南の荒野からの旅立ち
「今日は魔物退治? それも何かの収集? とりあえず早く行こうよ!」
「……」
「なんてったってイーストウッドタウンを救った最強のコンビのアルさんとあたしなんだからさ! 二人で行けばなんでも楽勝だよね!」
「…………」
「ねぇ! 黙ってないでなんか言ってよ! アルさんっ!!」
ドレの瞳から涙がこぼれ落ち、頬に軌跡を刻み始めた。
悲しそうなドレの顔をみて、自分が残酷なことをしているのだと思い知る。
しかし今はどうしても、俺とドレの道を重ねるのは不可能だ。
「悪い、ドレ。ここから先は俺一人だ」
「なんで? あたし、アルさんより銃が上手だよ? この間だって、あたし凄くアルさんの役に立ったでしょ? 邪魔じゃないでしょ?」
「ドレは凄く優秀なのは分かってる。できれば俺だって、君のことを連れて歩きたい。だけど、それが法を破ることだって君も知っているだろ?」
「それは……」
4大国家間で結ばれた条約の一つに成人未満である15歳以下の民の移動の禁止があった。
これは未だにこの大陸には危険な魔物が多数生息していて、子供の未来を守るためだった。
よって留学など特別な事情がない限り、15歳未満の子供は基本的に住居の移動を禁じられている。
もしもこの法を破って逮捕などされれば最後。
成人しても生まれ育った街からは一歩も出ることが叶わなくなってしまう。
「あたしが大人になるまで、待ってはくれないんだよね……?」
ドレは酷く怯えた様子で聞いてくる。
それは一時考えたこともあった。
しかしそのために、もはや俺にとっては何の成長も得られないここであと一年を過ごすことがどうしても納得が行かなかった。
確かに俺はユリウスよりも強くはなかった。
辛くもアラモのベヒーモスに勝つことができた。
だけどまだ遠い。
俺が人々をその力をもって救うようになりたい……そう思うきっかけをくれた偉大なあの人いる頂きにはまだ……
「悪いけど、ドレが大人になるまで待ってはいられないんだ」
だからこそ俺は、歩みを止めてはいけない。
まだ成長ができる余地があるならば、それが少しでも早く叶う場所を目指して。
これからもただまっすぐと。
「ごめん、わがままを言って困らせて……だったら代わりに……」
ドレは肩を震わせながら、そして……
「これとアルさんの使っている銃を交換して欲しいの」
ドレはいつも腰に差していた銃を差し出してきた。
この銃はドレのおやじさんの形見である銃で、アーミーアクションというものだ。
俺が愛用している安物の銃とは比べ物にならない高級品だ。
「交換って、本気か?」
「あたしが大人になったら、また交換して貰うから。それまでこれをあたしだと思って大事にして……」
「……分かった。それじゃあ、その日まで借りておくよ」
俺はドレからアーミーアクションを受け取った。
代わりに腰に差していた安物の銃をドレへ握り渡す。
ドレは俺の銃を胸に抱きしめる。
そして涙を拭い、いつもの元気な眼差しを向けてきた。
「大人になったら絶対にアルさんを探し出して銃を交換してもらうから! 絶対に絶対にアルさんの側に行くから! だってあたしは……あたしは、アルさんのことが本気で大好きなんだからっ!!」
「ありがとう、ドレ。それじゃあ、その日を楽しみにしているぜ!」
俺は南の荒野で愛用していたハットをドレへ被せた。
「アルさん、絶対に追いつくからね! だからあたしのことを忘れないよでぉー!!」
そして背中にドレの声を受けながら、朝日の登り始めた荒野へ旅立ってゆく。
またいつの日か、ドレと再会日を願って……
●●●
南の荒野を立ち、次の目的地として"北の大地"を定めた。
ここは広大なる大陸では、西の果ての国次ぐ勢力の国だ。
北の大地の魔物は、東の山や、南の荒野とは比較にならないほど強い。
また、一年の半分以上が雪と氷に閉ざされた土地である。
さらなる強さを求める俺にはうってつけの場所だった。
……だからこそ、もっとちゃんと準備をしておけばよかったと思ったのは、北の大地へ入ってすぐのことだった。
「やばいぞ、こりゃ……!」
初めて感じる雪と風の冷たさに、俺は苦慮していた。
寒さは東の山で慣れていると侮っていた。
雪と氷の世界である、北の大地を俺は完全に舐め切っていた。
毎日吹き荒れる雪と風に、俺は体力を奪われ続けた。
そしてこの地に生息する魔物にも苦しめられた。
こんな劣悪な環境を棲家にしている魔物は、噂通り東の山や南の荒野とは比べ物にならないほど強かった。
それでも最初の頃は、まだ金があったのでなんとかなった。
一年ほどは、何とか生き抜くことができた。
だけど寒冷地用の装備を買い揃えたり、物価の高い北の大地の経済が、じわじわと俺から金を奪い去ってゆく。
やがて、北の大地の長い冬が終わり、短い春が訪れた。
その頃の俺は金もほとんど失っていた。
寒さにやられ、身も心もボロボロになっていた。
もう、俺の旅はここで終わりなのかな……
そう諦めかけたていた俺へ、唐突に救いの手が差し伸べられる。
「貴方うちに来なさい! 気に入ったわ!」
小春日和のある日、俺は綺麗な身なりをした彼女に出会った。
ーーこれが北の大地きっての豪農家の令嬢、レオヴィル・ボルドーとの出会いだ。
彼女はまさに俺にとっての救いの女神だった。
絶望に打ちひしがれていた俺は、藁にもすがる思いでレオヴィルの誘いを受ける。
そして今、俺は2年間ほどボルドー家の三女:レオヴィル・ボルドーの側用人として仕えている。
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