イリーガル探偵事務所②
何とも言えない笑みからまたも一転。一千万の言葉に、象橋は再び真剣な表情で話し始める。
「それはだな一千万……さっきも言った様に、今回の部署は超機密事項なんだ。警察としても非公式として取り扱う事となったから、それはもう色々と面倒で、この上なく動きづらい。
だったら初めから警察関係者意外で、実績のある人間を当たろうという事になって、都合の良さそうなお前を選んだんだよ」
「何て勝手な……。そこまでして作る部署の“相手”は?」
既に何かを直感していた一千万は、更なる核心を突く。
「ハハハ、感が良いなやっぱり。実はな、ここ数年になって“あの線”がかなり濃厚になってきたんだ」
「あの線って……まさか『
「そうだ――」
「新興創会ってあの有名な?」
新興創会――それは、全国で最も有名な宗教団体の名称。
国内は勿論、国外でも新興創会の思想が広まっており、この国では間違いなく最大規模を誇る宗教団体である。
「そうだ。もう何十年と及ぶ大小様々な事件や事故。当たり前だが、警察にはほぼ全ての記録が残っている。中でも決して表立たないが、度々名が出てくるのが新興創会だ。これは昔から言われ続けているものだから、最早一般の人達やネットの中でも、都市伝説やオカルト的な位置づけにされてしまっているけどね」
「新興創会に何かあるんですか?」
「刑事なら自分で調べろ新米。警察が秘密裏に動き出したって事は、いよいよ実態掴んだか」
「ああ。勿論以前から少しは分かっていたけどね。だが調べれば調べる程、新興創会の歴史や規模、繋がっている人物達が名だたる人物ばかりなんだ」
「それこそ昔から言われていただろ。そんな曖昧な情報じゃなくて、何が分かったんだよ」
どこか遠回しな言い方の象橋に、一千万が「早く言え」と言わんばかりの物言いをする。
「まだ確定じゃない。だからこその今回だ。新しい部署の最終目標は、新興創会現会長――『
「「……!」」
その名を聞いた一千万と白石は同時に驚いた。
新羽國重。その名は警察関係者は勿論、ごく普通の一般人でさえも、一度は聞いた事があるであろう有名な人物だった。
「遂に奴を捕まえる気か……警察は」
「ああ。だが相手が相手だからな。まずは逮捕を狙いながらも、もっと色々な手掛かりや決定的な証拠を掴まないといけない。だからこそ、今回の新しい部署が立ち上げられたんだ。
一千万! 白石君! 奴らが裏で関わっていると思われる、違法で怪しい事件を、お二人で仲良く解決しまくってくれ! そして新羽を炙り出す! ついでに絶対に奴を逮捕出来るだけの証拠を掴んできて欲しい! 以上! 後は頼んだ!」
象橋は言い切った。言いたい事全てを言い、彼は今日の一大任務を終えた。それはそれはもう、人一倍清々しい表情で、象橋言い切ったのだった。
「「……」」
一千万と白石はこの瞬間、“初めて”間が合った。
何を言っているんだコイツは、と――。
「……成程、お前とは確かに長い付き合いだが、今回の事は全く理解出来ん。意味不明だ」
「どこがだ?」
一千万の真面目な言葉に、真面目な態度で返す象橋。どうやら象橋は本気らしい。
「よし、お嬢ちゃんの為……そして俺の為にも一から話を整理するとしよう」
「是非お願いします!」
敵の敵は味方、とでも言わんばかりに、ここにきて一千万と白石の馬が合い始めた。
「まず新興創会の裏の繋がりを調べるってのは分かる。それに関して警察が表立って動けないのもな。“誰が”新興創会と繋がっているか分からねぇ上に、今となっては当たり前の一つの宗教だ。警察だろうが一般だろうが、そこら辺に創会の奴はいるからな」
「その通り。だから超機密事項なのさ」
「だが実際、何処まで身の危険があるか分からねぇが、何故“コイツ”何だ? 有望な若手は外にもいるだろうよ。腕の立つ奴や、頭のキレる奴。最低限、器用で要領の良い奴じゃねぇと、こういう役は務まらねぇぞ。
別にお嬢ちゃんを悪く言うつもりはないけどな、俺だったらお嬢ちゃんみたいな奴は“まず選ばねぇ”――」
一千万の言う事はど正論であった。
そして、それは直ぐ隣にいた白石本人も全く同じ事を思っている。「私ではなくてもっと優秀な人達が他に沢山います」と。「なにより話が物騒で関わりたくないです」と。白石の表情からこれでもかと否定的な感情を汲み取れた。
しかし、一方の象橋は待ってましたと言わんばかりに命と白石に再び言い放ったのだった。
「そう。ポイントは“そこ”だよ一千万! 鶴田君を選んだ最大の理由は1番合っていないからさ」
乗った象橋は得意げに話を進めていく。
