23 黒の直感・協奏曲
俺は無意識の内に動き出していた。
爆弾のある部屋を出て、皆が待つエレベーターの方へ。
今、俺が“思っている”事が勘違いじゃなかったとしたら――。
「……シン。 いたかもしれねぇ……」
「ん? 何だって?」
何とも言えない感覚に襲われていた俺は、上手く声を出せなかった様だ。俺自身、恐怖なのか高揚なのか分からない震えに襲われているから無理もない。
向かう歩みを止め、焦る気持ちを抑える。
俺はゆっくりと深呼吸をしてシンに告げた。
「いるじゃねぇかよ……。事件が起きてからずっと見ている奴が――。
俺ら警察と、奴らソサエティ以外にも……6年前も今も、共通してコレを見ている奴が他にもよ……!」
「どういう事だ……⁉」
シンはまだ俺の言っている意味が分かっていない様だ。そりゃそうか。そもそもまだコレが合ってるかも定かじゃない。仮にそうだったとしても、それは余りに信じられない出来事だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
<……アイツは俺達以上に“狂っている”からな!……>
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奴らの言葉が頭を過る。
コレが真実なら、奴らの言う通り、本当に狂ってやがる。
俺のこの直感が……俺の“記憶”が正しければ……。
爆弾の製造者である最後の1人は――。
「シン。6年前にあのビルにいた……俺と取り残されえて人質となった、被害者達の身元を確認してくれ! 急げ!」
そうだったのか。
あの時も今も、ずっと残っているこの嫌な感覚の正体。
ソサエティを見つけて、奴らを捕まえれば消えるだろうと思っていたこの感覚。
全ての答えが分かった――。
あれから6年もかかってようやく“お前”に辿り着いたみたいだ。
ほら。
その証拠に、ずっとはまらなかったピースがようやくハマった様なこの感覚。ずっと残っていた不快な違和感が嘘みたいにスッキリした。
「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
爆弾の部屋からこのエレベーターまで、全く大した距離じゃないのに、俺はいつの間にか呼吸が荒くなっていた。
「どうしたんですか刑事さん」
「爆弾は⁉ 爆弾はどうなったんですか⁉」
「犯人は捕まったのか?」
目の前にいる5人の人達。皆が一斉に俺の方を見ている。1人はラフな格好をした大学生ぐらいの男の子。そしてその横に30前後の女性が1人と、杖をついた70代ぐらいのお婆さん。そしてスーツを着たサラリーマンと思われる男の人が2人。
「皆さん安心して下さい。爆弾は解除され、もう直ぐ外に待機している警察が助けに来てくれますので」
「本当に⁉ 良かったぁ。安心したわ」
「ふぅ~。全く、寿命が縮まったぜ」
「本当ですよ。爆弾なんて余りに現実味がない」
皆が口々に安堵を漏らす中、耳元でずっと待っていたシンの声が響いた。
「――あったぞ千歳! 6年前にお前と同じビルに取り残された被害者達の身元情報。今携帯に送ったから確認してくれ。急げ! 時間がないぞ!」
爆破まで、残り2分――。
いた。やっぱりそうだったか――。
シンから送られてきた被害者達の身分証。
ここにしっかり“映ってる”。
今俺の“目の前に”いるアンタの面が、6年前に記録された被害者の身元情報にはっきりと残っているぜ。
あの時から若干老け込んだ、テメェのその“面”がな――。
「婆さん……」
……………………カチャ……!
俺は銃を抜き、その銃口を婆さんの額にピタリと当てた。
「見つけたぜ……。爆弾製造者――」
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