白銀の騎士団入団テスト!?
「私も恋人うんぬんはとりあえず傍に置いておいて……つまり、レオヴィルさんは、私たち白銀の騎士団に入団したいと? そういうことで良いんだね?」
「そういうことになるわね!」
シグリッドの問いに、レオヴィルは清々しい返事を返す。
するとシグリッドはレオヴィルへ向かって思い切り杖を突き出した。
「なら入団テストを受けてもらうよ! 貴方がお兄ちゃんにとって役立つ人かどうか!」
「ふふん、面白い! そのテストとやら受けさせてもらうわ!」
「オッケー! なら広い場所へ移動しましょ?」
「そうしましょ!」
「お、おい!」
俺の静止も聴かず、シグリッドは転移魔法を使って、レオヴィルと共に姿を消した。
「跡を追うぞ! って、いつまでも落ち込んでないで! 別に俺、ドレのことを第三者夫人とか思ってないから!」
「本当!?」
ずっと膝を抱えたままでいたドレは、元気よく立ち上がる。
俺はシグリッドの転移魔法を物真似し、ドレと共に跡を追った。
……
……
……
どこだかよくわからない広い、広い空っ風が吹き荒ぶ荒野。
そこでは既にシグリッドとレオヴィルが睨み合っている。
張り詰めた空気に思わず息を呑んでしまう。
……やばい、これはシグリッドとレオヴィル、どちらも本気だ……
「ドレ! 銃で開始の合図を! 公平を記すために!」
「ふふん、良い度胸ね。ハンデを差し上げても宜しくてよ?」
レオヴィルは煽るような言葉をシグリッドへ投げかける。
しかしシグリッドは若くても、偉大な聖光の魔術師だ。
そんな言葉などには微塵も惑わされていない。
きっと俺がダメだと言っても無駄なんだろう。
だったら二人の思う通りにやらせるしかないと思った。
「じゃ、じゃあ、二人とも行くよ!」
ドレが銃を掲げた。
レイヴォルはすきの無い構えをとり、シグリッドからは強い魔力の気配が生じる。
そして緊張の糸を切るかのように、ドレの銃が音を上げる。
ーー先に飛び出したのは、レオヴィル。
そんなレオヴィルへ向けてシグリッドが杖を突きつけた。
瞬間、無数の火球がレオヴィルへ襲い掛かる。
しかしレオヴィルは走りつつ、飛んだり跳ねたりして、全ての火球を回避してみせた。
それでシグリッドはレオヴィルへ向かって火球を放ち続けている。
刹那、シグリッドの正面からレオヴィルの姿が消える。
気がついた時にはもう、彼女の頭上には足を突き出したレオヴィルの姿があった。
「ーーっ!?」
シグリッドは足元へ風魔法を発生させ、滑るように後退する。
さっきまで彼女が立っていた場所を、レオヴィルの足が深く抉っていた。
……すっげぇ、破壊力。てか、どう鍛えたらあんな細身で、あんな足技が放てるようになるんだ!?
