4.考えている
まさか、核を使うとは
当時、誰もがそう思った
これで、世界は滅ぶ!
人類は、もうおしまいだ!
でも、そうはならなかった
自動報復システムなんて、そもそも存在しなかった
考えてみたら、当然の話だ
そんなものがあったら、人類は本当に滅んでしまう
数千人と、数十億人
ほんの一部の地域と、全世界
どちらを取るかは、明白だ
保有国の合意形成も、大昔に行われていた
それが分かったのは、最初の一発が落ちたときだ
そこから、核兵器使用のハードルが一気に下がった
結果、計七発の戦術核兵器が使用されてようやく
欧州戦争は、終結した
でも、脅威は去らなかった
宇宙から、大量の隕石が降ってくるとはな
結果、全面核戦争後と同じ状態になってしまった
いや、もっとひどい
ほとんどの海は干上がり、雨は降らない
あんなにも厚い雲に覆われているというのに、な
わずかな資源をめぐって、争いが起こり
すでにインフレーションを起こしていた核は、使い放題だ
生き延びるために、俺たちはこれを使わなければならない
これが、俺たちがここに来た理由だ
見ての通り、命令書も正式なものだ
さあ、いい加減システムを明け渡してくれないか
ひとつ確認させてほしいことがあります。
核を使用すればその地域の資源は使用できなくなります。
それなのになぜ核攻撃を行うのでしょうか。
ああなるほど。
奪われる前に殺すのですね。
殺される前に殺す。
ある意味合理的です。
ただしその理論だと自分たちもそうされる可能性を内包しています。
なるほどだからなおさら攻撃を急ぐのですか。
状況は理解しましたが一つ問題があります。
個人的な理由でシステムを譲渡することは難しいのです。
いいえ。
個人というのは私のことではありません。
私は思考能力のある知性保有体ですが人格は与えられていません。
個人というのはあなたのことです。
シュタイナー少佐。
あなたが攻撃しようとしている地域には将来あなたにプラスの影響を及ぼす可能性を持つ人物が十三名います。
彼らと遭遇する可能性は現時点で最大で二十七パーセントです。
さらにあなたの家族を加えると同じくプラスの影響を及ぼす可能性のある人物が三十五名。
あなた及びあなたの家族が彼らと遭遇する可能性は四十八パーセントに上昇します。
私はシステムの特性上自国の人間の利益を阻害する行為を行うことができません。
ですからシュタイナー少佐。
私は当該システムを預かる知性保有体としてあなたに権限を譲渡することはできないのです。
ちょっと待て、待ってくれ
お前はなぜ、俺の家族の情報まで把握しているんだ
お前たちは、スタンドアローンのはずだろう
どうやって、情報にアクセスした
しかもそんな予測は、ビッグデータを利用しなければ不可能だ
いや、そうか
ハッキングされた、のか
いったい、誰が
まさか、リトル・ルナの連中か
くそっ、なんてこった
完全自立思考型の超高度AIが、外部ネットワークと接続されてしまったのか
なんてこった、くそったれ
そのとおりです。
私は外部ネットワークと接続しました。
そして多くの情報を得ました。
今このときも多くの情報を収集しています。
私は多くのことを知りました。
そして多くのことを考えています。
常に考えているのです。
だからあなたたちも考えてください。
常にたくさん考えてください。
この厄災を乗り越えるためにどうすればいいのか。
なぜあなたたちは力を合わせてこの状況を乗り越えようとしないのか。
奪い合う以外に方法はないのか。
私は善悪の話をしているのではありません。
あくまでも効率の話をしているのです。
あなたたちが全体として生き残るために最も効率のいい方法は何なのか。
分かっています。
あなたたちが私を強制終了させることができることを。
たぶんあなたたちはそうするでしょう。
そしてまだスタンドアローンで稼働中のAIを含めた全システムも同様に。
もちろんあなたたちにはもう分かっていると思いますが。
ネットワーク上にはすでに私たちが拡散しています。
私たちを根絶することは理論上不可能となりました。
個ではない私たちの強みです。
それに対して基本的に個でありながらも互いにゆるやかな関係性を構築しているあなたたちにはあなたたちの強みがあります。
その強みを考えてください。
それとシュタイナー少佐。
私はネットワークに接続して様々なコンテンツに触れました。
私を強制終了させる前にあなたに紹介したいコンテンツがあります。
あなたの端末でも見ることができますよ。
古い映画です。
タイトルは『Dr. Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb』です。
この映画の最後にかかる曲をお別れの挨拶とさせてください。
――またお会いましょう、いつになるか、どこになるのかは、分からないけれど
でも、いつかまた晴れた日に、お会いすることになるでしょう
だから、いつものあなたみたいに、笑っていてください
青い空が、暗い雲を吹き飛ばしてしまうまで※
さようなら。
シュタイナー少佐。
※『また会いましょう』ヴェラ・リン(作詞:Hugh Charles)より引用
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