06 過去と始まり②

 ♢♦♢


~6年前・県警察本部~



「――本日付で、こちらの捜査一課に配属される事になりました、白石一真です! 宜しくお願い致します!」

「同じく、本日付でこちらに配属になりました、黒野千歳です! 宜しくお願い致します」


 警察学校からの同期で、年齢も同じだった俺と一真は、自然と仲良くなっていた。


「まさかお前と同じ部署とはな」

「こっちの台詞だぜ。警察署なんて全国にいくらでもあるのによ」


 これも一種の腐れ縁だろうか。

 俺と一真は警察学校を卒業して、それぞれ別の交番で勤務していた。卒業後も一真や他の同期達とは連絡も取ってていたし、年に数回皆で会うこともあった。皆勤務場所も目指している課や部署も違ったが、互いに刺激して切磋琢磨出来るいい関係だった。


 元から捜査の最前線に行きたいと思っていた俺と一真は、2人共捜査一課の刑事を目指していた。刑事になる為、数年の交番勤務でそれなりの成果を出し、苦手な勉強も頑張って何とか試験にも受かった。思っていたよりもかなり順調。今の碧木と同じぐらい、22歳の時に念願だった捜査一課に入る事が出来たんだ。


 何でだろう? 数ある中で、何でよりによってコイツと同じ部署なんだと思った。それは多分、一真も同じ。互いに目標だった捜査一課に入れた喜び半面、これからまた一緒だと思うと何処か照れくささもあった。


「お疲れ」

「おお。サンキュ」

「大変だったみたいだな」

「ちょっとな。でも無事解決して何よりだよ」


 捜査一課に配属して半年が経った。

 交番勤務と変わらない様な業務もあれば、如何にも捜査一課の刑事らしい事件までと様々だったが、この頃には大分慣れて仕事をこなせる様になっていた。


 当然と言えばそうだが、事件の中には自分が思っていた以上に辛く悲しい事も多々あった。被害者やその家族達の気持ちを思うと、本当にやるせない気にもなる。


 罪を犯した犯人を捕まえるのが俺達に出来る最善策だが、1番はやはり、事件を未然に防ぐ事。それが何より大事なんだ。


 でもそれが1番難しいのが現実。

 きっと、仕事自体は慣れても、この気持ちだけは定年退職するまで慣れないと思う。いや、そんな事に慣れちゃダメなんだよな。理想と現実を毎日突き付けられるけど、それでも俺なりにやりがいは感じている。


「本当にさ、世の中色んな奴がいるよな」

「急に浸り出したか? まぁ分かるけどさ。せっかく犯人捕まえても、自分がどうしよもなく無力だなって思い知らせる事あるし」

「だよな……」

「それでもさ、全くやらないよりはマシだろ? 自分の手の届く範囲なんてたかが知れてるけど、そこに救える人がいるなら俺は充分だと思ってる」

「詩人みたいな事言い出したなお前。恥ずかし」

「おい! お前がしんみり感出して語り始めたんだろ千歳! なのにその話の着地は酷いぞ」

「ハハハハッ。今度皆に話してやろ」

「性格悪いなお前」


 結局、こういうどうでもいい時間が、自分を1番救ってくれている気がする。


 良かったな一真。

 お前の言う通り、お前の範囲で救われてる人間が確かにいるよ。そんな事本人は絶対言わねぇけど。


「さて、戻るか」

「あー、報告書の存在忘れてた。最悪」

「最大の凶悪犯だな」


 面倒だけど仕方ない。早く終わらよう。覚えているうちに。俺は再び気合いを入れ直し、報告書に立ち向かう事を決意した。


 この日は少しだけ忙しかったな。

 昼飯を食べ終えた後、2件の通報が入った。1件は人が刃物を持って何か叫んでいるという通報。もう1件は窃盗だった。


 俺は窃盗の方に出動し、一真は刃物男の方へし出動していた。


 ♢♦︎♢


有兎楽町ゆうらくまち


「──こちら黒野。ホシ確保しました」

「よくやった。今そっちに向かう」

「ちくしょう! 離せコラ!」


 窃盗が起こった現場に向かっている途中で、明らか不審な男と目が合った。案の定ソイツはホシ。向こうも俺がサツだと察するや否や全力で逃げ出した。


 見た感じ30代半ば。身長は170あるかないかの中肉中背。体型と走り方が運動苦手な事を物語ってる。そこそこ距離があったが、追いつくのに時間は掛からなかった。


「離す訳ねぇだろうが。大人しくしてろ」


 男を拘束していると、直ぐに同行していた先輩刑事も駆けつけてきてくれた。


「ハァ……ハァ……黒野、早いなお前」

「そうでもないですよ」

「若いっていいなぁ。俺も昔はもうちょい動けたんだけど……って、そんな事はどうでもいいか。早くコイツ連行しよう」


 俺と先輩は窃盗犯の男に手錠をし、応援に来てくれていたパトカーへと男を乗せた。


「ご苦労様です。本部へ向かいますか?」

「ああ。そうしてくれ」


 パトカーの後ろに乗った俺と先輩と窃盗犯の男。運転席にいた警官が車を出そうとした瞬間、突如パトカーから緊急無線が入った。


 今思い返せば、これが全ての始まりだったな。


〈──至急、至急!こちら本部長の服部!本部より周辺警察皆へ告ぐ! たった今、警察本部に『ソサエティ』と名乗るテログループから爆破予告が届いた!繰り返す! たった今、警察本部にテログループから爆破予告が届いた!〉


 おいおい、マジかよ……。

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