第31話

 獣人たちの会話を小耳で聞くと。


「うめ~! このタレも相当に肉の美味さを際立たせるが、このコーラ! この刺激もまたたまらん! 油を洗い流してさわやかな気分でまた肉が食える! そしてこの砂糖の甘さ、すげぇ贅沢品だぜ!」

「だな~、こんなのが飲めたら砂漠も苦にならんな!」

「わかるわ~、そういえばサキュバスの集落は大丈夫だったんだろうか」

「その話詳しく!」


 体力が回復した。

 なんでも蛇から逃げるときに魔族領の近くを通ったらしく、その時にサキュバスに出会ったそうで、蛇に襲われていないか心配だったそうだ。もちろん詳しい場所を聞いた。


「じゃ、俺もう行くので、獣人族のみなさんは自分で俺の村まで来てもらえますか? みなさんなら大丈夫でしょう、来るときにネッコが魔物とか気づかずに踏みつぶしてたので」

「なんと!? 村に招待してもらえるのですか!? ありがとうございます。確かに承りました。かならずや」

「あ、大事なことを。俺達より先に村についても襲ったりとかしないでくださいね? じゃ、そういうことで! あっちの方角にネッコの足で一日くらいの距離にあります! よし、行くぞネッコ」


 ネッコが変身するのを待ち飛び乗った。もやはこいつには乗り物としての価値しかない。


「待ってください、ネッコのこと、よろしくお願いします」


 ネッコの父と母が頭を下げていた。


「ネッコは確かに馬鹿かもしれないが、親からしたらそんなことは些細なことだ、元気でいるならそれだけでいい。なんなら生きていてくれさえすれば、それ以上はなにも望まない、君にもすぐにわかるだろう」

「お父さんの言う通りです。本当に馬鹿な子ですが私たちの大切な子供です。だからどうか捨てないで」

「捨てませんけど!?」


 急に父親っぽく言うやん。


「まさか交尾する前に挨拶に来るなんて、お父さんは感動した。許す! はやく子猫がみたいなぁ」

「早く孫の顔を見せてくださいね、もう私たちの手には終えない年齢です、絶対に出戻りなんてさせないでください」

「楽しみだ、娘の花嫁衣裳はどんなのだろうか」

「楽しみですね、どんな立派なお屋敷を買ってくれるのでしょうか、もちろん両親にもなにかしらの――」


 ひっひふー、ひひっふー、やばいこいつら怖い。


「ネッコ! はやく! はやくいけ! これ以上聞きたくない!」

「うんわかった~!」


 飲み物を貢ぐことにして、スポーツドリンクを何本も投げ捨てると、サキュバスのもとへ急いだ。

 しかし親の気持ちか。確かにネッコは馬鹿だが可愛く、かわいく……見えないな、俺こいつの親じゃないし。




 サキュバスの集落はまだ見つからない、方向と距離はわかっていたが、頼りにしていたネッコの鼻が役に立たなかった。嗅いだことがないから、らしい。

 森の中で集中して探していたため気が付いたらもうすぐ夜だ。


「仕方ない野宿だな」


 もちろん森の中でそのまま寝るなんてことはしない、寒いのも虫に刺されるのも嫌な温室育ちだ。

 テントを買い組み立て、キャンプ道具一式も買う、別に金はあるのだから。

 しかもこいつがいるから労せず運べる。


「まずは飯だな」


 みんなの分をテーブルに用意すると、場所が足りなかったのでキュラだけ。


「…………あの、なんで私の夕食だけ地面に置いてあるんですか?」

「え? いけなかったか?」

「おかしいでしょう普通に!?」


 最近普通がわからない。食事を粗末にするつもりはないから、ちゃんと綺麗な段ボールの上に置いてあるんだが?


「あたしが食べたげるよ~」

「ああ何するんですか私のご飯!」

「そうだぞ地面のものを食うな! 汚いだろ!」

「え?」

「え?」


 やばいバレたか。

 食ったら寝るが基本だ。すぐに準備しよう。


「集落で暮らしてた時より快適だよ~」


 銀マットの上に丸まり、毛布で包まったネッコは満足していた。虎の姿だが。


「明日こそ集落を襲ってサキュバスを捕まえるんだ、にゃごにゃご」


 こいつはタチの悪い寝言だな。

 ライト式のランプを付けると。


「ちょっと非常識ですよ!? ここに吸血鬼族がいたら一言断るのが筋ってものでしょう!?」


 ……うぜぇ、疲れてるのに。でもいい機会だし能力の把握くらいしとくか。

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