大勝利!
「GAAAA AAAAAーーーーっ!!!」
「ア、アルビス、離れろ! 今のそいつはヤバいぞ!!」
俺はそんなノワルの声を振り切って、ベヒーモスの真正面に躍り出た。
今のベヒーモスは怒り浸透、攻撃力マックス。
でも俺にとっては絶好のチャンス!
「GAAAAーーーー!!」
ベヒーモスは猛然と突撃を仕掛けて来ている。
俺は首からぶら下げている、青い宝石のはまったレリックを握りしめた。
「今日も力を貸してください、シルバルさん……聖光壁(セイントウォール)っ!」
暖かい光がレリックから溢れ出た。
それはあらゆる災厄から守ってくれる壁となって現出した。
1日一回限り。
だけどどんな攻撃でも防いでくれるのが、シルバルさんから譲り受けた"守りのレリック"の力。
そして発動させた光の壁とベヒーモスが正面からぶつかり合う。
「くっーー!?」
靴底が滑り、レリックを掲げる手に強い圧力を感じた。
予想以上に、ベヒーモスの突進に威力があったからだ。
てか、この突進力凄すぎる……! 防ぎ切れるのか……?
そう心の中で弱音を吐いていた時、両脇に暖かくそして懐かしい感覚を得る。
「シルバルさん? それにシグリッドも……?」
どうやらこのレリックにはシルバルさんは基より、シグリッドの願いも込められているらしい。
幻影として現れたシルバルさんとシグリッドは、俺と一緒になってレリックを支えてくれている。
「ありがとう二人とも……二人が一緒なら、恥ずかしい姿なんて見せられないよなぁぁぁ!」
「GAAAA!!!」
遂に光の壁がベヒーモスを押し返した。
ベヒーモスはそのまま地面へ叩きつけられる。
俺はすかさず、物真似の能力を発動させた。
青白い輝きが身体中から湧き出て、形を成してゆく。
「これで終わりだぁぁぁぁ!」
『GAAAAーー!!』
俺の切り札"物真似カウンター"ーー相手から受けた攻撃を、そっくりそのまま真似てお見舞いする最大の技。
俺の能力で生み出されたべヒーモスは、倒れたままの本物のベヒーモスを睨んだ。
そして砂塵を巻き上げながら、一心不乱で突進してゆく。
「 NNGAAAAーー!!」
本物のベヒーモスは、俺のベヒーモスに突き飛ばされ空高く打ち上がった。
●●●
ーーアラモ達との戦いから1ヶ月が過ぎた。
ようやくイーストウッドタウンには日常が戻って、活気に満ち溢れている。
復旧に1ヶ月もかかっちゃったのは、俺が能力でアラモのベヒーモスを吹っ飛ばして、街の一部をめちゃくちゃにしちゃったからなんだけど……その点については、みんなへはちゃんと謝ったし、街を救ったってことで無罪放免となった。
勿論、俺も復旧を手伝った。
漆黒の騎士団の連中も汚名返上と言わんばかりに、復旧作業を手伝っていた。
そんなある日の出来事。
漆黒の騎士団と、ノワル達とたまたま、片付け現場が一緒になった時のことだ。
「ア、アルビス! 話したいことがあるんだ!」
「なんだよ話って?」
作業の途中でノワルから声をかけきた。
なんかすっげぇ緊張してる。
まるで女の子への告白の時みたいじゃん。
「その、なんだ……」
「おいおい、言いたいことがあるなら早く言ってくれよ。これでも俺たち、今仕事中なんだぜ?」
「ーー! アルビス、3年前にお前へしたことは謝る! 本当に申し訳なかった!」
ノワルは突然そう叫んで、いきなり頭を下げてくる。
「ああ、もう良いよ、そのことは」
おかげで色々と能力のことに気づけたり、お前達よりも大事にしたい人達と出会えたしね。
全く気にしていないわけじゃないけど、それなりには落ち着いている。
「そ、そうか! 気にしてないのなら、また俺たちと……」
「悪いけど、それはできないよ」
俺は先回りして、そう言い放った。
早くも答えを出されてしまったノワルは、困惑の色を浮かべている。
「やっぱりまだ俺たちがしたことを……」
「それもある。だけどそれだけじゃない」
「なら!」
「だって今のノワル達は、4大国家の犬なんでしょ? あっちへ行けと言われれば従わざるを得ない立場なんでしょ? 俺、そういう窮屈なのは嫌なんだよ。やることは一緒でも、俺は自分で考え、自分で行先を決めたいんだ」
「……分かった。手を止めさせて、悪かったな」
すっかりしょげてしまったノワルは、俺に背を向けて歩きした……のだが、すぐにまた振り返ってくる。
「アルビス! 3年前は本当にすまなかった! またいつの日か、お前と一緒に戦えたら嬉しい! その時は宜しく頼む!」
ノワルはそう叫んで、深々と頭を下げ、作業へ戻ってゆく。
相変わらず真っ直ぐな癖に、妙に人目を気にするやつだなと思った。
俺もノワル達もやることは同じだ。
英雄の村から旅立った者として、困っている人を助け続ける。
だからいつの日か、また道が交わる日が来るかもしれない。
まぁ、ノワルはもう良いとして、問題はネーロだよな。
俺、あの子をケチョンケチョンにしちゃった訳だし、当分ノワルたちと共闘することは難しいだろうな……
●●●
悪漢アラモが逮捕されたことで、ここ1ヶ月の間は南の荒野全域に平穏が訪れている。
数々の街を壊滅させ続けたアラモに情状酌量の余地はない。
裁判の結果、アラモには絞首刑が下った。
しかし、奴が最期の瞬間に放った言葉が、一部で物議を醸している。
「俺は西の果ての国に人生を狂わされたんだ! あのとち狂った国に! ガキ一人を守るために、毎年大勢の命を奪っているあのクソ国家に! 広大なる大陸で安穏と暮らしてるバカ共め! お前達の平穏は俺たちのように捨て駒扱いされている、多くの兵士の犠牲の上に成り立っているってことを忘れるな!!」
西の果ての国ーー広大なる大陸随一の超大国で、4大国家の盟主国でもある。
アラモが言うように人の命が平気で奪われるようなことが、あの豊で平穏な国で本当に行われているのだろうか?
そんな噂が広まりつつある。
俺も、アラモの言葉の真偽については興味があった。
いつかは西の果ての国へ赴きたいと思う。
そのためにも、俺はもっと強くならなければならない。
今のままでは、西の果ての国へ辿り着くことはできない。
だから、俺はーー
●●●
「じゃあな、ドレ。元気で暮らせよ。さようなら……」
俺はドレの部屋の前で、そう呟いた。
そしてこっそりと1年間お世話になった酒場から出てゆく。
まだ夜明け前なので、人通りはない筈だった。
「おはようアルさん。こんなに朝早くに出かけるならあたしも誘ってよね!」
ドレはいつもの調子でそう言ってくる。
まさか、こんな時間に待ち伏せされているだなんて想定外だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます