第3話

「よくないがまぁいい、俺は神になったわけだろ? 勝てるのか?」

「日本の法律的に? 負けんじゃない?」


 お前がやったんだけどな!


「だから違う! いやそれも大事だが、なんていったらいいか、異世界転移って言うのは戦えないと基本死ぬだろ、使徒って言うのに会う前に俺は死にたくないんだが」

「それはおっけぃ、魔力も気力も神レべだし~」


 ふむ、たぶん強いのだろう、そういえば神らしいしな。これなら安心だ。


「で? 魔力はまぁなんとなくわかる。ギフトと気力ってなんだよ」

「説明しもいいけどさ、あんたの方でさっきからずっと暴れる音? 聞こえんだけど、何とかしてくんない? あ~しうるさいの無理だわ」


 電話切られました。現実に向き合う時間のようです。

 まず考えてみよう、おそらく、この女が俺の最初の使徒というやつなのだろう。つまり誤解を解かなければならない。この密着空間で話をするためにはまず。


「だまれ」

「んんんんんんんんんんんんんんん!」


 めっちゃ暴れますやん……。

 っていうかいつまでこの状況なんだよ! 女だって暴れてドアとか蹴ってるのに! こんな高そうなドレス着てるんだから護衛とかいるだろ! せめて御者は! 馬たたいてる人!

 いつまで経っても状況が変わらず、いい加減漏れてくる声にイライラしてきた。というよりたぶん俺は今冷静じゃない、冷静じゃないと分かってはいても、この状況で完璧な対応は難しい。

 ドンッと、勢いよくドアを蹴り飛ばすと護衛と思わしき人物たちと目が合ってしまった。 


「へん、たい」


 かっこよく言うな、ぽつりとこぼす感じかっこいいじゃん。


「なん、だと」


 俺の下半身に視線をやるとまたもぽつりと呟いた。

 まぁ、立派な刀持ってるので。臨戦態勢なわけで。抜刀してるわけで。敵意はないよ?

 やはり顔はよくても全裸はいけないらしく。ハッと我を思い出したようにその護衛っぽい人が叫ぶ。


「へんたいだあああ! へんたいがでたぞおおお!」


 おかしくないけど、おかしくない? 俺って神じゃないの? 降臨したら剣持って囲まれてるんだけど。

 怖くてお嬢様を盾にしても仕方がない。

 ざっと見たところ、十人くらいの松明を持って鎧を着た護衛たちに囲まれる、馬車の出口側しか見えないが裏にも何人かいるのだろう。街道に止められた馬車に向かって次に発せられる言葉は。


「おい武器を捨てろ!」


 は? 丸腰だが?


「持ってないだろ! どこにあんだよ!」

「お嬢様の脇腹にあるだろ!」


 あ、暗いからかな、武器に見えた? これ、俺のイチモツだよ? ほら叫んだ護衛の人が隣で笑ってるよ?


「お嬢様から手を離せ!」


 ですよね。


「はい離しました」 

「きゃあああああああああああ」

「――! ――――!」


 また叫んでるよ……。もう護衛が何言ってるかわからないんだけど。

 馬車から降りて友好的に歩み寄っても剣は降ろされない。

 向けられる刃物は正直怖い、ますます俺は焦った。

 仕方ないよね。とりあえず、逃げるか。どう考えても日本なら有罪だし。確か護身術に布で距離とってみたいなのあったよな。

 お嬢様の服を剥ぎ取り――。


「いやああああああああああ」


 裸なのを思い出して腰に巻いた。

 顔は可愛くてもさすがにドレスを着るのはね、いや、無理やり着させられるのもなくはないが。

 お嬢様を盾にして――。


「助けてえええええええええ」

「動くなよお前ら」


 聞こえてるのかなこれ。いやまて、こちとら神だからね、人くらい余裕で飛び越えられるようになっているのでは? お嬢様邪魔じゃん。

 冷静さを取り戻してきた俺は、お嬢様を突き飛ばして飛んだ。

 余裕で飛び越え――。着地。

 そして、着地狩りにあった。そう、後ろから剣に刺された。


「な!」


 だが驚きの声をあげたのは俺じゃなく、護衛の方で。

 俺の肉体は剣を弾いた。聞いたことはないが、おそらく剣同士がぶつかるような音を出して。


「剣を弾くだと? 見たことがないぞそんな光景。………………ふ、ふはは、面白い! 全力でお相手しよう!」

「隊長の全力? どんな戦いになるんだ」


 他の護衛は期待のまなざしを向けていた。一度目を閉じ、構えが変わる。

 見間違いだと言わんばかりに男は二度、三度と剣を振るったが同じ音がむなしく響くだけだった。


「そんな……馬鹿な」


 一瞬の間をおいて。


「貴様、何者だ。英雄、いや勇者の領域、か?」


 何者と言われても、転生したら神だったとしか……というか神って名乗っていいのか? その辺りを確認しとかないとな。


「名乗らないか、だがこちらとて引くわけにはいかない理由がある! 我が必殺の秘剣ご披露しよう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る