第4話

 深く腰を落とし、突きに特化した構えを取っていた。

 どんな攻撃が来るかわかっていても避けられない、ということだろうか? しかし、先ほどの攻防から確信があった――。


「底知れぬ御仁よ、我が気力を一心に注ぎ込んだ刹那の剣、受けてみよ! 紫電一閃!」


 ――多分全く効かない。

 確かに速く、貫通力もあるのだろう。捻りを加えられた剣速は他の人には見えていないようだった。

 衝撃より少し遅れて音が聞こえた気がした。それだけで速さがわかるだろう。

 先ほどと同じ、乾いた音だが凄まじい音量だった、それだけで威力の大きさがわかるだろう。

 男の足が踏み込んだ場所は地面が抉れ、俺の後ろの草が吹き飛ばされている。

 膝から崩れ落ちた男の肩に手を置いた。


「そんな、馬鹿な……どんな高みにいるのか、はかれすらしない」


 格好よく去ろうとしたところで、森から山賊のような恰好をした集団が出てきていたため、俺は挟み撃ちになった。

 ドッジボールの真ん中の線に立っている心境だな。


「よぉ、にいちゃんも同業者だろ? そこの馬車一緒に襲わねーか?」


 うそ、山賊に同業者と思われる見た目してんの? 裸って相当やばいじゃん服ほしいんだが。

 話しかけてきた山賊は虎の小さな被り物をしていた。

 え? こんな怖いことがポンポン起きるの? 異世界怖くね?

 考え事をしていると先ほどの一番強そうな護衛も話しかけてきた。


「ま、まってくれ。先ほどの無礼を許してほしい。その山賊には見覚えがある。上級の上位、もしかしたら英雄に相当する盗賊だ。頼む、この通りだ、我々だけではお嬢様をお守りできないかもしれない、頼む」


 盗賊なんだ、間違えてごめんよ。


「なに言ってやがんだこいつぁよぉ、てめーは剣を振りかざした相手に協力してもらえるとでも思ってんのかぁ?」


 めっちゃ正論言うやん。

 これあれだ! ドッジボールでどっちのチームにもほしいやつのあれだ! 


「本当にすまないと思っている! もしこちら側についてくれたら我々一同全力でお嬢様にされた行為を不問にすることを嘆願する」


 そういえば使徒を探しに来てるんだったわ、これはさすがに護衛側だな。お嬢様が使徒かもしれないし。

 俺の足が一歩護衛側に近づくと。


「にいちゃん、いや、アニキ! あの馬車に乗ってるのは貴族の奴隷商ですぜ? 貴族であるのを良いことに言いがかりで奴隷にしてるんでさぁ! ほら馬車の後ろに他の馬車があるでしょう? あの中には可哀そうな奴隷がいるに違いありやせん! アニキだってあいつらを助けに来たんでしょう?」


 あれ? 待って? もしかして使徒の乗る馬車って後ろの馬車? 気が付かなかったんだが? 二人っきりのあの密室は倒せってことだったの? 確かに奴隷商人仲間にしました、って内容より奴隷助ける内容の方が異世界転移って多いよな?

 俺の足は盗賊側に向いた。奴隷商人なら誤解を解く必要ないし。


「ままま、待ってくれないだろうか、アニキ!」


 別にアニキ呼びで傾いたわけじゃねーから! 護衛さんもっと格好良かったじゃん!


「そうだ! 盗賊を倒した後にそいつらを奴隷にしないか? そうすればアニキ程の人物なんだ、後ろの馬車に乗っているもの全員を解放できる権利くらいもらえるだろう!」


 そんな三下みたいなこと言う見た目してないよ? だが確かに? 盗賊を捕まえて売り払って、金が入り、しかもお礼で奴隷解放使徒ゲット、これは悪くないんじゃないか? 下衆いこと言うじゃん護衛さん。


「アニキ! いや! おにいたま! あっしらを売り払っても大した金にはなりやせんが、奴隷商人の若い女なんて高く売れると思いやせんか!? なんなら親に売ればいい、いくらでも出すでしょう! それに騙されちゃいけねぇ、護衛に権限なんてないんだ、盗賊倒したんですか、はいおしまい。なんてことがありえますぜ!」


 !!!! 確かに! それだと盗賊の装備品の代金すらもらえず、なんなら俺がお嬢様に指名手配とかされて金に物を言わせて追い詰められて終わりじゃん!


「ごめん、護衛さん、俺――」


 そう言いかけたとき、いつの間にか消えていたお嬢様の悲鳴が聞こえないことに気が付いた。

 馬車のドアが蹴破られるとお嬢様が飛び出して来る。

 きっと今まで怖くて震えていたのだろう、もちろん変態にではなく盗賊にだ。


「いい!? 今から私が言うことは絶対なんだから! まず、すべてを許すわ! 次に! 好きな奴隷をあげていいわ! 最後に! 盗賊を倒しなさい!」


 左手は腰に右手は盗賊を指さし、自分こそが絶対的に正義とでも言わんばかりの声色でお嬢様は叫んだ。


「イエス、マム」

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