最後の応援
ーー実際のところ、レオヴィルがアルビスをどう想っているのか、私はなんとなくではあるが察している。
そして彼女の想いに納得してしまっている自分自身がいるのは確かだ。
アルビスは友としても最高の人物だ。
強く、優しく、そして気の利くアイツにレオヴィルが惹かれるのも分からなくはない。
いざという時に怖気付いてしまう、情けない私よりは……
しかしそうは思えど、諦めきれない私自身もいる。
もしもレオヴィルのことを諦めたとして、後悔しないなどと言い切れなかった。
だからこそ、頑張りたいと思った。
アルビスに負けたくはないと思った。
レオヴィルとの関係は確かに、私たちの親同士が決めたことだ。
この縁談には政治的な要素がある。
だが、例えレオヴィルとの出会いの切っ掛けが政略結婚だったとしても……私は幼い日から今日まで、おそらくはこれからもずっと、彼女の強く想い、愛し続けると言い切れる。
「な、なによ? そんなにジロジロと見られると恥ずかしいじゃない……」
今、隣にいる最愛の彼女は、照れ笑いを浮かべてくれている。
彼女がこういう表情を浮かべてくれるようになったのも、アルビスのお陰だ。
彼の恩に報いるためにも、私は頑張れねばならない!
今日こそ臆病な私自身へ打ち勝つ時なのだ!
●●●
「へぇ……ラズカースのやつ、やればできるじゃん」
物陰から見ていても、ラスカーズはレオヴィルを上手くリードしているようにみえた。
隣にいるレオヴィルも楽しそうに笑っている。
多分大丈夫だと思った。
きっとこれからラスカーズとレオヴィルは上手くゆく。
俺がフッと姿を消せば、問題は解決する。
このデートを見届けた後、すぐに姿を消すのが良いかもしれない。
さて、東の山と南の荒野、どちらから最初に赴くべきか……確実に同じところにいそうなシルバルさんか、ドレも保安官をしているかもしれないし……そういやシグリッドって、今頃何してるんだろ?
そんなことを考えていた俺の頭上を黒く大きな影が過ってゆく。
激しい風圧が村を襲い、屋台を吹き飛ばす。
慌てて視線を上げて、俺は絶句した。
「NNGAAAAAA!!」
「レ、レッドワイバーンだ! 逃げろぉー!!」
村の誰かが悲鳴をあげ、穏やかな祭の光景が瓦解する。
そんな人々へ炎のように赤い鱗で覆われたレッドワイバーンは喉の奥から火球を吐き出す。
炎が屋台や家屋を焼き始める。
俺は慌てて、ラスカーズとレイヴォルへ視線を戻す。
ラズカーズは剣を抜き、魔法障壁を展開してレオヴィルを守っている様子だった。
「レオヴィルを頼むっ!」
たぶん、今のラスカーズの叫びは俺へ向けてのものだろう。
彼の持つロングソードが輝きを発し始めた。
それに気づいたレッドワイバーンが鎌首を向けてくる。
「ラ、ラスカーズっ! 待って!!」
レオヴィルの悲痛な叫びが響き渡った。
ラスカーズはレッドワイバーンへ強く一歩を踏み出していた。
ーー格好つけたくたって、それはちょっとやりすぎだぜラスカーズ!
そんじゃ、最後の応援をするとしますかね!
俺は迷わず物陰から飛び出した。
刹那、レッドワイバーンの口腔が真っ赤な炎の塊を宿し始める。
「「アルビスっ!?」」
レオヴィルとラスカーズの脇を横切り、二人の驚きの声を背中に受けつつ、俺はレッドワイバーンの目前へ飛び上がった。
「GAAAA!」
「人の恋路を邪魔する奴は! 馬ならぬ、俺にやらてしまえ!ーー聖光壁(セイントウォール)!」
シルバルさんとシグリッドの願いが込められたレリックが光を放った。
光は大きな壁となって、俺と後ろにいたレオヴィルとラスカーズの二人さえも、火球の脅威から守り切る。
レッドワイバーンは火を吐くだけあって、鱗の耐火性が高い。
だから普通に物真似カウンターを仕掛けても、あまり意味はない。
そこで俺は南の荒野でドレから借り受けた回転弾倉式銃アーミーアクションを抜いた。
銃口をレッドワイバーンの口腔へ向ける。
そして銃へ向けて、物真似の力を注ぎ込んでゆく。
「内側からふっとべぇぇぇ!!」
僅かに炎を纏った弾丸がアーミーアクションから乾いた炸裂音と共に打ち出された。
その弾丸は矢よりも早い速度でレッドワイバーンの喉の奥へ突き刺さる。
刹那、"ドンっ!"という激しい爆発が巻き起こった。
レッドワイバーンの頭が吹っ飛び、滞空していた巨体が地面へ落下する。
これはいうなれば、物真似カウンターショットーーその名の通り、物真似の力を弾丸に付与して放つ方法で、北の大地での2年間で俺が編み出した新しい戦闘方法だった。
「アルビス、無事か!?」
ラスカーズが慌てた様子で駆け寄ってくる。
「お前さぁ、いくらカッコつけようたって無茶し過ぎだって。自分が将来の一国の主だってことお忘れ? こういうことは俺みたいのに任せないと!」
「ぐっ……そ、そうだな。軽率だった……申し訳ない」
「二人とも、これは一体どういうことかしら?」
レオヴィルの冷ややかな声が聞こえて、俺とラスカーズは揃って背筋を伸ばした。
「あ、こ、これは……」
「俺が頼んだんだ、レオヴィル! デートに際し、大臣達から護衛をつけろうと言われていたが、それが嫌で……だったら友人であるアルビスにお願いしたまでで……」
「ふーん……まぁ、ちょうど良いわ! どなたか! 剣を譲ってくださる!? 切れるものだったら言い値で買い取るわ!」
レオヴィルがそう声を上げる。
「もしかして……」
「さすがはアルビスね、良くわかってるわ! 貴方とラスカーズもレッドワイバーンの死骸の片付けを手伝いなさい! こんなものがいつまでもここにあっちゃ迷惑よ!」
「心得た!」
レイヴォルは少し背伸びをして、俺とラスカーズの間に入って肩を組んできた。
俺もラスカーズも、彼女のこういう豪快なところが大好きなのだ。
「さぁ、始めるわよ!」
「おう!」
「ああ!」
もう大丈夫だ。
きっとレオヴィルとラスカーズによって、北の大地はもっと豊な国になるはず。
そう思えてらない。
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