3年ぶりの再会


「よっ、ノワル。3年ぶりだね。元気そうじゃん」


 漆黒の騎士団の連中は、俺へ珍しいものでも見るような視線を寄せている。


「なんでこんなところにアルビスが……?」


「たまたまだよ。そしたらお前達が情けないことに、捕まっちまったって聞いてね」


「……」


「これが噂の漆黒の騎士団かい? ざまぁねぇな。揃いも揃ってあっさり捕まちゃってさ」


 俺の言葉に漆黒の騎士団は黙り込んだ。

 誰もが恥ずかしさのためか、視線を外す。


「わざわざ馬鹿にしに来たのか、俺たちを……」


 さすがのノワルも悔しそうに言葉を絞り出す。

 俺はノワルの前へかがみこんだ。


「バーカ。俺はそんなに暇じゃない。それに今、この街がどういう状況で、どうするのが最善かは分かっているつもりだ」


「ッ……!」


「この後、縄を解いて自由にしてやる。でも一つだけ条件がある」


「条件……?」


「外へ出たら逃げんるんじゃなくて、ベヒーモスと戦え。この街を救え。それが条件だ」


「本当にそれだけか……?」


「当たり前だろうが。俺をなんだと思ってやがる」


「やる! やりますっ! だから早くこの縄を解いて、アルビス君!」


 真っ先に声を上げたのは、ノワルではなく魔法使いのネーロだった。

彼女の皮切りに、他の連中も次々と同意の声を上げてゆく。


「……分かった。こんな情けないままじゃ漆黒の騎士団の名折れだ。ベヒーモスは俺たちが何とかする。必ず!」


「逃げんじゃねぇぞ。逃げたら地獄の果てまで追っかけて叩きのめしてやるからな」


「わかっている! さぁ、アルビス早く!」


 俺は約束通りに、漆黒の騎士団たちの縄を解いてやった。


「行くぞみんな! 雪辱戦だ!」


 ノワルの一声を受けて、漆黒の騎士団は納屋から飛び出してゆく。

 いくら捕まっていたとはいえ、漆黒の騎士団はドラゴン退治で有名な連中だ。

加えて、今、ジャンゴ五兄弟とブロンディ強盗団がベヒーモスと戦っているはず。

これでほぼほぼ勝利は確定だろう。


 さて、俺の役目はここまで。あとは高みの見物でも……


「ねぇ、アルビスくん」


 不意に後ろから甘ったるい声が聞こえた。

振り返るとネーロだけが、納屋に残っている。


「なんだよ、ネーロ。解いてやったんだから早く行けよ」


「うん、分かってるよ。でも、その前にアルビス君にお話が……」


 そういってネーロが肩へ身を寄せてくる。

何日も納屋に閉じ込められていたから正直臭い。


「この間、物真似で助けてくれたのアルビス君だよね? 私、分かってたよ?」


「そうなんだ。相変わらず耳は良いな」


「えへ! でねでね、その時も、そして今も……私がアルビス君のことどう想っているかわかる?」


「さぁね」


 ネーロは俺の手を取り、豊満な自分の胸の上へ押し当てる。

そして離すまいと手を重ねてくる。


「ドキドキ、してるでしょ?」


「……」


「きっと、これは恋よ。私、とってもかっこいいアルビス君に恋をしたと思うの!」


「…………」


「ねぇ、だからこれが終わったら二人で旅に出よ? 良い子ちゃんのノワルなんて放っておいてさ! どうかな?」


「あは! そいつは面白い提案だ!」


「じゃあ……!」


「そんなの死んでもお断りだね。特にネーロなんかとは!」


 俺はネーロの手を弾いた。

 俺の行動が予想外だったのだろうか、ネーロは目を丸くしている。


「な、なにするの!? 痛いじゃない!」


「昔、俺は君のことが好きだった。でも今はなんとも思っていないし、むしろ何か起こるたびにギャアギャア騒ぐ女が俺の相棒だなんて冗談じゃない! くだらないこと言ってないてさっさと行け! それとも俺に蹴られでもしなけりゃ戦えないか!?」


「ひっどい! 何よそれ! この私がせっかく誘ってあげたのに! もう良いよ! アルビス君なんてしらない! バイバイ!」


 怒り心頭のネーロは俺の前から走り去ってゆく。

 やれやれ、ようやく行ってくれたか。


 きっと昔の俺って純粋だったから、ネーロのああいうのが戦略だって気づかなかったんだろう。


「あの、アルさん……」


 すると、ずっと外にいたドレが顔を出してくる。


「どしたの?」


「あ、あのさ、アレで良かったの?」


「見てた?」


「あんな大声出されちゃね……」


 ドレは寂しそうな、少し不安そうな様子を見せている。

俺はそんなドレの頭を撫でてやった。


「ごめんな、変なところ見せて。アレで良いんだよ。あんな奴に全く興味湧かないし、それに今の俺にはドレっていう最高の相棒がいるからな!」


「アルさん……」


「さぁて、これで駒は全部動かした! 俺たちはベヒーモスの結末を高みの見物と行こうぜ」


「そうだね! そうしよう!」


 ようやくドレに笑顔が戻った。


 でも近いうちに、俺は彼女の気持ちを裏切らなければならない。

その時のことを考えると、今から胸が痛み出す。

しかし、今は街を開放するに集中すべきと、自分自身へ言い聞かせるのだった。


 俺はドレに先導されて、再びベヒーモスのところへ向かってゆく。


そしてその先に見えた光景に言葉を失う。


「マジかよ……」


 俺の目の前には血まみれのジャンゴ五兄弟とブロンディ強盗団が倒れていた。

どうやらほとんどが死んでしまっているらしい。


「俺に逆らおうとした勇気は誉めてやる。だが、俺とシルバー君は無敵だ。お前らなぞに負けるはずがない! あははは!!」


「GUOOOONN!!」


 ジャンゴ五兄弟とブロンディ強盗団が返り討ちに遭う可能性は考えていた。

しかしこんな状況で、ベヒーモスが全くの無傷というのが計算外だった。

それほどアラモ飼っているベヒーモスは強力な個体なのかもしれない。


 その時、アラモの足元を光の矢が打つ。

しかしアラモは動じず、顔を上げた。


「ようやく脱走したか。随分と時間がかかったじゃないか、漆黒の騎士団よぉ!」


「悪漢アラモ! お前の非道はここで終わりだ! 俺たち、漆黒の騎士団が成敗してやる!」


「ひゅーカッコいいぜ! さっさとかかってきな!」


「みんな行くぞ! イーストウッドタウンを救うんだ! 漆黒の騎士団の名に掛けて!」


 ノワルを先頭に、漆黒の騎士団が巨大なベヒーモスへ向けて飛び降りてゆく。

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