便利な【物真似(モノマネ)】の力を嫉妬され仲間を外された俺が一人で世界を救う旅を再開したら……みんなには頼られるし、可愛い女の子たちとも仲良くなれて前より幸せなんですが?
北の大地に別れを告げてーーそして予想外すぎる再会!?
北の大地に別れを告げてーーそして予想外すぎる再会!?
デートの日を境に、レオヴィルとラスカーズは頻繁に逢瀬を重ねるようになっていた。
この間なんて、仲良く手を繋いで歩いているところも見掛けたし。
北の大地での俺の役目は終わった。
むしろ幸せそうな二人を見ていると、俺も少し旅をお休みにして、大事と言える人たちと再会したいと強く想い始めていた。
そんな訳で、とっくに準備を済ませていた鞄を掲げる。
2年間暮らした北の大地から、大陸の中間店である"大陸の臍"へ向かうためだ。
そしていざ、ボルドー家を出ようとした夜半過ぎ、部屋へノックの音が響き渡る。
「ど、どちら様?」
「私よ! 開けなさい!」
きっと偶然じゃない。
レオヴィルは分かった上で、俺の部屋までやってきたのだろう。
いつも思うけど、俺ってこっそり今の環境から抜け出せない運命なんだなぁ……
「やっぱり出て行くのね?」
レオヴィルは扉を開けて真っ先にそう言い放つ。
「ええ。長い間お世話になりました。本当に助かりました」
「告白の答えをまだ聞いていないのだけど?」
「分かりました……レオヴィル、君からの結婚の申し出だけど、お断りさせて頂く」
「そう……」
レオヴィルはため息のように言葉を漏らす。
「君にはラスカーズがいるじゃないか。君だって、彼のことを相当見直したんだろ?」
「そ、そうね……」
レオヴィルは頬を赤らめて、そう答えた。
ようやく見たかったリアクションが見られて、俺はホッと胸を撫で下ろす。
「彼がああなったのも、アルビスのおかげよね」
「もしかして、気づいてました……?」
「勿論よ!」
「一体どこで?」
「どんなに姿を真似たって匂いでわかるわ! それだけ私はアルビスのことが大好きなのよ!」
大好きと言われて喜んで良いような、ダメなような……
「でもねこの大好きにはきっと、政略結婚への反発の気持ちもあったと思うの……勝手に人生を決められることへの反発……」
「……」
「それに彼は本当はカッコいい癖に、私の前だと急に情けなくなって、ずっとそんな態度にイライラしてて、そんな時に私の前にアルビスが現れてくれて、それからの2年間は本当に楽しくて……本当にありがとう」
「お礼を言うのはこちらの方ですよ。あの時レオヴォルに拾われなかったら、野垂れ死にしていたところです」
「ふふん! いい拾い物だったわ! そして私は拾って気に入ったものはずっと大事にするわ! だから!」
レオヴィルはビシィッと俺を指で指す。
「アルビスとの結婚は諦めるわ! だけど、貴方を私の恋人にするわ!」
「は……? な、な、なに言ってるんですか! レオヴィルにはラスカーズっていう旦那さんがいるでしょうが!」
「旦那がいるからなんなの?」
「いや、なんなのって……」
「だって、あのラズカーズにはもうたくさんの奥さんがいるのよ? たしか騎士団の全員がそうだったかしら?」
「マジっすか……?」
「だって彼は次期国王ですもの! 側室なんて当たり前だし、私はその一人でしかないわ! だったら私も同じことをして良いじゃない!」
ラスカーズがあまりに親しみやす過ぎて、彼が俺とは違う次元で生きている人間だということを忘れていた……
「今はラスカーズとの婚姻前だから動けないわ! だけど婚姻の儀が終わり次第、必ずアルビスのところへ行くわ! それまでコレを私だと思って持っていなさい!」
レオヴィルが渡してきたのは、獣の角で作られた立派な印章だった。
農具と森そして剣が組み合わされたこの刻印ってもしかして!?
