6.愛だとか言って

 キシシシシ。

 奴らを狩るのは久しぶりだから、ウズウズするぜ。

 今夜はよっぽど月の光が明るいみたいだ。

 厚い雲を通して森の中をぼんやりと照らしてる。

 これなら暗視ゴーグルがなくてもいけるぜ。

 それは相手も同じだけどな。

 ジ。あと三十秒で目標と遭遇。

 オーケー、デイジー。

 全員の動きが止まる。

 頭上からほんのかすかにドローンのモーター音。

 近づいてくる足音。

 エルザとシルヴィアが目標に飛びかかる。

 口をふさぎ、地面に押し倒す。

 味方よ、安心して。

 少女はじっとしている。

 よし。いい子だ。

 オイ、ドコイッタ!

 マワリコメ!

 ミウシナッタジャネエカ、コノ、ノロマ!

 ナンダト、コノヤ――

 どさり。

 一人目。

 カレンがやったな。

 ドウシタ、ヘンジシロ!

 オイ、ナンカヘンダゾ!

 ナニガ!

 オレタチイガイニ、ダレカイル!

 遅いんだよ、間抜け。

 ヤルことしか頭にないからそうなるんだ、クズども。

 ヤバイゾ!

 アノウワサ!

 ズラカルゾ!

 別々の方角へ走り出したか。

 いいね。なかなかいい判断だ。

 隣でマヤがボウガンを構える。

 ジ。そうですマヤ。二時の方向に一人。

 ジ。ジャッキー援護を。

 私はナイフを抜くと低い姿勢のまま走り出す。

 ひゅん。

 矢が私を追い抜き、男の背中に刺さる。

 倒れた男にまたがり、頸動脈にナイフを突き立てる。

 ジ。エルザとシルヴィアはそのまま少女と一緒に。

 左の方でザザザザと、バロンの走る音。

 パン、パンと乾いた銃声。

 軍用犬ロボットに勝てるわけがない。

 悲鳴。

 ぐしゃり。

 頭蓋骨が砕かれる音は、何度聞いてもゾクゾクするな。

 キシシシシ。

 ジ。敵、バイタル無し。

 念のため私とマヤは死体の確認。

 なあマヤ、今夜はこいつらのキンタマのから揚げといくか。

 下品な冗談はやめろと、マヤに小突かれながら、私たちは集合する。

 少女は怪我もなく、汚染もしてないようだ。

 走り疲れたんだろう、ぐったりとしている。

 カレンがデイジーと交信。

 珍しく、カレンが戸惑っている。

 どうやらミシガンが古い端末でデイジーを呼び出したらしい。

 まったく、あのいたずらっ子め。

 それで、デイジーはなんて?

 絵を描いて?

 歌を歌った?

 ははは、なかなかやるじゃん。

 ん?

 どうした?

 なんか、心だとか、愛だとか言ってる?

 だ、大丈夫か、デイジー。

 まあ、AIだって、愛がほしいときもあるだろうよ。

 エルザが少女を背負う。

 歌か、いいな。

 デイジー、何歌ったのかな。

 なあ、帰ったら久しぶりにギグやろうぜ。

 曲は、そうだな。

 やっぱ、あれだろ。

 Cherry Bomb!

 ザ・ランナウェイズ最高!

 さあ、帰ろうぜ!

 いかした爆弾ども!

 チ、チ、チ、チ、チ、チ、チェリーボム!

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