「確かに、刑事として事件や操作に向いている者や能力のある者は他にもいる。どちらかと言えば鶴田君はそういうタイプではないからね。でもそれこそが良い目くらましになると思うんだよ。
京蔵も今言っただろ? 俺ならまず選ばねぇって。警察に優秀な人材がいる様に、奴らの中にも頭のキレる奴や鼻の利く奴がいる。そういう奴らはお前みたいに勘も働いて厄介だ。だからこそ、良くも悪くも真面目で駆け引きの無い純粋な彼を選んだ」
熱く語る象橋。理由は確かに良く分かったし、言っている事も一理ある。しかし、意図してなのか無意識なのかは定かではないが、少なからず、鶴田はこれを良く受け止めていいのか悪いのか複雑な心境であるのは言うまでもない。
「将来を担う若い芽が1つ摘まれたぞ。たった今お前に」
「何の事だ?」
象橋は無意識であったらしい。
「お前警視長になって馬鹿になったみたいだな。少し同情してやるよ坊主」
「ありがとうございます……で、正しいんですかね?」
「早くも仲良くなってきたみたいで安心したよ。それに彼を選んだのはまだ理由がある。京蔵も昨日見たと思うが、鶴田君の射撃の腕は間違いなく警視長トップだよ。俺が保証する」
「そ、そんな! 僕がトップだなんて嘘ですよ!」
「いや、これは間違いないぞ京蔵。社交辞令でもお世辞でもない事実だ。実際に俺はこの目で鶴田君の実力を見ているからね」
「ほぅ。じゃあ昨日のもマグレでなく狙ったと?」
話を聞いた京蔵は疑いながら鶴田に聞く。
「トップ何て話は盛り過ぎですけど……昨日はかなりの量の灯油が撒かれていたので、“床の灯油に当たらない様に”ライターを撃ち抜きました。それでも弾が接触した際に微量の火薬が飛ぶので賭けでしたけど……」
鶴田が何気なく言った発言に、京蔵はピクリと眉を動かした。
「(床の灯油に当たらない様にだと……? まさか、撃ち抜いて“弾かれるライターの事まで計算して”撃ったというのかこの坊主。そんな馬鹿な事が……「そのまさかだよ京蔵」
まるで京蔵の心を読んだかの如く、象橋がそう言った。
「言っただろ? 鶴田君の射撃の腕は警視庁……いや、全国の警官の中で間違いなくトップだよ。僕も初めは驚いたけどね」
「お言葉ですが、それは絶対に間違ってますよ象橋警視長! 僕が1番なんて有り得ないですからッ!」
「ハハハ。君は自分に自信を持った方がいいよ。若いんだから図々しいぐらいが丁度いい。京蔵といれば少しはそうなれるかもね」
「サラッと悪口言ってんじゃねぇぞコラ。大体よ、肝心の調査や依頼をこなせる能力がなけりゃ幾ら銃の腕があっても意味ねぇだろ」
「その辺はお前が彼を育ててくれ」
「お断りだ馬鹿。何で俺がこんな坊主の世話しなきゃならん」
「あの~、話の流れから察するに、ひょっとして僕は……」
「そう。鶴田君。君には警察の使命を掛けた超重大な任務を行ってもらう! よって、本日付で君は異動。非公式扱いとなる為、警察手帳と拳銃も一旦返してもらう。そして君の名前や存在は警察全てのシステムから削除されます」
「どういう事ぉぉぉぉぉぉぉッ⁉⁉」
超絶怒涛の急展開。思い返せば、鶴田の人生は昨日から大きな変化と言う波に飲み込まれ始めていたのだ。
新米刑事が警視長と異例の捜査同行。思いがけない殺人事件に巻き込まれ、次の日には超怪しいビルの一室でまさかの存在抹消。驚きの余り、鶴田が思考停止するのは必然であった――。
♢♦♢
「フゥー。取り敢えずこの坊主は“このまま”にしといてやれよ」
「やっぱり仲良くなっているみたいで安心だ京蔵」
鶴田が思考停止して早1分が経過。
魂が抜けた様に、鶴田はフリーズしたまま微塵も動く気配がなかった。
「生きてるよな?」
「大丈夫。心臓は元気に動いてるよ」
「ったく、次から次へと面倒ばっかじゃねぇか。まぁそれより……本気で新羽國重捕まえる気なのか?」
「ああ。勿論簡単に出来るとは思っていない。何か手掛かりを掴むのだけでも困難だ」
「困難どころじゃねぇ。下手したら死ぬぜ。正直そこまでして捕まえるメリットは無いと思うぞ」
「確かにな。いずれ誰かが捕まえるだろうと何十年も経った。公にならない隠蔽された事件も数知れず。奴らの抱える闇は大きく根深ければ、新羽を捕まえたからと言って全てが解決する訳じゃない」
「それを分かっていて尚か?」
京蔵は改めて象橋に真意を問いた。
「……“
「――!」
象橋の口から出されたのは人の名前だろうか。それを聞いた京蔵も少し驚いた表情であった。
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