どしたの、いきなり何のマニュフェスト? って思いますよね。ええと。ここ十年以上ずっと漠然と感じていたことが、この数週間ではっきりとした形を伴って表出して、なるほどと納得すると同時に、これは想像していた以上にマジでヤバイなと思い、曲がりなりにも不特定多数に向けて文章を書いている一人の人間として(例え読んでいる人がほんの僅かであっても)、きちんと今の気持ちを表明しておきたいと思った次第です。
2022年7月8日、安倍元首相が街頭演説中に暗殺されました。犯人の自供から、犯行動機は政治的なものではなく、個人的な恨みが理由であることが判明。ではその恨みとは何なのか。犯人の母親は旧統一教会(現世界平和統一家庭連合、以下、ややこしいので統一教会と記述)の信者で多額の寄附を行う(1億円と言われている)ほどのめり込み、当然ながら家庭は崩壊、報道されている断片的な事実だけを見ても、それは壮絶なものだったようです。人生を狂わされた統一教会への恨みを、統一教会と深い関係にあった安倍元首相に向けた、というのが現時点での事件についての見方だと思います。
統一教会。それは数十年振りに聞く名称でした。それでもすぐに、ああ、あの、と思い出せたのは、一時期さかんに報道されていたからです。高額な壺を売りつける悪徳商法や、多額の献金、芸能人まで巻き込んだ合同結婚式など、当時そんな言葉は一般的ではありませんでしたが、それは明らかにカルト宗教で、その活動内容は常軌を逸していました。
そのような宗教団体に対して安倍元首相がビデオメッセージや祝電を送っていたことや、多数(一部報道によると約100名)の自民党議員が様々な形で統一教会と関わりを持ち、統一教会は選挙協力という形で自民党に対して支援を行っていたということが、明らかになってきました。そんなことは、ここ数十年間まったく報道されてきませんでした。
今(2022年7月25日)、この統一教会と自民党との関係に対する報道スタンスは、各メディアによって差があるように見えます。当初、どの局も統一教会について深く取り上げませんでしたが、ここ数日間でようやく、統一教会と自民党との関わりについて深掘りした報道を行う番組が出始めてきました。例えば、7月22日に放映されたBS-TBSの「報道1930」はかなり詳細に報道していて見ごたえがあります(地上波ではないのが残念ですが、Youtubeで見れます)。また、7月23日の「報道特集」など、TBS系列は地上波でも徐々に報道を始めたようです。
一方で、完全にスルーしている局もあります。特に顕著なのはNHKで、事件後しばらく統一教会という言葉すら、アナウンサーは発しませんでした。現在も私が知る限り、統一教会と自民党とのかかわりに関する報道は一切されていません。フジテレビ系列もそうですね(これは致し方ないかもですが)。
NHKが統一教会と政治の密接な関係を報道しないのは、どう考えても不自然です。おかしいですよね。これだけはっきりとした事実があるのに。人道的金銭的な被害をもたらしている反社会的集団と言ってもいい団体と、政権を担っている政党の、しかも元首相が(その祖父の代からですけど)深くかかわっている。そのことに報道番組が一切触れないということは、何か特別な理由があると思われても仕方がないでしょう。語らないということが、逆に何かを雄弁に表すことになる、それを痛感しました。
このような動きとは別に、数年前から気になっていることがあります。主にSNS上で、「〇〇に政治を持ち込むな」という言葉をよく聞くようになりました。「音楽に政治を持ち込むな」「フジロックに政治を持ち込むな」「スポーツに政治を持ち込むな」「アートに政治を持ち込むな」など。いちいち細かく取り上げませんけど、ここは惜しくも先日亡くなられた素晴らしいコラムニスト小田嶋隆さんの言葉をお借りしておきます。「あらゆる表現は、余儀なく政治的だということです」。
さて、これら「〇〇に政治を持ち込むな」というなんとも愚かで、なんとも気持ち悪い論調は、ここ数十年間の日本を覆う空気と非常にマッチしている気がします。その数十年間とは、いわゆる失われた三十年であり、さらにここ十年くらいでより顕著になっていると感じます。
では、昔はこんなことはなかったのか、と言うと、こんなことはなかったのです。昔は様々な表現に、普通に政治的なメッセージが込められていました。これもいちいち挙げませんけど、もしかしたらその最後は「ザ・タイマーズ」なのかもしれません。また、海外では比較的アーティストが政治的なメッセージをオープンに発信している傾向にあります。先日アメリカでは中絶が違法だとする連邦最高裁の判決が出ました。この、時代に逆行する異常な判決に対して、すぐさま多くのアーティストが異議を表明しています。ビリー・アイリッシュ、テイラー・スイフト、ジェーンフォンダ、アリシア・キーズ、ピンク、ベッド・ミドラーなど。彼女たちは非常に有名な歌手や俳優たちで、その発言の影響力は小さくはないでしょう(もちろんそれだけで事態は好転するわけではないですが)。では今の日本で同様なことが起こった場合、誰か声を上げるアーティストはいるでしょうか。
私たちはいったい何に気を遣っているのでしょう。私たちは何を恐れているのでしょう。
ここ最近の報道が正しければ、自民党が政権を取り戻し、第二次安倍内閣が発足して以降、彼らはカルトの力を借りた政権の維持を行ってきたことになります。さらに問題なのは、選択制夫婦別姓や同性婚合法化などへの後ろ向きの政策が、統一教会の教義と合致していることです。実はこのジェンダーに対する保守的な動きは統一教会だけでなく、他の宗教右派とも関係が深いようなのですが今は割愛します。そしてさらに加えて、先ほど挙げた、「〇〇に政治を持ち込むな」という空気が醸成されてしまっている。それが今この国で起こっていることだと思います。
とはいえ、自分が何をどうするか、そこまではまったく考えておらず、かといって、やはり何もしないわけにはいかず、とにかく何か書いておかなければ、と思ったのでした。特に結論めいたことはありませんけど、最後に、これもまた他人の言葉になりますけど、マーチン・ルーサー・キング牧師の言葉を書いておきます。「最大の悲劇は、悪人の圧制や残酷さではなく、善人の沈黙である」。
でも次の国政選挙まであと3年もあるんだよね。