13 動き出した捜査線④

 ♢♦♢


~猪鹿町・シティホテル~



<――本部より、出動中の皆に告ぐ。たった今、ソサエティと名乗るテログループにより猫町マークタワーが爆破された! 不幸中の幸いと言うべきか、マークタワーは本日休館であった為、被害は最小限に留まった。建物が爆破された影響で周辺にいた市民数名が怪我を負ったが、命に別条はなし! 特殊捜査課の迅速な行動により、多くの人命を守る事が出来た>


「ギリ間に合ったか」


 暴走運転ギリギリ……いや、多分アウトだが、お陰で最速時間でシティホテルに着いた。

 ソサエティの奴らは今回も本気らしい。6年前と同じ様にマジで爆破しやがった。怪我人が出たから良いとは言えないが、それでもかなり最小限に抑えられただろう。


「さて、問題は更にここからだ……」


 嫌でも脳裏に浮かぶ奴らの顔。次こそはそのふざけたマスク奪い取って面拝んでやるからな。

 俺は次の行動に移す前に深呼吸した。


 焦るな。

 この日の為に散々調べて何度も頭でシミュレーションしただろ。絶対同じ事繰り返すな。


 6年前は何も知らずにビルに突っ込んだ。早く市民を助けないといけないと思って。それが間違っていた。

 計画的犯行を繰り返しているソサエティ。奴らから本部に動画が送られて来た時点で、こっちはかなり出遅れているんだ。前と同様、まだ主導権は奴らが握っている。


 犯行予告をしてきたという事は、何時からかは分からないが、奴らは既に“下準備”を終えている段階。建物に爆弾も仕掛け、いつでもハッキングが出来る状態だ。ひょっとしたら、もうそこら辺の監視カメラでこちらを見ている可能性も考えられる。


「――“もう動いてる”よな? シン」

「当り前だ」


 俺は今電話を掛けた。

 相手は『黄瀬 真一郎きせ しんいちろう』、俺の警察学校の同期だ。勿論一真とも。どうでもいいが、真一郎と呼ぶのは長いので、コイツは昔から“シン”と俺達は呼んでいる。


 シンは元々パソコンとか機械関係が強かった。俺らと務める場所は違ったが、“ここ”に配属されたならば、緊急時には真っ先に連絡が入るよな。6年前の事件をきっかけにシンはサイバーテロ課へ異動し、あらゆるハッキングやサイバー犯罪の対策を担当しているらしい。それも全ては今日の為。そう言っても過言ではない。


「今の所建物はハッキングされていないが、恐らく奴らはもう俺達警察の動きを見ている。誰かが建物に入った時点でまた閉じ込める気だろうな」

「やっぱ同じ手口か。シン、予定通り俺がホテルに入る。他の刑事達は入れない様伝えてくれ」

「分かった。こっちは既に俺を含め“警視庁”全体が動いている。それに水越さんとも連絡取ったからな、何か手掛かりを掴んだら直ぐに連絡する。お前も気を付けろよ千歳」

「了解。それと、獅子ヶ町のセントラルタワーに碧木が向かった。絶対中に入るなと伝えてあるけど、どうも嫌な予感がするんだ」

「碧木……お前が話していた例の子か。一真と一緒にいたという被害者女性の」

「ああ。母親と一緒で肝が据わっているというか頑固というか。苦労するんだよ」

「お前程じゃないと思うけどな。まぁなんにせよ、お前の勘が働いているなら注意しておこう」

「頼んだ。こっちはもう避難始めるからよ」


 電話を切り、俺はシティホテルの中へと入って行った。


 外もさることながら、ホテルの中にも人が大勢いた。今いる1階のロビーだけでもそこそこ。シティホテルなんて誰でも知ってる全国にあるビジネスホテルだからな。スーツを着たサラリーマンや子連れの家族に年配の人達まで。一瞬でも爆破のイメージが過るとゾッとする。


 あの時と同じ。見ているこの日常の光景が当たり前過ぎて、自分に起こっていることが現実なのか分からなくなる。


 さあ、ソサエティ。

 今日こそ決着をつけようか――。

 

 俺はシティホテルにいる人々を避難させた。


♢♦♢


~獅子ヶ町・セントラルタワー~



「――皆さん! 慌てなくても大丈夫です! 落ち着いて私達の誘導に従って下さい!」

「碧木刑事。今、他の者達も向かって来ていますので、引き続き避難を続ける様にと本部から連絡が入りました。くれぐれもパニックが起きない様にと」

「分かりました」


 ――プルルルルッ……プルルルルッ……。

「はい碧木です」

「そっちはどうだ?」


 シティホテルの避難が始まり、続々と警察が集まって来ていた。俺は避難誘導しながら、セントラルタワーの状況を確かめるべく碧木に電話を掛けた。


「今丁度避難し始めた所です」

「そうか。中に入るなよ。他の警官達もなるべく中に入れない様にな」

「分かってます。黒野さんも絶対に無茶はしないで下さい」

「ああ」

「ここに爆弾が仕掛けられているなんて、未だに信じられません」

「俺も同じだよ。心のどっかで嘘だという事を願ってる。それでも、現実はしっかり受け止めなきゃいけない」

「そうですね……。また何か変化があり次第直ぐにッ……「――すいません!お巡りさん!」


 電話越しに誰かの声が聞こえてきた。


「子供とッ、子供とはぐれてしまったんです! 直ぐに探して下さい!」 


 どうやら避難中に子供がはぐれて迷子になってしまったらしい。


「大丈夫ですよお母さん。お子さんとは何処ではぐれたか分かりますか?」

「8階の飲食店があるフロアです!」

「分かりました。少し待ってください。直ぐ無線で中にいる者に確認を取ります」

「お願いしますッ!」


 急に避難させられて、焦るなって言う方が無理だ。ましてや子供とはぐれるなんて余計困惑する。

 まだ繋がっていた携帯。俺は念を押して碧木に言った。


「大丈夫か? 確認取るだけにして絶対中には入るなよ」

「はい。大丈夫です。一旦切りますね。また直ぐに状況報告しますので」

「了解」



 俺はこの時、電話を切らなければとつくづく後悔した――。

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