第49話

 化け猫の姿になると舞台に上がった。


「おい、いいのかよ、その姿で戦うの嫌とか言ってなかったか?」

「関係ない人間にならここまでしないよ、でもおにいの命がかかってるなら、あたしはプライドなんて捨てる! おにいの命の方が百倍大事だから!」


 虎族にとってプライドって大事じゃなかったのかよ、……いや、大事に決まってるよな。俺が捨てさせたんだ。


「負けてもいいからさ、死ぬなよ?」

「……負けない」


 俺の言葉に答えた後走り出した。もみ合うようになったがすぐに弾き飛ばされ転がると、立ち上がりまたすぐに向かっていく。相手は余裕なのかその場から動かなかった。

 何回か繰り返したのち聞こえた。


「やれ」


 と。

 マンティコアの爪はネッコを抉った。後ろに飛び下がるも追いかけ何度も何度も。


「ぐ、にゃ!」


 ネッコの反撃は空を裂き地面に叩きつけられた、余裕のある動作で後ろに躱したマンティコアとの間に砂煙が上がる。

 あれってもしかして。

 砕けた瓦礫がマンティコアを襲う、だが自身にぶつかる物だけを選んで弾き飛ばしていた。だがネッコはマンティコアの後ろにいきなり現れた。

 元盗賊がやった目くらましを参考にしたんだな、そして瓦礫を飛ばして動きを観察し、瓦礫に変身して後ろに回り込んだんだ、ネッコのやつ考えて戦ってる。


「喰らえ~!」


 ネッコの攻撃は虚を突いたが反応速度に差があるのか、少しの血を流しただけで避けられた。

 振り切った前足では反撃を避けることが出来ない。そう思ったが一度獣人の姿に戻ることにより難を脱した。だが確信した。

 ダメだ、絶対に勝てない。

 止めようと中に入ろうとしたが、透明な壁があるみたいに殴っても入れない。俺はまったくその戦いに割り込めない。

 戦いは続いている、倒れながらの反撃は躱され、空中に飛び上がったマンティコアが火を噴く、流れ出ていた血が火傷で止まるのが見えるが。

 勝てる未来は完全になかった。


「もういい! ネッコ棄権しろ!」

「嫌だよ!」


 ネッコは炎を振り払うとまた立ち上がった。


「お前が死んだら意味ねぇだろ! 俺はもうすでに一回死んでるんだよ! 元に戻るだけだ! お前より相手の方が強いんだ、わかるだろ! 二人とも死ぬ意味なんてない!」

「いや! 元に戻るってなに! おにいのいない世界なんて! そんなの意味ないよ!」


 そういうとまた突っ込んでいく、空の敵にこちらの攻撃は当たらず相手のカウンターだけが一方的にネッコを嬲り、血が噴き出す。

 くそが!


「おい女神! なんで止めない! もう勝負はついてるだろ!」

「ついてないし、まだあきらめてないし」


 くそ、なんでだよ!


「おい聞こえるか! もうこっちの負けでいい攻撃をやめてくれ!」

「ははは、女神は止めないんだろ? まだ勝ち目があるってことさ。ほら頑張れ子猫ちゃんって応援したらどうだい? おい、簡単に殺すなよ?」


 こいつ、ワザと痛めつけてやがるのか!


