第6話
盗賊の子分が肉壁になる気なのだろう前に出た、全身震えていたが目は俺を射殺さんとばかりに睨みつけている。
小さな虎も子分たち同様かばっているようだ、先頭に立っていた。
「馬鹿野郎どもぉ!」
子分たちを弾き飛ばした、それは盗賊の筋肉質な腕からしたらひどく優しい攻撃に見えた。
「待ってくれ! 頼む! お頭はなんも悪いことはしてねぇんだ! 俺達をかばって守ってただけで賞金首にしたのも貴族の連中なんだ!」
子分たちをかばう位置についた盗賊は声を荒げる。死を覚悟したものの最後の声か、それとも背に守るべきものたちを置いた父の声か、俺にはどちらにも聞こえた。
「他国を荒らし、誰が呼んだか大盗賊ぅ! 無一文から成り上がりぃ、気が付きゃ背には大事な子分! 大釜一口飯を食い、強者共との大乱闘! 儂の人生一片の悔いも残しはせん! その大魔法わが身一つで受けきってやらぁ!」
「おかしらぁああああああああ!」
「こいや! 化け物ぉぉぉおおおおおおおおお!」
一世一代の仁王立ち、その姿はまさに鬼と呼ぶにふさわしかった。
俺の初魔法は盗賊に向かい放たれた――。
「がぁあああああああああああ!」
盗賊の気合のこもった声とともにファイアーアローは飛んで行った、誰にも当たらずに。
いや外したわけじゃないよ!? でも撃てないよあんなのみせられてさぁ。てか化け物って言いすぎだろ!
と、言い訳を心の中で呟いた。
というかもしかしたらこの盗賊が使徒の可能性もあるのか。
「ところでギフト持ちいる? 仲間にほしいんだけど」
少しして落ち着いたところで。
「なんでぇ? アニキはギフト持ちを探してたのかぁ? ギフト持ちなんてそうそういねぇうえに、役に立つの持った奴なんてさらにいねぇぞ?」
「ふーんそんなもんなのか、盗賊はどんなギフトなんだ?」
「はぁ? 儂はギフトなんてもってねぇ。たぶん奴隷にもいないと思うがなぁ、役立つギフトならそもそも奴隷になってねぇだろ」
確かに! こいつ正論野郎だわ!
じゃあやっぱお嬢様か?
「あたし、ギフト持ちだよ」
あん? なんか聞こえたが?
「盗賊の後ろから聞こえたぞ」
盗賊が振り返るが誰もいなかったらしく、回り込んで覗いてみたが、確かに誰もいない。
「思い描いた形に姿を変えられるギフトを持ってるよ? 結構強いと思うんだけど」
虎の毛皮、いや確か小虎だったかが盗賊の頭から降りると。
「化け物級! あたしと勝負だぁ!」
と、飛びかかってきたので叩いた。飛ばされて地面に落ちたわけだが。
「やばっ!」
力加減がまだあまり上手くいかず、ズサアアアアと地面に擦られるくらいの力で叩いてしまった。だが。
こいつ! 無傷だと!? あのもふもふの毛皮が衝撃を吸収したのか?
「ふみゃ、……あれ、この匂い……ふふ、わかった。四分の一くらいの力しか出してないけど、あたし付いてってあげる!」
「お、おう?」
え? 終わり? 変身しなくてよかったのか?
小虎を覆うように光が地面から上がった、俺が転移された時のような光だ。
使徒の契約とかだろうか。なんとなくこの小虎が俺の使徒であるような気がする、第六感的な感覚がする。
その時軽い頭痛がした、死んだときのことを写真で見せられたように思い出す。フッラシュバック的な。同級生が他校のヤンキーに絡まれているシーンだ。ベランダを指さし、下着を取ってこい的な指示でもされているんだろうか。俺の住んでいるマンションの横を差していた。
「これがあたしのほんとの姿だよ」
ピンク色した小虎がピンク色の髪をした猫耳に猫尻尾の、猫獣人? に変身するのを眺めた。
髪の長さはボブくらいで活発な印象を持つ髪型だ。身長は中学二、三年生くらいだろうか。
腰に両手をあてて気が強そうなポーズをしているが。
「あたしはネッコ! 誇り高き虎獣人のネッコ!」
あれ? 虎? 虎の耳って丸くなかったか? あれでも、虎になってたから虎なのか? ん?
「ま、まぁ奴隷から助け出したお礼に仲間になるのってお約束的な?」
「奴隷にしようとしたのはおにいたまだよ?」
小首をかしげてもそれは認めん! まだ奴隷にしてない!
「というかおい待て、なんだその呼び方は」
「さっき盗賊のおじさんがそう呼んでたよ?」
確かにそう言ってたけどもそれはさすがにヤバい。
「その呼び方はやめてくれ」
「じゃあ……おにぃ!」
そんな変わってねぇよ! なんなら今の俺より背高いぞ、いいのか兄で。
え? てかなにこれ? こいつが女神の言ってた使徒? 奴隷で惚れたりするんじゃなくて? 強者感だしてた盗賊じゃなくて? いい感じに助けたお嬢様でもなくて?
この、このクッソ弱い虎? いや猫だろ! なんなのこいつ! 少し落ち着こう、深呼吸だ。ふーふー。
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