最終章 西の果ての国と魔滅の巫女

3人目の恋人!?



「白銀の騎士団さんじょー!」


「あのさ……シグはそうやっていつも名乗りを上げてるど今朝、亡者には人の言葉なんてわかんないんだよ?」


「ふふん! これは雰囲気作りなのだよ、ドレくん。お兄ちゃんもそう思うよね!?」


 急に振られて困ってしまった。

更にドレからは明らかに"良い加減なんとか行ってやってほしい"的な視線が向けられている。


「KAHA AAA!!」


 しかし敵であり"亡者"達はお構いなしに攻め寄せてきた。


亡者とは、ここ一年で広大なる大陸に大量発生している、死者が魔物になった存在だ。

どうやら、この現象は魔王の手によるものらしい。


 かくして、俺たち『白銀の騎士団』は日課である、亡者の掃討戦を開始するのだった。


『白銀の騎士団』ってのは、別に俺たちが名付けたパーティー名じゃない。

どうやら俺の髪色を見て、周りが勝手に俺たちのことをそう指し始めたのだ。

まぁ、なんかカッコいいし、このパーティー名を使うと色々便利だから利用させてもらっている。


「シグ! アルさんのバックアップを!」


「了解っ! 背中はドレに預けたよ!」


 この一年で、シグリッドとドレは随分仲良くなった。

正直なところ、二人を同時に恋人として迎えることに多少の不安はあった。

だけど無用な心配だった。


なぜなら、シグリッドとドレは時間を分配することで、上手くやっているからだ。


「お兄ーちゃん!」


「おわっ!? なんだよ、シグリッドか」


 拠点としている屋敷の書斎で作業をしていると、後ろからシグリッドが抱きついてきた。


「なんだよってなによー。私じゃ不満?」


「まさか。驚いただけだって」


「ねぇねぇ、お兄ちゃん……」


「はいはい」


 甘えてくるシグリッドの頬と髪を撫でてやった。

シグリッドは気持ちよさそうに身を委ねている。

俺も二日ぶりにシグリッドの感触や、反応を楽しんだ。


「ドレー! そこで何してんのー? 今日からは私の番なんだよー」


「はひっ!」


 短い悲鳴が聞こえた。

ややあって、顔を真っ赤に染めて、やや呼吸を荒げているドレが顔だけをみせてくる。


「ご、ごめんね、シグ。二人の声が聞こえたからつい……」


「昨日まではドレの番だったから、空気読んで自粛してたんだよ?」


「ごめん! ほんと……」


「もう……まぁ、久々にそうするか……どうかな、お兄ちゃん?」


 シグリッドは妙に甘い声で、そう囁いてきた。

 今夜中に仕上げなきゃいけない書類があるんだけど……そうは思えど、俺もまだ若い。


「ドレ、おいで。シグリッドもオッケーだってさ」


「は、はいっ! よっしゃぁ……!」


 嬉しそうな顔をしたドレが飛び出してきた。

少し服が乱れているのは、敢えて指摘しないでおいた。


 どういうサイクルかはわからないが、日々こうしてシグリッドとドレが交互に甘えてくる。

そしてたまには二人同時だったり。


 俺自身はほとんど休みなしなんだけど、あまり気にならない。

だって優秀で、その上愛らしいシグリッドとドレが、俺のことを欲してくれているんだから。

疲れたとかいう方が失礼だと思うし、実際こうして常に愛情を見せてくれる二人には感謝が絶えない。




 こんな感じで俺たち"白銀の騎士団は"、ここ一年西の果ての国を拠点とし、魔王の影響で、亡者となった死者と戦いを繰り広げている。世の中は大変なことになっているけど、俺たちは日常に限っては、仲良く楽しく過ごすことを心がけていた。