「こ、この刻印ってジュリアン王家の!?」
「そうよ! ラスカーズに作らせたわ! 支払いにはそれを使うと良いわ! これからのアルビスの支払いは全部ラスカーズがしてくれることになっているから! これでもう出会った頃のような金欠には悩まされないはずよ!」
「良いですかこんなものを……?」
「良いに決まっているじゃない! だってアルビスが頑張ってくれたから今の私とラスカーズの関係があるのだもの。安いものだわ!」
相変わらずレオヴィルは豪快な子だと思った。
そしてきっと、この印章を受け取らないなんて言ったらブチ切れるはず。
「ありがとう、レオヴィル。大事に使わせて貰うよ」
「遠慮せずジャンジャン使いなさい!」
「了解っす。それじゃ!」
俺は荷物を掲げてレオヴィルの脇を過ぎてゆく。
すると後ろから服の裾を摘まれた。
「気をつけなさいよ。私と再会するまで死ぬんじゃないわよ……」
「分かってますよ。レオヴィルも、元気で。害獣駆除にはくれぐれも気をつけてね」
「ありがとう。必ず、また会うから。貴方の元へ行くから……」
俺はポンとレオヴィルの頭を撫で、部屋を出る。
そして2年間お世話になったボルドー家を跡にした。
……にしても、レオヴィルからあんな宣言をされるだなんて予想外だった。
だけど、想いの形はどうであれ、またレオヴィルと会って楽しい時間を過ごしたいのは確かだった。
……
……
……
北の大地を旅立ち、俺は広大なる大陸の中央に位置する"臍"といわれる街を目指した。
ここは四カ国のどこにも属さない中立地帯だ。
そして各国への中継地点であり、最新式の移動手段である魔列車というものがあるらしい。
この魔列車というものは、魔導石を動力にする乗り物で、大勢の人を、馬車よりも早い速度で運んでくれるらしい。
代わりに運行が始まったばかりなので、乗車賃はかなりの高値らしいが……今の俺には、ジュリアン王家の刻印があるし、問題ないだろう。
「ほぅ……すっげぇ……」
臍の街は立派なものだった。
高い建築物に、様々な国の多様な人種。
道もほとんどが石で舗装されていて、すごく歩きやすい。
すぐに魔列車に乗ろうと思っていたが、それは勿体無い気がした。
俺はしばらくの間、臍の街を見て回ることにした。
いや、この人の数は本当にすごいな……
「号外! ごうがーい! 遂に出たよ! 100年ぶりの逸材! 聖光の魔術士が誕生したよー!」
道端からそんな声が聞こえ、ビラが空から降り注いでくる。
「へぇ、聖光の魔術士が出たんだ」
聖光の魔術師ーー大国西の果ての国にある、超エリート学校魔術師学園の卒業生に与えられる最高位の学位のことだ。
この学位の由来は建国英雄の一人に由来している。それだけ優秀で将来有望な魔法使いの証だ。
そして喧伝されている通り、この位が発生したのは100年前である。
興味が湧き、手に収まったビラへ視線を落とす。
むむ? ここの言語は西の果ての国のものなんだ。
勉強不足で、まだ読みづらいんだよな……
ええっと……聖光の魔術士に任命されたのは、東の山、出身の……
「どぉーん!」
「うおっ!?」
唐突に誰かが背後から突っ込んできた。
あまりの驚きに思考が追いついていない。
「ねぇ、私が誰だかわかる?」
少し甲高い声が後ろから聞こえてくる。
背中の辺りにむにゅんと柔らかい感触がある。
これは胸、か? じゃあ、女の人……?
「わ、分かりませんが……てか、何をいきなり……?」
「まぁ、そっかぁ、そうだよね。だいぶ時間も経っているし……仕方ない!」
背中から胸の圧力が消え失せた。
「こっち向いて!」
背後に現れや誰かに促されるまま振り返る。
するとそこにいたのは、臍の街にしっかり馴染んでいる都会っぽい格好に、大きな鞄を抱えた、金髪青眼の小柄の女の子。
「シ、シルバルさん!? なんでここに!?」
俺にとってあらゆることで初めて尽くしだった人、東の山のシルバルさん。
でもこんなに胸が大きかったか……? それにちょっと印象が違うような、幼いような……?
「ぶぅー! お姉ちゃんなんかと間違わないでよ、アルお兄ちゃん!」
「もしかして……シグリッド!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます