明日香……>
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いつの間にか、一滴の涙が俺の頬を伝っていた――。
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