第5話

 すべて不問ならば、お嬢様が使徒だろうが、奴隷の中にいようがカバーできる、完璧だ。もちろん許された後なのだから謝礼も期待できるしな。


「おにいたま!? こちら側につく寸前だったじゃないっすか、考え直してくだ――」

「護衛さん、お嬢様を中に、外は冷える」


 盗賊の言葉を遮った。

 これ以上お前の汚い言葉をお嬢様に聞かせるわけにはいかない! 俺に後ろめたいところなどない!

 護衛さんが指示を出し、お嬢様が馬車の中に入るのを確認した後。


「もうすぐ完全な夜だ、裸にはつらい時間帯になる、決着をつけよう」


 盗賊が身構える、子分たちが数人がかりで人二人分はあろうかという大斧を届けると、盗賊はそれを片手で軽く振り回し状態を確かめていた。

 落ち着け俺、俺はこの場では予想外の存在のはず。盗賊はきっとあの護衛さんたちに勝てる自信があるから馬車を襲うことを計画したはずだ。オタクの感だが、気力とはおそらく身体とか武器を強化する的なものだ、あんな斧普通持てないし。だったら俺のとる行動は馬車に近づかせず、俺も近づかない、魔法だな。使いこなして見せるぜ!


「おい、敵なんだからよ、もうおめぇは、殺すぜ?」

「さっきまでの、おにいたま呼びは、まぁ嫌いじゃなかったよ」

「は! だったら今からでもこっちにつけよ、あの護衛してた奴もちったぁやるが、所詮は上位ギリギリってとこだ。その一撃を弾いたおめぇの気力はもしかしたら英雄、いや勇者程度ってとこか?」


 神なんで。


「そんなにすごいと思うなら降参してくれよ、俺だって悪い気はしないし。それにたぶん俺、……強いぞ?」

「格上だぁ? 英雄だぁ? 勇者だぁ? ……超えてやるよしゃらくせぇ! 今までそう言って儂の前に立ったやつは全員ぶっ倒してきた! 次はおめぇの番だなぁ! いくぜ不意打ち上等だコラァ」


 盗賊は大斧を振りかぶり地面に叩きつけた、砂煙があがる。

 不意打ちね、わざわざ言うとか舐めてんのか? 確かに見たぞ。馬車に目線がいき、駆け出す体制の足の位置に姿勢、それを隠すための硝煙と音だろう。 

 後ろに下がり距離を取った、こちらからしたら時間ができるのはありがたい。

 まだ護衛さんと、盗賊の強さがどれほど差があるかわからないからな。

 無理をする気はない、様子見、距離を取る。その考えは、間違っていたとすぐにわかった。

 ……斧が飛んできた。


「うおっ!」


 それを体で弾き――びっくりして動けなかっただけだが――身構えると。砂煙が晴れる。


「はっ! その斧を弾くたぁやっぱり化け物みてぇな気力してんなおめぇ! だが俺に魔法がないと思ったのかぁ? 残念だなぁにいちゃん」


 盗賊は距離をとり魔法の準備をしていた。

 三本の、炎で作られた矢が盗賊の周りに浮遊している。


「どんどんいくぜぇ! 我が意志に顕現し、炎の矢となりて、敵を貫き爆ぜよ!」

「お頭にありったけの魔力を渡せぇ」


 は!? 魔力って渡せるの!? ずりぃぞ!

 一つが飛んできたと思うとまた一つ飛んでくる、断続的な攻撃を丁寧に躱すが終わりが見えない、避けるたびにまた新しいのが作られているようだ。

 腰布を燃やすわけにはいかん!

 魔力というのに総量があるのならば、いつかは終わりがあるだろうが、この世界の魔力については女神から聞いていない。それに、盗賊の興味が俺から馬車に向かうのはまずい。

 つまり持久戦は避けたい。

 飛んでくる炎の矢を横からちょいっと触ってみたが特に熱くはなかった。ならば。

 次の矢を掴んだ。爆発したが腰布は無事だったようだ、かばったからな。


「はああああああああああ!? にいちゃんさすがにそれはおかしいぞ!? 魔力までたけぇのか!?」


 盗賊に驚かれた。


「打ち止めだ、効かねぇようだし、もう魔力がねぇ」


 魔力切れのようだった、俺の考えは何だったのだろう。

 しかし何回も見たおかげで魔法の原理は少しわかった気がする。


「なぁにいちゃん、こいつらはよぉ、俺に付いてきてるだけなんだ、根っからの悪じゃねぇ、もしだ、もし俺が負けてもこいつらの命だけは助けてやってくれねぇか?」

「……あぁ、奴隷にするけどな」

「そいつぁよかった、にいちゃんはいいやつだなぁ」


 そうか? 別にいいやつではない、どうでもいいだけだ、それより魔法が撃ってみたい。

 まず、魔力の解放、こうか?


「おいおいおい! なんて魔力してやがる! 純粋な魔力だけでこの大気が震える、……ビリビリくる感覚、はじめてだぜ、……兄ちゃん本当に人間かぁ?」


 そんで魔法の想像? ファイアーアロー。


「なっ!? 詠唱破棄だと!? それにみたことねぇぞ、そんなでけぇファイアーアロー! いったいどんな魔力込めたらそんなでかさになるんだよ、…………おめぇらもっと離れとけ! 相棒おめぇもだ、達者で生きな!」


 盗賊は頭の虎を地面に置いた。

 え? それ生きてたの? ちょっと被り物にしては小さいなとは思ってたけども! いかん集中力が! 

 すこし小さくなったファイアーアローのために魔力の放出を増やした。


「ははははは! まだでかくなるのか! ……ガキの頃におとぎ話で聞いたことがあるぜ、たった一発の魔法で国を吹き飛ばした化け物の話しだ。……何が勇者だ英雄だ、伝説も超えて化け物級かよ。はっ、まさか実在するとはなぁ、この正真正銘の化け物が!」

「おかしらぁ逃げてくだせぇ!」

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