第15話

「なんにゃこれ?」


 ネッコが見た先をみると。


「ひ」


 思わず声が出た。小さなおっさんたちが列を作って飲み物を妖精に運んでいた。

 よく見ると。


「ちんたらしないでね~、オッサンの存在価値なんてないんだから~」


 妖精がおっさんたちを顎で使い、指示していた。奴隷のように。


「なんだよ、あれ……」

「知らないんですか? 妖精のオスは生まれてすぐに、中肉中背のおっさんの顔に成長し魔力もなく、羽もなしで腰にはっぱを巻き、交尾したいがために一生尽くすんです。ただし、オスの数はすくなく体系の合う種族がいない妖精は一夫多妻制なので、それを羨ましく思う種族もいるみたいですよ。妖精が飛んで遊んでいるだけで暮らしていける理由ですね」


 なんだ幸せじゃん、奴隷じゃねーわ。てゆーか許せねーわ。ハゲデブのくせに!

 フェアに食事を運んだおっさんが言った。


「オウフ、す、すみませぬ。フェア氏がこのお食事を気に入ったようなので、もっとほしいといっているのでござるよ、娯楽は少ないですからな。フォカヌポオ」

「お前何持ってるの?」

「こ。これですかな? これはフェア氏が書いてくれた拙者の似顔絵にござる」


 葉っぱに書かれた絵を見て思いついた。

 おやおや、なるほどね。

 足取り軽く向かう。


「これ、なーんだ」

「? なんなの?」


 フルーツサンドと差し入れを渡し。


「気が向いたら出て来いよ、いくらでもあるぜ」


 俺は微笑んでからその場を後にした。

 数分経つと、重い扉が開かれ、フェアが俺たちの元へとやってきた。


「これの続きがはやくほしいの!」


 それは漫画であった。

 物で釣るのだ~。

 続きを渡すとその場で読み始める。 


「どうする? 俺たちの仲間になるか?」

「初めて同志の作品を見つけたの。フェアもこんな作品を書いてみたい、でもフェアなんかがこんなにすごいのできーー」

「出来るか出来ないかじゃない、やりたいかやりたくないかだ! やりたきゃこいよ、俺がお前の活躍の場を整えてやる」


 どっかで聞いたようなよくあるセリフだ。でもこいつならこれで。


「……行くの! フェア頑張るの! それからフェアには呪いがあるの、だから守ってほしいの!」


 漫画から目は話していなかった。ずっと下を向いたままだが気持ちは伝わった。

 呪いか、もしかしたらそれが引きこもっていた本当の理由なのだろか。

 契約の光を見た後フラッシュバックした。

 ああ、落ちながら下着に手を伸ばして掴んでいる。知ってたことだな。

 フェアの見た目はスーパーロングの明るい金髪だった。

 おかしい俺の大好きな黒髪ロング麦わら帽子ワンピースが似合うようなおしとやかな子がいない? 俺の使徒なのに?

 いやそんなことより。


「呪い……、ギフトか?」

「わからないの、ただ一定の知能が低い者が……低能なやつが、妖精族にとって大切なーー」


 その時! フェアの羽がネッコによって毟られた。


「羽を毟ってくるの~」


 涙目になっていた。


「馬鹿野郎! こらネッコ! 返しなさい!」

「ご、ごめんなさい!」


 ネッコが羽をくっつけようと背中に着けるも、ハラリと地面に落ちた。


「なんでこんなことしたんだ! 泣いちゃったじゃないか! 仲間だぞ!」

「わかんない、気が付いたら毟ってて、他の妖精にはなんともないのに、もう絶対こんなことしないから許して、ごめんね?」

「ぐすん、……いいの、すぐに生えるから気にしないでなの、ほら、もう生えてきたの。もうフェアは気にしてないの、羽があればメスの妖精族として見られるから。言葉がわかるようだし次からは――」


 毟り。


「っ! ごめん! 手が勝手に」

「お前ってやつは! ほら檻に入りなさい!」


 フェアが絶望した顔をしていた。

 俺は買った檻の中にネッコを入れようと。


「ありがとなの」


 ……フェアが入っていった。


「なんか、ごめん。仲間なのに」

「いいの、檻の中は安全なの!」

「にゃ! にゃにゃにゃ」


 生えてきた羽はまたネッコに狙われていた。


「この低能! いい加減にするの! ヒゲむしり取ってやるの!」


 安全になるとイキりだすなぁ。


「お前ちょっと獣人の姿に戻ってみたら?」


 変身すると正気に戻ったようだった。


「ごめんね? なんかすごく、羽を毟らないと気が済まない感じになっちゃって、これが呪い?」

「はやく腹見せて服従するの! 低能! 低能! 謝って済んだら殺人なんて起きないの!」

「……いこっか、冒険に」


 遠くの妖精から妖精攫いと言われながら、檻に入れたフェアたちと生贄の村に向かう。




 フェアリー達から妖精攫いだの、密猟者だの言われながら帰ろうとすると、光の矢が大木をなぎ倒しながら過ぎていった。

 その矢がどこから来たのか、最初に倒れた大木の元を見ると、一人の幼女が腕を組んで偉そうに立っており、注目を集めていた。

 見た目からは似つかわしくないアンバランスな口調で幼女は言葉を発する。


「てめぇらか、俺様の家にファイアーアローをぶち込んできやがった野郎どもは! 気合いれろや! 夜・露・死・苦! だゴルァ!」

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