第38話

 俺はアリスの後を追った。 

 給仕からお世話がかりの侍女へと、バトンとして渡される。

 アリスが連れていかれたのは公衆トイレだ。もちろん俺は中に入った。もちろん俺は個室の中には入らない、侍女と待つ。

 このトイレは集合所の近くに建てられており、洋式で男女とも入り口は別だ。

 中から声が聞こえる。酔いはトイレにいくと覚める気がする。


「おお、この高さで座れるとか画期的だ、酔っている身としては実に楽だぜ、それも尻が温かいし、思いやりを感じるな。ん? なんだ? このボタンは、……ひゃああああああああああああああ!」


 おお、洗浄ボタンに気が付いてくれたか、よかった。

 次に大浴場に案内する。

 この時間は入らないように言ってあるので貸し切りだ。もちろん男女別なのだが、作ってから気が付いて後悔した。

 もちろん俺は付いていく、接待の確認をしないとね仕方ないね。


「うぅ、俺様は汚されたのか? 侍女、あれは悪魔のトイレじゃねぇか」

「そ、そうかもしれませんね~。私も最初は驚きましたけど、今は気持ちいいですよ~」

「気持ちいいのか!? 待て侍女、なぜ服を脱がせるんだよ!? まだ明るいぞ! ……というかなんでここは明るいんだもう夜のはずだぞ!」

「お風呂に入るためですよ~、温かいお湯でとても気持ちが良いです。この村には数か所、夜でも明るい場所があるんですよ~」

「風呂!? こんな村に風呂があるのか!? それにこんなに明るくなる魔道具聞いたことがないぞ! 魔石の消費が激しすぎるだろが!」


 大事なところが隠れるほどの明るさなんて俺ももとめてないぞ! やめろ! 邪魔をするな光!

 服を脱がされ浴場へと入っていった。もちろん俺もついていく。


「お湯をかけますね~目をつむってください」


 なんだがビクビクしているが容赦なく頭からお湯がかけられた。

 今度は湯気が邪魔をした。


「子ども扱いするんじゃねぇ! ひゃん、……あれ? 温かいぞ?」

「は~い、頭ゴシゴシしますね~」

「おいなんだその液体は! 石鹸つかえよ!」


 ボトルから侍女の手に出されたものを指さしながら抗議しているようだ。


「シャンプーですよ~ 目に入らないようにそれを付けてくださいね~」


 先に着けることを忘れていたシャンプーハットを指さすと、アリスは珍しそうにそれを被った。


「おお! こりゃ便利だな! 目に水がはいらないようにするためか! 売れるぞ!」

「わしゃわしゃ~、わしゃわしゃ~」


 可愛い。


「お前さっきから俺様のことを子ども扱いしてねぇか!? 立派な大人だぞ!」 

「は~い、一回流しますね~」

「おい聞いてないだろ! ひんっ!」


 可愛い。

 侍女は手際よくボディタオルにボディソープを馴染ませ、洗っていく。


「ちょちょっと待て! 体は自分で洗う! 自分でやるからもう出てけ!」

「そうですか~じゃあ外に行きますね~」


 もちろん俺は出て行かない。

 今度は泡が邪魔をした。

 ぶつぶつと何かを言いながら体を洗い、驚愕した。


「汚れ落ちすぎだろ、俺様って汚かったのか? よく泡立って気持ちいいなこれ、良い匂いもするし絶対売れる。あの男共ではこの価値を理解できないだろうな」


 そういい洗い流すと大浴場に飛び込んだ。


「ふわ~あったかいぞ~。まさかこんな村でこんな大きな風呂があるとはな~。なんか浮いてるし~、柑橘類になんの効果があるかは知らんがいい気分だ~、もう動きたくない~」

「そんなあなたに差し入れですよ~」

「ふあ!?」


 リラックスしすぎて、言葉使いが乱れてきた、それが見られて恥ずかしいのか、飛び上がった。


「アイスと日本酒ですよ~」

「音もなく入ってくるんじゃねぇ! てかなんでお前がいるんだ!」


 なぜかキュラがそこにはいた。


「アイスに少しかけて食べるのもまた美味しいですよ~」

「話しを無視するんじゃない!」


 勝手におぼんを浮かべて出て行った。

 アリスは湯に入りなおすとじわじわとそれに近づく。


「なんだこれ? 食い物、なのか?」


 少しだけ取ると口に入れた。


「あま~い、んふ~ふ」


 満面の笑みを浮かべた。周りに誰もいないからな。


「しかしなんだこの冷たさは、火照ってきた体に染み渡る。氷のような、それでいて舌の上ですぐとけ絡みつく、甘い、砂糖を使っているのか? こんな贅沢に。なんてものをなんて場所で出すんだこの村は! 日本酒といったか、少し強いがこれもまたこの場所に合う! アイスにも!」


 よくあんな度数の高い酒が飲めるなこの幼女。


「はぁ~きもち~ずっとここにいたい~、ママ~」

「は~いママですよ~のぼせる前に出ましょうね~」

「おまっ! なんでいるんだ聞いてたのか! ……誰にも言うなよ!」


 これがキュラだったら終わってたな。

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