最強の聖騎士レギン


「抜剣! 全員、その命に変えて巫女様をお守りしろぉー!」


 兵長は勇ましい声を放った。

それを受け、魔列車に乗り込んでいた多数の兵が一斉に、亡者となったレイヴへ飛びかかる。


 そして目の前に血の雨が降り注ぐ。


 レギンの大剣が、群がる兵を一網打尽にしたからだ。


 それでも西の果ての国の兵達は、叫び声を上げ、自分を鼓舞しレギンへ立ち向かってゆく。


……きっとこれがアラモの言っていた"異常な光景"なんだろう。

大陸を守るため、小さなルウのために、多くの兵士が命をかける。

ルウが重要なのもわかるし、守りたい気持ちは俺にもある。

だからこそ、こんなことは最期にしなきゃならない。

この広大な大陸に済む、生きとし生けるもの全てのために!


「さぁてと……そろそろ行きますかね。みんな、準備は良いかい?」


 俺はかつての仲間達ーーノワルを中心として再結成された漆黒の騎士団の面々へ問いかける。


「だ、大丈夫だ! さぁ、みんな行くぞ! 一年前の屈辱をここで晴らすんだ! アルビスの指揮の下に!」


「昔みたいに文句言われるなんてごめんだからな!」


「わかっている! 安心してくれ!」


「信じてるぜ、ノワル! それじゃ……アタックっ!」


 俺の指示に従って、ノワル達漆黒の騎士団は一斉に最強の聖騎士レギンへ向かっていった。


 ノワルの剣技が炸裂し、ヘイスアが防御陣を展開してレギンの反撃をギリギリのところで食い止める。

間髪入れずにブラックとシュバルツが切り掛かり、レギンが態勢を崩したところでネーロが魔法を放った。


 さすがはかつて一時代を築き上げた漆黒の騎士団だ。

 勢いと技の威力だけをみれば、そんじょそこらの連中と格が違うのは見てわかる。


 更に今、俺はここに居るのだ。


 俺が漆黒の騎士団の技を真似れば、攻撃回数は二倍となる。


 もう物真似をするのを躊躇う必要はない。

俺はどんどんタイミングを見計らっては、漆黒の騎士団の技を真似て放ち続けた。


「ぐはっーー!」


「ブラックっ!!」


 戦士のブラックが悲鳴をあげ、彼を呼ぶノワルの声が響き渡った。

 レギンの大剣をまともに食らってしまったブラックは、そのまま自分の血の池へ沈んでゆく。

 慌てた様子でヘイスアが駆け寄り、天へ祈りを捧げて、治癒を始めている。


「ノワルっ!」


「ブラックの仇は打たせてもらう! ぬおぉぉぉっ!!」


 ノワルが先行し、俺は彼に続いてレギンへ突っ込んだ。


「秘剣! ダークブリンガーっ!!」


 ノワルは闇の輝きを帯びた長剣を突き出す。

 レギンは寸でのところで、それを受け止める。

そして一瞬の怯みをみせた。


「ダークブリンガァーっ!」


 ノワルが引いたタイミングで、俺はダークブリンガーを真似て一気に突っ込む。

刹那、レギンが吠え、奴の体から嵐のように瘴気が発せられた。


 風に飲まれ、俺とノワルは紙切れのように吹っ飛ばされてしまった。


「二人とも退いて!」


 俺とノワルは素早く立ち上がり左右へ捌ける。

既に魔法使いのネーロの杖には、圧縮された闇属性の力が集まっていた。


「あんたを倒して、また返り咲いてやるんだ! もう惨めな生活はごめんよ! ナイトメアスフィアっ!」


 ネーロの杖から闇属性の球が打ち出された。

それは地面を抉りながら、まっすぐとレギンへ突き進む。

するとレギンは悠然と剣を構えた。

そして闇属性の球を、まるで本物の球のようにネーロへ打ち返す。


「ネーロっ!」


 ノワルの悲痛な叫びが、轟音へかき消された。


「あ、ああ……わ、私は、また返り咲いて……アルビスを…………」


 ボロボロになったネーロはそのまま倒れ、ピクリとも動かなくなってしまった。


「ご、ごめんだ! こんなところで死んでたまるかぁー!!」


 無事だった斥候のシュヴァルツは、その場から逃げ去ってしまった。


 この場で戦えるのはノワルと俺だけになってしまった。


 予想外過ぎるこの状況に、俺は焦りを募らせた。

このままでは魔王討伐などの夢のまた夢。

全滅はもう目の前にまで迫ってきている。


……ここは魔滅の巫女であるルウの手を借りるべきか?

いや、ここでの消耗は魔王討伐にどんな影響を及ぼすか、計り知れない。


 やはり、ここは残ったノワルと俺で乗り越えるしかない。


「まだ行けるな?」


 俺はノワルへ問いかけた。


「ああ。ここで負けるわけにはいかないからな!」


 ノワルは人目を気にし過ぎるといった悪い癖がある。

だけどそれを除けば、こいつの実力はかなりのもので、更に使命感に熱い。

だから、こう言う場に至っては信用できるのは確かだった。


 俺たちは、ゆっくりとこちらへ迫るレギンを睨みつけた。

そしてーー


「聖光雷(セイクリッドサンダー)!」


『ーーっ!?』


 突然、上からレギンを眩しいほどの輝きを纏った稲妻が打った。

稲妻をまともに食らったレギンが、大きく怯んでみせた。


「その場から動かないで! 魔弾が通るよ!」


次いで、俺たちの脇を激しい圧力を伴った"弾"がすり抜けてゆく。


 レギンは剣で弾こうとするが間に合わず、弾を受け、軽く吹っ飛んだ。


 そんなレギンの上へ、しなやかな影が躍り出る。


「喰らいなさい! 私の稲妻蹴りをぉーっ!」


『ーーっっっっっっ!!』


 レギンはそのまま地面へ叩きつけられ、地面の中へ沈む。

そして俺の周りに、彼女達は降り立ってくる。


「どうかな、お兄ちゃん? これでも私たちのことを未熟って言い切れる?」


「アルさんでも、実力をバカにされたときは本当に頭きたんだからね!」


「大口叩いてこれでは情けないわよ、アル!」


「シグリッド、ドレに、レオヴィルまで……どうして?」


 すると唖然としていた俺へ、シグリッドが肩をぶつけてきた。


「追いかけてきたに決まってんじゃん」


「追いかけてきたって……だって俺はお前達に……」


「あ、あんなの、アルさんの本気じゃないってわかってたよ!」


 ドレがそう叫び、


「私達は本気でアルのことが大好きなのよ? この程度簡単に見抜いて、みんなで揃ってやってきたというわけよ!」


 相変わらずレイヴォルは不遜な態度だが、強い愛情が感じ取れた。


 思わず目頭が熱くなり、感動で胸が打ち震える。


 そんな俺の腰の辺りと、誰かが突っついてくる。


「力貸す。レギンが、ああなったの、ルウのせい……だから手伝わせて!」


 いつの間にか魔列車から降りていたルウが、そう言ってきた。


「やっぱりお兄ちゃんって、小さい子のことが……」


「四人目かぁ……」


「まぁ、良いわ! 何人増えようと、私がアルの第一夫人なのは不動の事実よ!」


 3人はルウを見て、好き放題言っていたのだった。


 そんな中、レギンが全身からこれまで以上に邪悪な気配を放っている。


「行くよ、お兄ちゃんっ!」


「お、おう! じゃあよろしく頼むぞ、みんな!」

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