果たして結果は……?
「これで信用できたか?」
「お、おう、そうだな……」
ジャンゴの長兄は俺を見上げながらそう言った。
「早く閉めろ。こんな場所をアラモに見られでもしたら大変だ」
「だな。なら手はず通りよろしく頼むぜ、ブロンディよぉ」
「ああ。それでは」
扉が閉まり、俺は全力でその場から走り去る。
路地裏に入ってすぐさま、俺はブロンディから、元の姿に戻った。
「あっぶねぇー……時間ギリギリかよ……」
やはり獲得したばかりの"形態模写"の力は1〜2分維持するのがやっとのようだ。
でも、有効性をはっきりと認識することはできた。
落ち着いたらこの能力を重点的に強化するとしよう。
そして今度は街の銀行を根城にしているブロンディ強盗団のところへ向かってゆく。
「ひひっ……ブロンディよお、ちぃっと話しねぇか?」
「ジャンゴの? こんな夜更けにどうした?」
俺はジャンゴの長兄の声真似をし、同じ提案を持ちかける。
当初はこの提案に驚いた様子をみせていたリーダーのブロンディだったが、
「……良いだろう、乗った。決行は?」
「明日の夕刻。集合は街の広場だ。よろしく頼むぜ、ひひっ……!」
ブロンディの方は姿を見せずに済んだのだった。
形態模写の力はすごく体力を使うから、今夜もう一回できるかどうか自信がなかっただけに助かった。
これで種は蒔き終えた。
あとは奴らがどう動くか。
そうしてアジトにしているビリーさんの家で待つこと少し……闇に紛れて、ドレが戻ってくる
ドレには種を巻いた後の、奴らの変化の確認をお願いしていたからだ。
「ジャンゴとブロンディの様子は?」
「両方ともちょっと疑ってたね。本気でやるつもりなのかって」
「なるほど」
「ねぇアルさん、こんなんで大丈夫なの?」
「勿論。それでも良いのさ。俺の目的はあくまで少しでも奴らの数を減らすことだからな!」
13人とベヒーモスを相手にするのはかなり不安がある。
でも種を蒔いたこの状況なら色々と変化が考えられる。
予定通りにジャンゴとブロンディが動いてくれるか。
疑いあったジャンゴとブロンディが仲違いをするか。
もしくはどちらともアラモのベヒーモスに返り討ちに合うか。
どのパターンを取っても、敵が減ることになる。
あとはタイミングを見計らって、漆黒の騎士団を野に放てば良い。
「とりあえず、あとは様子をみよう。動き方次第で、こっちの出方を変える」
「そうだね。なんかすごくワクワクしてきたかも!」
その日の晩、俺とドレは作戦の成功を願って、肉を食べ、レモネードを飲んだ。
まぁ、ビリーさんの家にあった食料なんだけど……
上手く行けば一両日中には、この街を開放できる。
そのあと、俺はしっかりとドレと向き合わなければならない。
「ねぇアルさん」
「ん?」
「これが終わったらさ……聞いてほしいことがあるの……」
「終わったらじゃなきゃダメなの?」
「そ、そうだよ! こんな状況じゃあね……」
俺だって木の股の間から産まれたわけじゃない。
色々と分かっているつもりだ。
作戦の成功も大事だけど、そっちを考えるのもとても重要だった。
……
……
……
翌日の夕刻前、俺とドレはジャンゴ五兄弟とブロンディ強盗団の動向を窺っていた。
そして最初に集合場所に現れたのは、ぎっしり弾の詰まったガンベルトを巻いたジャンゴ五兄弟だった。
「よぉ、ブロンディ。本気だったんだな?」
「勿論だ」
遅れて現れたブロンディ強盗団は、それぞれ大きくて不気味な棺桶を引き摺っている。
「なんだい雁首揃えて棺桶なんて持ってきてよ? アラモを入れるにゃ一つで十分じゃねぇか?」
「まぁ、見ていろ。これが俺たちブロンディ強盗団の切り札だ」
「ヒヒっ! そうかい。じゃあ、期待してるぜ」
「行くぞ、お前ら! アラモを倒して、俺たちが南の荒野の支配者となるんだ!」
連中の士気は上々だった。
合計12人の無法者は、一路アラモはアジトとしている集会場へ向かってゆく。
「やったね、アルさん!」
ドレが声を弾ませた。俺自身も最高のカードが回ってきたと感じ、興奮を抑えきれない。
俺とドレはそのまま奴らの跡を追い、情勢を確かめに行く。
やがてジャンゴ五兄弟とブロンディ強盗団は食事中だったベヒーモスの背後に達した。
「なんだ、お前ら? 馬鹿面揃えて何しに来た?」
アラモは余裕な表情で、ベヒーモスの足を撫でながら首を傾げる。
「ヒヒっ! そんな軽口を叩いていられるのも今のうちだぜ、アラモよぉ! よくもこれまで俺たちを駒のように扱ってくれたなぁ!」
ジャンゴ五兄弟は一斉に銃を抜き、アラモへ突きつける。
次いで、ブロンディ強盗団が棺を開いた。
そしてそこから取り出したのは、見たこともない巨大な金属の筒。
「切り札の大砲なんか持ち出して、どうしたよブロンディ? まさかこの俺とシルバー君をやるつもりか?」
「そのつもりだ! アラモ、お前をここで殺す! 撃てぇーっ!」
ブロンディ強盗団の装備する大砲とやらが一斉に火を吹いた。
凄まじい爆音が鳴り響き、砂煙が舞い上がる。
巨大な弾を背中に受けたベヒーモスが悲鳴を上げた。
「ひひっ! それじゃあ俺たちは!」
「アラモを! ひひっ!」
ジャンゴ五兄弟はアラモへ向けて、発砲を始めた。
さすがのアラモもベヒーモスの足の裏へ身を隠す。
「くそっ、舐めた真似を……シルバー君! 遠慮する必要はない! あいつらを殺せっ!」
「GUOOOONN!!」
かくして、最高のカードである、ベヒーモス対無法者達の決闘が始まった。
正直、この状況じゃどうなるかは予想ができない。
ここはやっぱり保険を発動させておいた方が良さそうだ。
「行くぞドレ」
「どこ行くの?」
「強いくせに情けない状況になった連中のところさ」
俺は足速に漆黒の騎士団が囚われている納屋へ走って行く。
「ひぃっ! もういやぁぁぁぁー!!」
扉を開くと、真っ先に女魔法使いのネーロが悲鳴を上げた。
長く暗い中に閉じ込められたせいか、俺のことがよく見えないらしい。
単に忘れているだけかもしれないけど……
「ア、アルビス……?」
ようやく気づいたリーダーのノワルが、目を丸くしながら俺のことを見上げてきた。
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