これまでの清算


「お前から顔を出してくれるだなんて珍しいな。とりあえず上がってくれ!」


 俺は"元"漆黒の騎士団のリーダー:ノワルの家を訪れていた。


 ノワルをリーダーとした漆黒の騎士団は、一年前にジャガナートの亡者を取り逃すという、重大なミスを犯した。

結果、漆黒の騎士団の信用は地の底に落ち、解散状態にまで追い込まれた。


 今、ノワルは元メンバーのヘイスアと同棲をしつつ、細々と冒険者稼業で生計を立てているらしい。


「白銀の騎士団の噂はよく聞いているよ。稼ぎもいいんじゃないか?」


「お陰様で。実は今、王家から直接依頼を請け負ってね」


「そうか……順調なんだな……」


 きっと、こいつは今でも俺を追い出したことを後悔してるんだろう。

逆に俺はノワル達から追放されたおかげで、人生が開けてきた。


「俺のこの仕事を手伝ってくれないか?」


「!? ほ、本気か?」


 そりゃ、昔追い出した相手に、こういう話をされりゃ、驚くわな。


「冗談を言うためにわざわざ来たりしないって。これでもノワルの実力はわかっているつもりだよ」


「……」


「お前はこれまでたまたま運が無かっただけで、実は凄い奴だってのはわかっているからさ!」


「アルビス、お前……ううっ……ありがとう……!」


 ノワルは唇を噛み締め、涙を流し始めた。


 こいつが根っからの悪人で無いのは十分承知をしている。

だからこそ、同郷出身者として再起してほしい。その思いだった。


「んじゃ概要を伝えるよ。最初に言っておくけど、これはかなり危険な依頼で、絶対に失敗は許されない。だから、その上で参加可否を決めてほしい」


 この後、ノワルは危険を承知の上で、恋人のヘイスアと参戦してくれると答えてくれた。

元漆黒の騎士団のメンバーへも声をかけてくれるらしい。


ーーとりあえず、数年もかかったけど、ノワルとの関係はようやく修復できたようだ。


 心残りの一つはこれで片が付いた。


 俺は手紙を書くために城へと戻ってゆく。

北の大地のラスカーズと、東の山のシルバルさんへ送るためだ。

 

 

●●●



 ラスカーズへは近況報告と、レオヴィルのことを綴った。

本人がなんと言おうと、どれだけ強かろうとも、彼女はラスカーズの妻の一人で、北の大地の重要な人物だ。


 一時は了承したけど、やっぱり彼女を一緒に連れてゆくわけには行かない。

だから、早く迎えに来てほしいとしつこい位に書き込んだ。


 次の筆を取ったのは、東の山で未だに治癒院を営んでいるシルバルさんへだ。


 酸いも甘いも、色々な経験させてくれたあの人へは、まず、レリックのおかげで色々と助かった旨を綴る。

今後はシグリッドと、できればドレことも一緒に面倒を見てくれると嬉しい旨を書いた。

そしてこれまでのレリックの使用代金としての小切手を挟み、封蝋を打つ。


ーーこれで大きなものを残せば、憂いはなくなった。

まぁ、こっからが本番なんだけど……


 俺は意を決してシグリッド ドレ、レオヴィルを集めた部屋へ向かっていった。


……

……

……



「何言ってるの!? 馬鹿じゃないの!?」


 予想通り、レオヴィルには怒鳴られた。


「嫌だよ、そんなの! もう絶対に離れないって言ったじゃん!!」


 ドレは涙まじりにそう叫ぶ。


「お兄ちゃんは、私たちの力を信じてくれてたんじゃないの……?」


 シグリッドは嫌に静かに、そして寂しそうに言ってきた。


 反応の仕方はそれぞれだった。

だけど一様に、俺の下した判断には反対の様子だ。


「……色々と考えた結果、やっぱり君たちと一緒に行くのは無謀だと思ってさ!」


 俺はできるだけ大きな声でそう告げた。

3人に口を挟ませないためだ。


「一年も一緒にいてやっぱり3人とも、まだまだって思ったんだよね。だから、改めて今回の依頼には連れて行けないっておもったし、それじゃいっそのこと"白銀の騎士団"は解散しちゃおうかなってね! ごめんね!」


