11.ドット絵の
今日はスコアの伸びが悪いな。
好きなプログラムなんだけど。
右、撃墜。
これでようやく十機目。
さっきから照準が少し左にズレてる。
そうか。
あの赤色矮星の重力の影響を受けてるんだ。
設定が細かいな。
リリィめ、味なまねを。
敵の母艦から大量の迎撃機が上がってくる。
ものすごい数だ。
これだけ多いと逆に有利だけど。
乱戦になれば、相撃ちを恐れる。
クロスファイアは、ほぼないはず。
一気に懐へ飛び込む。
ピケットライン突破。
よし、入った。
照準を修正。
十五機目。
集中力が上がっていく。
二十機目。
スコアが跳ね上がる。
抜けた。
浮遊砲台を友軍機が叩いていく。
こいつの軽い火力では歯が立たないから、任せるしかない。
残った味方は五機か。
やっぱり今日もいるな、ショーティ。
ぴったり後ろについてる。
母艦からの弾幕。
を、かわしながら曳光弾を使う。
さあ、あそこにぶち込んでやれ、ショーティ。
離脱。
ショーティの放った光子榴弾が母艦の反応炉を直撃したのを確認し、帰投コースにつく。
このあとは、地上部隊に転属して部下を育成するプログラムがあるけど、今日はここでログアウトする。
シャワーと着替え。
休憩室のいつもの席。
モニタ越しの地球。
ポン、と肩を叩かれる。
ハイ、ショーティ。
イヤーデバイスに手を触れ、曲を止める。
ああ、これ、KEN ISHIIの『jelly tones』。
マコトのアーカイブはやべえよ。
そ、さっきもずっと聴いてた。
やっぱ、戦闘系のプログラムにはテクノだな。
いやだって。
オペレーターの指示なんてトロくてさ。
聞いてられないって。
ふふ。
あ。
また光った。
あいつら、どんだけ核を使う気なんだ。
なあ、知ってるか。
地球にどれだけ核兵器があったのか。
一万五千発だとさ。
いや、公表数字は一万だったんだけど。
廃棄したって言って、でも実際はされてなかったやつが相当あったらしい。
ほんと、どんだけ――。
あ、まただ。
あいつら、全部使い切るつもりなのか。
なあ、バカなのか、あいつらは。
ああ、分かってるよ。
俺たちが特別だって思っちゃいけないんだろ。
それは分かってるけどさ。
俺たち、軍事行動や戦争の歴史を学んで。
それだけで十分愚かなことだって知ってるじゃん。
そんな無益なことしてどうすんだよって。
ふうん。
そんなもんかね。
じゃあ、あの噂も本当かもな。
ああいう、戦闘系のプログラム。
あれって、俺たちの闘争本能を発散させるためにやってるって。
まあ、言ってみればあれだ。
マスターベーション――って。
うわ。
なんだよ、マリア。
びっくりさせんなよ。
な、なんでもねぇよ。
いや、違うし。
真面目な話だし。
なあ、ショーティ。
ああ、そうか。
じゃあ、またな、ショーティ。
なんだよ。
あいつに用事じゃなかったのかよ、マリア。
だって、あいつ女子にモテるからさ。
知らねえぇよ。
本人に聞けば?
じゃ、俺も――。
え?
勝負?
俺と?
なんで?
いや別にいいけど。
午後にもゲーミフィケーションのプログラムがあったな。
確か、ファンタジー系の。
ああ、まあ。
分かった。
じゃあな。
ったく。
なんなんだ。
しかし、あいつ。
俺が戦闘系のゲーム専門だと思ってるんだろうな。
ふん。
もともと俺はファンタジー系RPGガチ勢なんだ。
しかも、アーカイブから昔のTRPGを掘り起こし、リリィを相手にプレイしたことがあるんだぜ。
もちろん、D&Dだ。
AIにゲームマスターと他のプレイヤーを担当してもらってTRPGやるって、なんか根本的に間違ってるような気がしたけどな。
でもそれはそれで楽しかったな。
それからは昔のゲームをやりまくった。
ウルティマ。
ウィザードリィ。
ローグ。
そして、NINENDOの8ビット。
不思議なものでさ。
フルダイブ型MMORPGをクリアしたときよりも、あのドット絵の古いゲームをクリアしたときの方が感動が大きかった気がする。
なんでだろうな。
そういうことを、先生たちやリリィは教えてはくれないんだよな。
それって実は、結構大事なことなんじゃないかって思うんだ。
今度、マコトに聞いてみよう。
午後のゲーミフィケーションはファンタジー世界を舞台にした国家運営シミュレーションだった。
戦略系も得意分野だ。
でもマリアのやつ、こんなのやったことあるのか。
と思っていたら、案の定。
ゲーム中盤で、部下が報告に来た。
隣国の女王が単身で乗り込んできたので捕縛しました。
まじか。
大げさな甲冑姿のマリアが、ガチャガチャ鳴らしながらやってきた。
なんかあちこち焼け焦げて、ボロボロなんだけど。
いや。
お前自身が戦ってどうする。
魔法剣士のレベルカンストとか知らんし。
っていうか、なんでそんな機能があるんだ。
っていうか、それでもやっぱり負けるんだ。
城には今、精鋭部隊が常駐してるからな。
いやだから。
それ、ファンタジーじゃないから。
そういうの。
魔王とか勇者とかが出てくるのはファンタジー的世界じゃなくて、RPG的世界だから。
そんな、魔王が世界を支配してとか、勇者さま一行がそれを倒してとか。
そんなのリアリティが求められる世界ではあり得ないから。
いや、そんなに落ち込まなくても。
ま、そういうのも嫌いじゃないけどな。
結局俺たちは途中で退場。
ログアウト。
休憩室のいつもの席。
モニタ越しの地球。
向こうは夜だな。
今は核の光も見えない。
今度はショーティとも一緒にやろうぜ。
あいつもめっぽう上手いからさ、ゲーミフィケーション。
あと、教えるの俺よりも上手いし。
ああ。
なあ。
俺たちもさ、あそこにいたら、あんなことするのかな。
あんな状況になっても、力を使って、奪い合ってさ。
殺し合ってさ。
うん。
俺も。
俺も、分かんない。
いや。
楽しかったよ。
ほんと。
うん。
じゃあ、またな。
マリア。
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