そんな日々が続いたある日の出来事。

この絶妙な関係のバランスに、大きな変化が訪れる。



●●●



「はぁぁぁーっ!!」


 ある日、いつものように森の中で、亡者の掃討戦を繰り広げていた時のこと。

突然、何者かが戦闘へ乱入してくる。

足技を主にした拳闘士らしい。

そして俺は、その鮮やかな身のこなしに見覚えがあった。


「久しぶりねアル! 一年ほど掛かっちゃったけど、約束通りあなたに追いついたわ!」


 しなやかに鍛え上げらえた身体にへ、動きやすそうな装備を装着した彼女は、相変わらずの強気口調で嬉しい言葉を投げかけてくる。


「まさか……レオヴィル?」


「ふふ、覚えててくれて嬉しいわ! あなたのご主人様、レオヴィル・ボルドーを改め"レオヴィル・ジュリアン"よ! さぁ、アル! 私へ付いていらっしゃい! 魔物なんて蹴散らすわよ!」


「お、おい! 待てって!」


 レオヴィルは一人で勝手に暴れ出し、俺はそんな彼女を追う。


「ねぇ、あの人って……」


「はぁ……そっかぁ……もう一人いたんだ……」


 シグリッドとドレはため息を漏らしていた。


……

……

……


「おほほ! これまで私の可愛いアルを守ってくれてどうもありがとう! 第二と第三夫人の方々!」


「だ、第二って……!!」


「シグの方が先だから、やっぱあたしが第三なのかなぁ……」


 戦闘終了後、レオヴィルは突然シグリッドとドレへ立ちはだかり、堂々とそう言い放つ。


「ドレ、落ち込んでる場合じゃないって! っていうか、あなたは何者!? "私の"ってどういう意味!?」


「私こそ、アルのご主人様で第一夫人の"レオヴィル・ジュリアン"よ!」


「ジュリアンって……もしかして貴方は北の大地のジュリアン王家の……?」


「まっ、私自身時期国王ラスカーズ・ジュリアンの第八夫人でもあるわね!」


「……お兄ちゃん、これどういうこと? ちゃんと説明してくれる?」


 シグリッドはこれまでに見たことのない、怖い目で俺を睨んでくる。


「あ、あたしも詳しく知りたい!」


「さぁ、アル教えて差し上げるのよ! 貴方と私の馴れ初めを!」


……馴れ初めって……凄く誤解を生みそうな言い方だった。

とりあえず俺はシグリッドとドレへ、レオヴィルとは北の大地で出会いしばらくハンターとして雇われていたことや、彼女のラスカーズのことなどを話して聞かせた。


「アルさんって、色んなところで女の子に手を出してたんだね……やっぱりあたしが一番地味だから三番目……」


 ドレは膝を抱えて落ち込み出し、


「はぁ……お姉ちゃんやドレのことがあるからもしかしてとは思っていたけど……」


 シグリッドは深いため息を吐きつつ、そう言った。


「何をお二人とも落ち込んいるの? アルのような素敵な殿方には、恋人の一人や二人がまとめて一緒にいても良いじゃない! ねっ? アルもそう思うわよね!? っていうか、既にこうして第二、第三夫人も連れている訳だし!」


 相変わらずレオヴィルは押しが強く、豪快だった。

いつもは気持ちの良い性格だと思うけど、今はこれだとちょっとマズイ。


「お、俺が恋人とかはとりあえず脇へ置いておいて……ラスカーズのことは良いのかよ?」


「ふん! 問題ないわ! ちゃんと婚姻も済ませてきたし、アイツからの許可も取り付けているわ! だから合流に一年も掛かったたんじゃない!」


 レオヴィルは俺へジュリアン王家の封蝋が撃たれた手紙を突き出す。

差出人はあろうことか、ラスカーズ。

 驚いて内容に目を通すと、半年後に北の大地で開催されるお茶会までは、レオヴィルを預かってほしいことと、その間無鉄砲な彼女を守ってやってほしいという旨が記載されている。


 どうやらラスカーズは、すっかりレオヴィルの尻に敷かれてしまっているらしい。


「読み終えたわね? そういうことだからよろしく!」


「よろしくって……」


「その話ちょーっと待ったぁ!」


 と、いきなり大声を上げたのはシグリッドだった。


 まさかこのまま修羅場に突入してしまうのか!?

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