 結局、色々と考えた結果、こういう言い方をするしか浮かばなかった。


 今回の依頼は本当に危険だ。それに万が一の判断もある。

勿論、3人がいれば作戦の成功率がグッと上がるだろう。

だけど、その"万が一"を彼女達には見せたく無かった。

見せてしまえば、きっと傷つくからだ。

その一心で、俺は"白銀の騎士団"の解散宣言をし、今に至る。


「特にレオヴィル! 貴方はもういい加減帰ってって! 今の自分が北の大地の王家の一員ってことを忘れちゃダメだって! ラスカーズには早く迎えにくるよう手紙を送ったからな!」


「なに勝手なことを……!」


 レイヴォルは今にも殴りかかってきそうな視線を向けてくる。


「そういや最近、南の荒野がまた無法者で荒れてるらしいじゃん。結構、大変なことになってるらしいよ? だからドレも、いつまでもふらふらしていないで、イーストウッドタウンに戻ってみんなを助けた方が良いんじゃないかな?」


「っ……」


 ドレは顔を俯かせたまま、何も答えない。


「シグリッドもさ、せっかく聖光の魔術師になったんだから、もっとちゃんと勉強とか経験を積んだ方が良いって。勿体無いって!」


「……それ本気で言ってる?」


 シグリッドの鋭い眼差しに、俺は一瞬怯み負けた。

だけど気持ちを立て直して、


「勿論本気だって! 今まで本当にありがとう! これ少ないけどこれまでのお礼ってことで! 喧嘩せずに3人で仲良く分け合ってね! それじゃ!」


「お兄ちゃんっ!」


 宝石に変えた全財産を机の上へ置いた。

 そして脇目も振らずに、部屋を出てゆく。


 誰か一人ぐらいは追いかけてくると思っていたけど……それはわがままというものだ。

第一、一方的で、最低最悪な別れ方をしている自覚はある。


 だけどこれで良かったんだと思うことにする。


 最悪の場合、俺は3人をひどく悲しませてしまうからだ。

 だったらこういう別れ方をした方が彼女達の心のダメージは少なくて済むはずだから。


……本当にありがとう、シグリッド、ドレ、レオヴィル……

どうか幸せに……


 これで全部清算は済ませた。


 あとはことへあたるのみ!



●●●


 数日が経った。


 素直に俺のいうことを聞いてくれたのか、3人は姿を綺麗さっぱり消し去ってくれた。


 俺は少し寂しさを抱きつつ、ノワル達と合流し、集合場所である西の果ての国の王城へ向かってゆく。

そしてすぐさま目に止まったのが、城へ横付けされている長くて巨大な"魔列車"だった。


 レールもなしで、こんなでかいものをどうやって、ここまで運んだんだろ?


「アルビス!」


 と、魔列車に見とれていた俺へ、弾んだ声が当てられる。

 脇からルウがこちらへ向け、駆けてくる。


「やぁ! 元気そうで良かったよ。今日はガッツリ、きっちり守るから安心しててね!」


「頑張る! 役目はちゃんと果たす……! みんなのためにも!」


 今のルウの宣言が空元気な気がした。


 もう二度と、ルウには今のような気持ちを抱かせたりしない。

 この子にふさわしいのは、外の世界を自由に飛び回る、明るい未来なのだから。



ーーかくして、西の果ての国主導の"魔王討伐作戦"が開始された。


 魔列車は魔法使い共が擬似的に生成したレールの上を滑ってゆく。

確かにこんな馬鹿でかい鉄塊が、物凄い速度で走りゃ、いくら魔物でも簡単には止められないだろう。


 進軍当初は、俺たちのようやルウの護衛団の仕事は無かった。

それほど魔列車の突破性能は群を抜いていた。


「ーーぐわっ!?」


 突然、車内が揺れたかと思うと、魔列車が急停止をした。


 警鐘がなり、俺はノワル達と共に車外へ飛び出してゆく。


「これは……!?」


 真っ先に目に止まったのが、寸断された擬似レールだった。

レールを生成していた魔法使い共も血を流しながら倒れている。


「聖騎士レギン……あいつも亡者に……」


 護衛団の一人がそう声音を震わせる。

 寸断されたレールの向こうから、強い邪気をまとった鎧騎士がこちらへ向かってきている。

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