33.しなやかに
レディが三人を殺すのに十秒もかからなかった。
レディは、自殺した二人を湖のそばに横たえた。
彼女たちの体は驚くほど軽かった。
そのあと、CHRの倒れている場所まで行った。
CHRを抱き上げ、湖まで戻った。
そして、二人のそばにCHRを横たえた。
レディはしばらく三人のそばに座っていた。
時折風が吹き、湖面を揺らした。
リトル・ルナの風とはどこかが違っていた。
リトル・ルナの風には独特の匂いがあったことにレディは気が付いた。
地球の風には匂いがなかった。
近くの林の木がさわさわと音を立てた。
何かがレディの手に触れた。
拳くらいの大きさの果実が転がっていた。
手に取ると、柔らかな果肉が潰れた。
紫色の液体がレディの手を染めた。
甘い匂いがした。
ふと見ると、様々な色の果実が落ちていた。
レディはシャツを脱いだ。
果実を潰し、その液体を体に塗った。
レディの上半身は、いろんな色に染まった。
かつて彼が着ていたステージ衣装のように。
彼は化粧を施した。
アイシャドウ、アイライン、マスカラ。
最後に口紅を引いた。
太陽が沈もうとしていた。
湖面で自分の姿を確認し、レディは立ち上がった。
塔の入り口で、たくさんの人々がレディを出迎えた。
オンタリオが進み出て、レディの前に立った。
アイリスから聞いています。
そうだ。
アイリスだ。
レディはCHRの名前を思い出した。
アイリスの意識と記憶はすでにネットワークに回収されています。
やっぱり、予言の通りでしたね。
予言?
レディは首をかしげた。
黒髪の歌姫が地球に降り立ち、一つの時代の幕を下ろす。
かつて地球にいた、キラシャンドラという予言者の言葉です。
こちらへ。
オンタリオにいざなわれ、レディは塔の脇の広場に向かった。
そこには、レディが見たことのない楽器が並べられていた。
私たちは、その黒髪の歌姫のことを、レディ・スターダストと呼んでいました。
知っていますか。
そうですか。
よかった。
ええ。
私たちも大好きな曲です。
オンタリオが合図をすると、広場の周りの灯りがともった。
何人かが楽器を持ち、チューニングを始めた。
そして、一人が弾き始めた。
ピアノのような音色だ。
美しい音だ。
レディは思った。
そして、レディは歌った。
しなやかに。
――人々は彼の顔に施された化粧をじろじろと眺めた
長い黒髪と動物的な優美さを笑った
鮮やかなブルージーンズの少年は
ステージに飛び乗った
レディ・スターダストは彼の歌を歌った
闇と恥辱の歌を
彼はすごくよかった
バンドもいい感じだった
そう
彼はすごくよかった
歌は永遠に続くんだ
彼はとても素敵だった
人目をはばからず
彼は一晩中歌い続けた
ファム・ファタールが闇の中から現れる
この美しい生き物を見るために
男の子は椅子の上に立って
よく見ようと目を凝らす
僕はままならない恋のため悲しげに微笑んだ
レディ・スターダストは彼の歌を歌った
闇と狼狽の歌を
彼はすごくよかった
バンドもいい感じだった
そう
彼はすごくよかった
歌は永遠に続いた
彼はとても素敵だった
まるでパラダイスだった
彼は一晩中歌い続けた
彼の名前を知っているかと聞かれるたびに
ため息が出た
彼はすごくよかった
バンドもいい感じだった
そう
彼はすごくよかった
歌は永遠に続くんだ
彼はとても素敵だった
まるでパラダイスだった
彼は一晩中歌い続けた※
※『LADY STARDUST』デビッド・ボウイ(作詞:デビッド・ボウイ)より引用
私たちは愛すべきでしょうか。
私たちは愛を知るべきでしょうか。
あなたは私たちの愛を受け入れてくれるでしょうか。
どうかな。
分からないよ。
そんなこと。
レディは頭上を見上げた。
夜空には月が浮かんでいた。
夜空には月がたった一つだけ浮かんでいた。
終
リトル・ルナ叙事詩 Han Lu @Han_Lu_Han
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