叱られるバカ姉妹
「本当に大丈夫なのか……?」
「一応、回復薬は飲んだから。ほんと、ラスカーズに見つけて貰えて助かったよ」
俺はラスカーズの肩を借りながら、坂を登ってゆく。
よし! これで完璧だ!
これでラスカーズはレオヴィルも、そして俺も救ったことになる。
さすがのレオヴィルでも今度こそ「きゃー! ラスカーズかっこいい! だいちゅき!」となるはず!
「アルのばかっ! 何が"かしこまり"よ! ホント、貴方バカなんじゃないの!!」
顔を合わせた途端、レオヴィルに怒鳴られてしまった。
有無を言わさず、彼女は俺の胸に飛び込んで泣き始めた。
「バカ! アルのばかっ! もう二度と危ないことはしないでよね!」
「お、おう……ごめん……」
きっと後ろにいるラスカーズは複雑な顔をしてるんだろうな……
しかし、参った。
こんなんじゃラスカーズの本当の良さが伝わらない。
もうちょっと、色々と考えた方が良さそうだ。
とりあえず、こんなことがあったので、今日は害獣駆除どころでは無くなった。
「そ、それじゃあまたな、レオヴィル」
「ええ。また」
「……」
ラスカーズはすっかり元気を無くした様子で帰ってゆく。
本当に申し訳ない……。
待ってろ、ラスカーズ。次こそは上手くやるから。
絶対にお前とレオヴィルをくっつけてみせるから!
ところで妙に屋敷の前が騒がしい気がする。
俺は庭の真ん中に集まっている同僚のハンターたちへ駆け寄った。
「よっす! なんかあったの?」
「おお、アルビス無事か。レオヴィル様も、怪我はなさそうだな。コイツだよ」
ハンターが指差す先にはぐったりとセイバータイガーが横たわっていた。
「どうやらパルトン様が毛皮用に購入したコイツが逃げ出したらしいんだ」
「……なるほどね。そういうことね」
胸の傷は明らかに、ラスカーズの形態模写をしていた俺が着けたものだ。
それに次女のパルトンはこの間"セイバータイガーがどうのこうの"と言っていたのを思い出す。
きっとあのバカ姉妹が、レオヴィルへけし掛けるためにセイバータイガーを檻から解き放ったに違いない。
「ああ! あああ!! 私の馬がぁぁぁ!! この馬高かったのよぉ!!」
屋敷の脇では、血まみれで倒れた綺麗な馬を前に、次女のパルトンが悲鳴を上げていた。
どうやら、彼女の馬車を引くための馬がセイバータイガーに食い殺されてしまったらしい。
「なんてこと……」
長女のポワフィレは、メチャクチャになった庭を見て唖然としている。
そんな彼女の後ろで、扉が開く。
「お、お父様!?」
「お母様!?」
ポワフィレとパルトンは背筋を伸ばした。
山賊のような風貌をしているのが実父で当主のサンテ様。
そしてレオヴィルによく似た美しいが冷たい印象なのが、奥様のミリオン様だ。
「これはどういうことだ? お前たちにセイバータイガーの檻の鍵を預けていたが?」
「あ、あ、こ、これは……! パルトンがいけないのよ! この子がセイバータイガーを撫でさせてあげるとか、そんなことを言い始めて!」
「ひっどい! 檻を開けろと仰ったのはお姉様よ!」
「ちょ、ちょっとパルトンっ!」
ポワフィレはそう言うが後の祭りだった。
サンテ様とミリオン様の眉間に深い皺がよる。
「ばぁかもん!! お前たち、何をしでかしたかわかっているのか! たまたま使用人やハンターたちに怪我人が出なかったのが幸いだ! おい、ミリオン!」
「ええ、もちろん。さぁ、二人ともこっちへいらっしゃい。お仕置きの時間よ?」
ミリオン様が冷たい笑みを浮かべて、バカ姉妹は背筋を凍らせる。
「い、いやよ! こんな歳にもなって、あんな恥ずかしいのはいやぁー!」
「お、お母様許して! いやぁぁぁ!」
「二人とも良い歳して子供のように騒ぐんじゃありません! さっさと来なさない!」
「「ひぃぃぃーー!!」」
ポワフィレとパルトンはミリオン様に引っ張られて、屋敷の奥へと消えてゆく。
「なぁ、レオヴィル、あの二人奥様に何されるんだ?」
興味本位でそう聞いてみると、
「い、言えないわよ、バカ……あれ、凄く嫌で恥ずかしいんだから……」
……一体、ミリオン様の手によって何が行われるのか、無茶苦茶気になって仕方のない俺だった。
こうしてこの日は終わったのだけれど、俺自身の目標は何にも達成できていない。
さて、この先レオヴィルとラスカーズのことはどうしたら良いものか……
しかしこの数日後、新しいチャンスが巡ってきたのだ!
●●●
「それじゃあ出発しますよー」
「ええ……」
馬車に乗っている綺麗な格好をしたレオヴィルは気のない返事を返してきた。
やっぱりあまり気乗りしていないらしい。
公の場なので、このテンションはいささかマズい。
俺は手綱を手放して、レオヴィルの乗るキャリッジの扉を開く。
「そういう顔をしているのはよくないと思いますよ、お嬢様?」
「なによその言い方。ムカつくんだけど?」
「ムカつかれたって構いませんよ。ほら、笑顔になって」
「嫌よ! 私は舞踏会なんかよりも、アルと害獣駆除に行きたいわ!」
まったくこのお嬢様は……こういうわがままなところは姉のポワフィレやパルトンとよく似ている。
「……じゃあ、今日の舞踏会を頑張りましたら、明日は朝から俺と狩に出ましょう」
「ホント!? じゃあ我慢する!」
レオヴィルの顔がぱぁっと明るくなった。
そういう顔は俺にじゃなくて、ラスカーズにしてもらいたいんだけどなぁ……
てか、我慢って……
「あとちゃんとヒールを履いてくださいよ」
俺は馬車の隅へ放り投げられている綺麗なヒールを指す。
「踊るときには履くわよ。今は良いじゃない」
ちなみにレオヴィルはヒールが大嫌いだ。
歩き辛いの嫌らしい。
こんなことでご機嫌を損ねてはいけないので、この話はここまでにしておいた。
俺は馬車を発車させた。
これから北の大地の王城で、年に一回のジュリアン家主催の舞踏会へ向かうためだ。
この絶好な機会をレオヴィルとラスカーズのために上手く利用しなければ!
●●●
「まぁ、お姉様! レオヴィル、またアルビスとイチャイチャしているわよ!」
前方の馬車を見ながら、次女のパルトンが言い放つ。
「全く贅沢よ! ラスカーズ様といった超優良物件があるにも関わらず! むきーっ!」
長女のポワフィレは悔しそうに唸り声を上げている。
「やってしまいます、お姉様?」
「良いわね、こんなチャンス滅多にないわよね」
「「うふふ……」」
先日、母親からこっ酷く叱られた筈なのに、懲りないバカ姉妹である。
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