第17話

「え!? ちょっと!? 言葉の駆け引きとかをもっとしてくださいよ!」


 逃げるキュラ。


「え!? ハッタリだったの!? に、逃げるの~!」


 逃げるフェア。

 そっか、フェアは勝てると思って調子に乗っただけだったか~。


「すいませんすいません私だけでも見逃してください仲間はどうなってもいいので私だけは! 仲間はどんな辱めを受けてもいいので私だけは綺麗なまま帰してください仲間の弱点もいいます靴も舐めますから!」

「! フェアだけでも助けてほしいの! こんな奴より絶対役に立つの、裏切って仲間にもなるの!」


 こいつら!


「おにいがいるから負けはない!」


 まともなのはお前だけだ。……まともか?

 こちらが三手に分かれると狼も分かれたようだ。


「あたしの華麗なる回し蹴り! 喰らえ~!」


 ネッコが狼に飛びかかった。

 なるほど、確か変身するギフトだったな。小虎のままということはそのままでも十分勝てる相手ということだろうか。さすがに狼程度じゃ弱すぎて小手調べにもならなかったかもな。


「グラァ」


 ネッコの華麗なる回し蹴りが狼に届く前に、狼の前足がネッコに届いようだ。そのままポテポテと二回地面をバウンドし。


「やめっ、やめてよ~!」

「グルフフフ」


 狼も心なしか笑いながら前足でコロコロと……転がされていた。

 よっわ……。

 これには敵さんサイドも大爆笑のようで。


「あっははははははは、なんだよその獣、くぅはははははは。笑わせんなって飼うならもっと強いの飼えよ、お前等そんなペット連れて冒険でもすんのか? ぶわぁははははは」


 そんな笑う? くっそ馬鹿にされてんだけど。


「おいネッコ! 本気をだせ! 頭は弱いがお前はできる子なはずだ! たぶんギフト的に!」

「ギフト! ……そっか! やってやるんだから~!」


 ネッコが本気を出したのだろう、爪が伸び、歯が伸び、狼に立ち向かう!


「フッ」


 狼が失笑しながら前足をネッコの額に押し付けると。それだけで突撃は止まった。


「……確認なんだが、それが本気なんだな?」

「当たり前だよ! あたしはいつでも全力!」

「うんだよね、知ってた」

「期待して待ってて!」


 え? 何に?

 こいつだめだ。他に期待しよう。

 さて、どちらの決着が早く着きそうか。狼から逃げながら叫んでいるフェアか、じりじりと狼に距離を取ろうとして下がるキュラか。

 うん、負けそう。

 フェアのギフトはなんなのだろうか、体格で劣るキュラから家のドアを守っていたのはギフトじゃなかったのか? 結界を張れるとかなら今使っているだろうし。もしかして逃げ足が速くなるとかか? よく追いつかれないな。


「ぎゃあああ助けてなの~」

「こここ、来ないでくださぃ~」


 確かキュラのギフトも役に立たなかったな。いやまだ、あきらめるには早い! もしかしたら二人合わさると何かできる的な事があるかもしれない! コンビネーションに期待しよう!


「フェア! キュラと協力して倒すんだ!」

「わかったの~! 助けてなの~!」

「こ、こっち来ないでください!」


 拒否されているが合流した。 もう一匹が来る前に各個撃破だ!


「わぁ~助けてなの~」


 フェアが通り過ぎて逃げると、もとからいた狼の一匹がキュラの傘を奪い。


「あぁ、傘返してくださいぃ~」

「なにやってんだ! 魔法とか使え!」

「使えませんけど!?」


 え? マジで? 普通の魔法だよ?


「じゃあどうやって戦うんだよ!?」

「毒とか! 罠とかないんですか!?」


 え? 剣と魔法の世界で毒?

 フェアを追いかけてきた狼が体当たりをして日向に押し出した。


「コンビネーションされてんじゃねーか! キャンキャン言わされてんのこっちだぞ!」

「ああああああいやああああああ!」


 まずい! 

 吸血鬼に光は弱点のはずだ、だいたいは砂になって死んでしまう。傘を差していたのもその弱点から守るために間違いないだろう。

 俺のせいだ、俺が力を試すとか考えたから!


「キュラ!」


 俺は走った、キュラが死んでしまう前に、助け出したくて。

 でも間に合わなかった。


「ああああああああ!」


 頭が真っ白になった。気が付くとキュラは死んでいたんだ。……社会的に。

 俺はまだ手を伸ばしていた。キュラを救い出そうと伸ばした手だ、でも正直それを掴もうとされるのは困る。


「お前、どうしたんだ」


 キュラは無言で赤面したまま少し笑っていた。ははは、と。あきらめたときにでる笑いに似ている。

 木々の間から射し込む光に、まるでライトアップされているように見える。

 笑い声がこだました。


「ひーひっひっひ、吸血鬼はホントにネタ種族だよなぁ、光に当たっただけで漏らすとか、それでも大人かぁ? お漏らしキュラさんよぉ、あっはははは」

「あはは、あれ? なんで手を引っ込めるんですか?」


 いやだって漏らしてるし。

 フェアが俺の元に逃げ帰ってくると、三匹の狼が一斉に俺へと走りこんでくる。キュラに着替えになる服を買い、投げ渡した。

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