王宮招聘


「なぁ、シグリッド。なんでレオヴィルには入団テストなんて科したんだ? ドレの時はそんなことしなかったような?」


「ドレは元々、西岸事変の英雄って実績があったからね。でもレオヴィルさんは無名だし、本当にお兄ちゃんの役に立つかどうか試したんだよ」


「なるほどね」


 俺とシグリッドは拠点でお茶を飲みながら、会話を交えている。

そして揃って窓の外へ視線を移した。


「さぁ、ドレさん! あと100回よ!」


「は、はぁ……きっつぅ……」


「弱音を吐かない! 貴方、私達の中では近接線が一番弱いのだから!」


「も、もう、らめぇ……!」


 庭ではレイヴォルとドレがスクワットの真っ最中だった。

どうやらレイヴォルはドレのことを気に入ったみたいで、こうして毎日一緒にきつい訓練に励んでいる。


 そんな中、家の前へ馬車が止まった。

そこから立派な身なりの人たちが出てきて、玄関戸を叩いてくる。


「こちら西の果ての国の者だ! 白銀の騎士団! 王からの招聘である! 速やかに同行されたし!」


……なんだろう、こんな急に?

しかし国王の招聘とあらば逆らうわけには行かない。

俺は早速シグリッドたちを連れて、西の果ての国の王城へ向かっていった。



●●●



「面を上げよ。遠慮をすることはない」


 謁見の間に西の果ての国の王の声が響き渡る。

 ずっと傅いていた俺たちは、言われた通り頭を上げた。


「まずは其方ら、白銀の騎士団へここ一年の活躍に礼を言いたい。この国もさる事ながら、広大なる大陸を亡者共の脅威から守ってくれたこと大義である」


「ありがとうございます、陛下」


「そこでそのような功績がある其方らへ、直接依頼をしたい。これは四カ国連合からの依頼でもある」


 国王は兵へ目配せをした。

緞帳が開いてそこから、侍女に手を取られた、小さな女の子がやってくる。


 透き通るような白い肌、長い銀の髪、青い瞳のーーまるで上等な人形のように見える愛らしい少女だった。


「この者はルウ。魔滅の巫女であり、魔王討伐の我らの切り札だ。先日、調整を終え、万全な状態である」


 魔滅の巫女ルウは、ちょこんと俺達へお辞儀をしてみせる。

どこか無機質な印象を抱いた俺だった。

それに王の言った"調整"という言葉も気になる。


「近く、我らはこのルウを用いた、魔王討伐作戦を発動させる。そこで亡者討伐で実績のある其方ら白銀の騎士団へ、作戦中のルウの護衛を依頼したい。成功の暁には報酬は勿論のこと、広大なる大陸を救った英雄達として、全土を上げて祝福をしよう! 非常に危険な依頼ではあるが、どうだろうか?」


「ならば一つ質問を! この作戦が成功した暁には、全土に蔓延る亡者の問題には片がつくのでしょうか?」


「うむ。しかし失敗は国家存亡の、ひいては全土の全ての民の生命に関わる。故にこの作戦に失敗は許されない。だからこそ、其方らのような強き者の協力が不可欠なのだ」


これで亡者問題に決着がつけられるのだったら……きっと、俺が目標としている"あの人"ならば即決しただろう。

しかし……


「陛下、恐れながら決断まで少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか? 共に戦う仲間達の意見も聞いてみたいと思います」


「……良かろう。ならば部屋を与える。決断の時まで、城に滞在して貰う。それで良いか?」


「ありがとうございます、陛下。承知いたしました」


 俺は国王へ頭を下げたのだった。



●●●


「あー緊張したぁ!」


「あたしもずぅーっと膝がガクガク震えてたよ!」


「なによ、二人ともだらしがない! 私は何も感じなかったわよ?


 当てが得られた部屋へ着くなり、3人は一斉に緊張の糸を解く。


「ねぇ、お兄ちゃん、なんでさっき即決しなかったの? こんな大事、いつものお兄ちゃんならすぐに決断しているよね?」


「……とりあえず座ってくれ」


 着席し、俺は改めて3人を見据えた。

 さっきまで朗らかな顔をしていた3人も、真剣な表情に切り替わっている。


「正直にいう。俺は君たちをこの作戦に参加させて良いのかどうか迷っている。俺一人だったら迷わず即決していたんだけど……」


「私達の身を案じている。アルはそう言いたいのね?」


 レオヴィルが先に言ってしまった。


「ひ、酷い! アルさん、私達の力を信じてくれたんじゃないの?」


 ドレは少し寂しそうに肩を竦めた。

 

 彼女達の力を信じていない訳じゃない。

全員が、今や俺以上の実力を持っている。

そのことは十分に理解しているし、そう簡単にやられる訳がないとも思っている。

特に今回の依頼は、大陸の命運をかけた、非常に重要なものだ。

敵の猛攻なんて容易に想像できる。だから可能性はゼロじゃない。


「……お兄ちゃん。今、私すっごく嬉しいよ」


 するとシグリッドが笑顔を浮かべながらそう言ってきた。


「私たちのこと想ってお兄ちゃんは王様の依頼を即決しなかったんだね。それだけ私達って、お兄ちゃんに強く想われてるってことだよね」


「シグリッド……」


「でも、それってお兄ちゃんだけの話じゃないよ? 私達だって、同じ気持ちなんだよ? お兄ちゃんが私達を心配してくれているように、私達もお兄ちゃんのこと心配してる」


「……」


「このままじゃお話は平行線を辿っちゃうからさ……ねぇ、みんな?」


 シグリッドが目配せをすると、ドレとレオヴィルは強く頷いて見せた。


「今更危険だから降りろとか、そういうのは無しにしてよ! あたしはもう二度とアルさんと離れたくないから! 例えどんな危険な場所でも一緒に行くから! そうしても邪魔にならないようにあたしは強くなったから!」


 ドレの頼もしい言葉が胸へ染み入ってゆく。

感謝しかなかった。


「私もシグリッドとドレと同じ気持ちよ! ようやくこうして合流できたのだから、アルから離れるなんて真平ごめんよ!」


「……悪いけど、レオヴィルだけはどうしても……」


「私がラスカーズの第八夫人だからかしら?」


 相変わらずレオヴィルのは勘は鋭いと痛感した瞬間だった。


「もしも君に何かがあったらラスカーズに申し訳が立たないじゃないか……」


「そうね。もしも私に何かがあったら、アルは死刑になるかもしれないわね……だったらアル! 貴方は私を全力で守りなさい!」


「いや、だから……!」


「それに危なくなくなるようなヘマを、この私がすると思って? 私はあの、聖光の魔術師シグリッドと倒した逸材よ!?」


「倒されてないって! またレオヴィルは適当なことを……!」


「ま、まぁまぁ、シグもレオヴィルも落ち着いて!」


 ドレが間に入ると、シグリッドとレオヴィルは互いの怒りを収めた。

だいぶドレも二人の仲裁役が板についてきたな、と思った。


「……本当に良いんだね?」


 俺は改めて3人へ問い直す。

 3人は迷わず首肯をしてみせた。


「ありがとう! ならお互いにがんばろう!」


 これで問題の一つが解決した。

しかし未だに答えの見えない問題が一つ残っている。


「……お兄ちゃん、謁見中に私気になることがあったの」


「?」


「あのルウって子のことなんだけど、あの子から妙な魔力の波動を感じたんだよね」


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