俺の驚きも束の間、レオヴィルは美脚で地を蹴り、シグリッドとの距離を詰めてゆく。
「あああああー!!」
突然、シグリッドが獣のような悲鳴を上げた。
杖を空高く掲げる。
雲一つない青空が、まるで塗りつぶされるように曇天へ変化してゆく。
そして激しい稲妻の数々が、レオヴィルを狙って降り注ぎ始めた。
そんな中、何故かレオヴィルは立ち止まる。
軽銀に覆われた両足を輝かせ始める。
レオヴィルの銀色に輝く足が、降り注いできた激しい稲妻を蹴り飛ばした。
レオヴィルに蹴られたことで稲妻から、雷球(サンダーボール)へ無理矢理変換されたソレがシグリッドへ襲い掛かる。
シグリッドは一才動じた素振りを見せず、雷球をひらりと避けてみせた。
曇天の下、雷球が辺りの岩を粉々に砕く。
更に稲妻が地面を抉り、砂塵を巻き上げる。
常人離れした戦いは、拮抗状態のまま繰り返されてゆく。
さすがの俺も苦笑いを禁じえなかった。
「しゃぁぁぁぁ!!」
「わぁぁぁぁ!!」
レオヴィルとシグリッドが吠えた。
そして互いの距離を詰めてゆく。
「出た! シグの本気、仕込み杖っ!!」
ドレは興奮を隠しきれない様子でそう叫ぶ。
シグリッドが杖に仕込まれた、細身の刃でレオヴィルを蹴りを受け止めていたからだ。
シグリッドは光属性魔法で刃を輝かせ、レオヴィルへ、踊りのような動きで切り掛かってゆく。
さすがのレオヴィルも驚いた様子だった。
しかし彼女は接近戦に特化した拳闘士だ。シグリッドの鮮やかな剣捌きをものともせず、確実に受け流している。
シグリッドとレオヴィルの闘争は続いてゆく。
そのたびに互いの魔力が弾け、空気を震撼させてゆく。
さすがにこれ以上やらせてしまうと、後々面倒なことになりそうだ。
もう十分に俺もシグリッドも、レオヴィルの強さは分かったから、頃合いなのかもしれない。
しかし、俺のそうした判断は、一瞬遅かったようだ。
「うわー……やっぱ出ちゃったよ……」
ドレは周囲に発生した虚空を見て、面倒臭そうな声を上げた。
そして虚空から、魔物や亡者がうじゃうじゃと姿を現し始める。
ここ一年の活動で、虚空や亡者は強い魔力に反応して現れると調べがついていた。
どうやら今回はシグリッドとレオヴィルの力に惹かれて現れてしまったらしい。
闘争中だった二人も、周りに様子に気づいて互いの拳を引いた。
「行くぞ! ドレはシグリッドを!」
「分かった!」
俺は既に足技で亡者を薙ぎ倒しているレオヴィルへ駆け寄ってゆく。
……きっと、レオヴィルならシグリッドとドレのように受け入れてくれる筈。
俺はそう信じて、彼女の華麗な回し蹴りを真似て放った。
「あらまぁ! 私のところへ来るなんて賢明な判断よ! さすがはアルね!」
「なんかレオヴィルの足技をみてたら一緒にやりたくなってね!」
「ふふっ、嬉しいことを言ってくれるじゃない! ではアル! 二人の愛のパワーで亡者を殲滅しましてよ!」
俺とレオヴィルは亡者の群れへ突っ込んで行く。
一年ぶりのレオヴィルとの共闘は心が躍るほど楽しかった。
そして何よりも、レイヴォルの戦う姿はすごく綺麗で、生き生きしていると感じた。
だからこそもっと一緒に居たいと思った。
ラスカーズを初めて、シグリッドやドレには本当に申し訳ないと思うけど、これが俺の本音だった。
●●●
「……合格です、レオヴィル・ジュリアンさん。貴方を白銀の騎士団の一員として認めます」
戦闘終了後、シグリッドは地面へ寝そべっていた俺とレオヴィルのところへやってきてそう言った。
「どうもありがとうシグリッドさん。久々に思い切り運動ができて楽しかったわ!」
「……」
「あと、ええっと……ドレさんでしたか? 次は貴方とも手合わせ願いたいわ!」
「ええ!? あ、あたしですか? あたしはそのぉ……」
とつぜん、話題を振られてドレは動揺した様子を見せる。
そんな彼女の肩をシグリッドは叩いて見せた。
「行こう」
「あ、うん……」
「お、おい! 二人ともどこへ!?」
去ってゆくシグリッドとドレへ声をかける。
すると二人ははたりと足を止めた。
「レオヴィルさん! 今日はお兄ちゃんを貴方に貸してあげます! 久々の再会を十分楽しんでください!」
シグリッドは一方的にそう言い捨てて、ドレと共に転移魔法を使って姿を消した。
「ふふん、あの子、気が効くじゃない……」
レイヴォルはコロコロと俺の腕の上へ転がってくる。
「一年もまったんだから、その分私のことを楽しませなさいよ、アル!」
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