白銀の騎士団
「はぁー……さすがに疲れたぁー! もう眠いぃー!」
車両の右側で戦っていたシグリッドは 地面に座り込んでだだを捏ねていた。
もちろん、全ての魔物を殲滅した上である。
「も、もう……らめぇ……はぁ、はぁ……」
ドレも車両に背を預けて、息を荒げていた。
本人が言った通り、魔弾の使用はかなり体力を消耗するらしい。
……どうやら消耗したシグリッドとドレは、この不穏な空気を感じ取れないほど、疲れ切っているらしい。
しかし、俺は二人のおかげで体力が有り余っている。
俺はそっと立ち上がり、正面を睨め付ける。
ずっと遠くの方から聞こえてきていた、鈍重な足音がより強く響き出す。
「人、なのか……?」
砂塵の中へ影がぼんやりと浮かびはじめ、俺はそう呟いた。
今までの敵は全て異形の魔物だった。
しかし、今迫ってきているのは、かなり立派な体つきをしているが人間だ。
異様な雰囲気を放ち、両面が血のように真っ赤に染まっている以外は……
「お、おい、あれって……西の果ての国の聖騎士団の……?」
「ジャガナートは死んだ筈じゃ!?」
「あれが噂の死霊化現象……!?」
俺の後ろにいた冒険者達が、声を震わせながら囁き合っていた。
どうやらとんでもないやつが、迫ってきているらしい。
「GAAAAA!!!」
巨大な鉄槌を抱えた大男:ジャガナートが吠えた。
その声は空気を震撼させ、臓腑を揺るがす。
どこからどうみてもまともじゃない。
むしろ人間と表現できるのは、姿形だけだ。
そしてどうやらこのジャガナートという奴を倒さない限り、この戦いは終わらないらしい。
俺は迫るジャガナートへ向けて、意識を集中させてゆく。
そんな俺の脇を重武装をした西の国の兵士たちが過ってゆく。
中には大砲を押す兵士の姿もある。
やがて俺の目の前には、鉄の壁ができ、ジャガナートを囲い込む。
「良く聞け! 奴はもはや英雄ジャガナートでは無い! ただの魔物だ! かかれー!!」
兵長の号令に従って、大砲が火を噴いた。
ジャガナートの巨体が爆炎へ包まれてゆく。そして重装兵達が一斉に進軍を始めた。
「GAAAA!!」
やがて向こうの方からジャガナートの咆哮が響いた。
巨大な鉄槌が兵をまとめて薙ぎ倒し、吹き飛ばされている。
その光景を見て、兵達の士気が明らかに低下をみせた。
誰もが迫り来る圧倒的な暴力の前に立ち竦んでしまう。
それでもなお、ジャガナートへ向けて大砲は火を吹き続けていた。
「うおぉぉぉ!! ジャガナートぉぉぉ!! お前は俺たちが必ず倒すっ!!」
その時、大砲の爆音の中に叫び声が入り混じってくる。
なぜか突然現れた"漆黒の騎士団"の面々は一斉にジャガナートへ攻撃を仕掛ける。
対するジャガナートは大きく鉄槌を大きく薙ぐ。
すると黒い瘴気を孕んだ旋風が巻き起こった。
「ぎあやぁぁぁー!!」
旋風はノワル達、漆黒の騎士団を飲み込んで、あっという間に吹き飛ばしてしまった。
……あいつら、一体何しに来たんだ……?
「ちっ! 漆黒の騎士団め! 国境警備もろくにできないなんて!」
なるほど。これはまたしてもノワル達の失態なんだ。
あいつらの尻拭いになのるは癪だけど仕方がない。
そんなちっぽけな考えよりも、みんなを助ける方が優先だ!
「お、おい、君! ここは危険だ! 速やかに退避を……!」
親切にそう言ってくれた兵士へ俺は笑顔を返し、どんどん前へ進んでゆく。
そしてジャガナート真正面に立った。
「それじゃあ、派手に行くとしますかねっ!」
俺は物真似の力を発揮する。
力によって、俺の周囲にたくさんの大砲が形作られてゆく。
直前まで砲撃を続けてくれてて本当によかった。
だってこうして俺が"大砲を真似る"ことができるんだから!
誰もが俺に視線を寄せ、突然出現した大砲に驚いている様子だった。
そんな視線を背に受けつつ、俺が生み出した大砲達が一斉に鉛玉を吐き出す。
「GA!? GAGAGA!!」
何度も砲撃を喰らっては、さすがのジャガナートも怯み始めていた。
「聖光雷!」
そんなジャガナートの頭上を眩しい光を伴った雷が貫く。
「お兄ちゃん、突っ込むならちゃんと声かけてよぉ!」
いつの間にか脇にはシグリッドの姿があった。
どうやら回復して立てるようになったらしい。
「ごめんごめん、疲れてると思ってさ」
「もう……次からは宜しくね?」
「了解! って訳で、聖光雷っ!」
「GAっ!?」
突撃を仕掛けていたジャガナートへ、真似た聖光雷をお見舞いし、怯ませた。
俺とシグリッドは接近するジャガナートへ向かって、交互に魔法を打ち続けた。
しかしジャガナートは歩みを止めない。
「あーん、もう! 早く倒れてくれないと、魔力が枯渇しちゃうよぉ!」
まだ完全回復していないシグリッドは、呼吸を荒げている。
そろそろ魔法の連続発射は限界だろうか。
その時、輝きを帯びた弾丸が物凄いスピードで俺の脇を過ってゆく。
合計4発の弾丸は全てジャガナートに命中し、奴に膝を突かせた。
「はぁ……はぁ……も、もう本気で、らめぇ……!」
長銃身の銃にもたれかかりながら、ドレは呼吸を荒げている。
どうやらドレもここで限界らしい。
しかしーー
「GAAAAAーー!!」
猛攻を受けたジャガナートは、これまでに無いほどの激しい咆哮をあげた。
同時に真っ黒な瘴気が全身から溢れ出ている。
これは最高のチャンスだと思った俺は地面を蹴った。
瞬間、ジャガナートは鉄槌を怒りに従って地面へ叩きつける。
地面が次々と隆起し、俺へ真っ直ぐと突き進んでくる。俺はすかさず首からぶら下げているレリックを掲げた。
発生させた光の壁で、隆起を繰り返す地面を受け止める。
全てを防ぎ終え、素早く銃を抜く。
そして力を込めた弾丸を放った。
『GAAAAAーー!!』
"物真似の力で生み出したジャガナート"は鉄槌で隆起した地面を叩き壊した。
その衝撃は同じ隆起を生み出す。
先の鋭い石柱はジャガナートの巨躯を思い切り打ち上げ、そして背中から串刺した。
「GAっーーー! KAHA…………」
ジャガナートはこと切れ、黒い塵となって形を崩し始める。
どうやら倒せたらしい。
ギリギリだったけど、なんとかなって良かった。
瞬間、後ろから歓声が湧き上がった。
誰もがジャガナートの撃退を歓喜している。
さすがに照れくさい……
「もっと堂々としなきゃカッコつかないよ? お兄ちゃん?」
傍にはニヤニヤ笑みを浮かべつつも、嬉しそうにしているシグリッドの姿があった。
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