「ざっけんなぁ!」


 思いっきり透明な壁を殴った。殴っても殴っても壁が壊れる気配がしない、ネッコを……助けられない。

 手から血が出ても構わず殴る。


「無駄だし! 絶対割れないからあきらめるし!」

「うるせぇ!」


 ネッコが重症なんだ。俺の手なんてどうでもいい。


「すぐ助けてやるからな! 待ってろ!」

「おにいは黙って見てて! 絶対勝つから!」


 なんでだよ、どこからそんな強がりが出てくるんだよ……わかるんだ、命の灯がどんどん小さくなっていくのが。

 マンティコアは飛び続けられないのか降りてきたが、力の差は全然縮まっていない。ネッコの爪が当たる前に敵の爪が届く。

 傷をつけたと思ったら薄皮を切るだけで、相手の攻撃は容易く肉をえぐり取り、鋭利な爪痕を残す。

 大きな血だまりがそこら中に出来ていた。すべてがネッコの血だ。


「なんでだよ! なんでそんな意地張って戦うんだよ! お前はもっと自由に楽しく笑ってればいいんだよ! 苦しそうな顔なんてみたくねぇんだよ!」

「あたし、親の顔も忘れる馬鹿だってわかってる。いつもわがまま言って戦ってるのもわかってる。でも今だけは譲れない!」


 マンティコアの噴いた炎が今までより高温なのを肌で感じた。ここからでもその熱で身を焦がすほどに。

 避け切れずネッコの片耳が燃え尽きた。壁をいくら殴ってもネッコに近づける気がしない。


「やめろって……それ以上は本当にもう……」

「あたし……覚えてる……から」


 一度避けた炎が逃げるネッコに追いつき尻尾が燃え、バランスを崩して転がった。


「ずっとずっと覚えてるから……」


 何度目だろう、立ち上がり、命の灯が消えかけても、それでも前に進んだ。

 体はボロボロで勝てる見込みもないのに、それでも前に進むのは。俺のため……? ならなおさら。


「ネッコ! もういいって言ってるだろ! 頼むから、頼むからもうやめてくれ、傷つかないでくれ。お前だけでも……生きてくれよ!」


 思い出したんだ。やっと。もう絶対忘れない。


「お前も転生してたんだろ? なぁ、俺が最後にお前を助けようとしたのはさ、恩返しとかそういんじゃないんだぞ。お前が大切だからなんだぞ、生きてほしいからなんだぞ、なんで死にかけてんだよ、なぁ! わかってくれよ! 理解してくれよ! 命かけるくらいお前が大切なんだよ!」

「わかってる!」

「っ――!」


 やめろって……。

 見て覚えたんだろう、羽を生やして飛びかかるも簡単に弾き飛ばされ、地面に墜落する。


「おにい、たくさん迷惑かけてごめんね」

「いいよ、迷惑なんて思ってねぇよ」

「あたしのせいで死んじゃってごめんね」

「いいよ、後悔なんてしてねぇよ」


 視界が歪んでいく。涙でもう姿がはっきり見えない。ネッコの死が免れないものだと認識してきている。

 噛みつこうと跳ぶも蛇の尻尾に殴られ顔が横を向く。だが手を蛇に変え絡み取った。

 毒のある尻尾に噛みつかれながら、傷口を広げながら、ネッコは蛇の部分を食いちぎった。手足がだらんと垂れ下がり地面に落ちる。


「おにいの腕の温かさ、安心感、匂いも全部覚えてた、忘れなかった、ずっと、これからも」


 癇に障ったのか噛みつかれ、叩きつけられ、投げ飛ばされる。もう維持することも出来ないのか、変身が解けた。

 立ち上がり、ネッコがヨタヨタと歩いたが、たった数歩で力尽きるように近くで倒れこんだ。今まで立っていたのが奇跡だったんだ。それほど傷つき血も流している。


「勝つ……から、絶対……おにい……は死なせない……から…………だから」

「もういいって!」

「ネッコさん、もうどこにいるかもわかってないです」

「ネッコ、頑張りすぎなの!」


 キュラは口を手で押さえ、フェアも壁を叩き涙を流していた。

 何が神だ! 仲間一人助けられないなら神になった意味なんかねぇ! 壁が邪魔で助けられない? 絶対割れない? あきらめろ?

 ……できるわけねぇだろおおおおお!

 やっと透明な壁にひびが入った。


「嘘だし、ありえないし!」


 もう少しでネッコを助けられる!

 俺は殴り続けた。

 あと少し、あと少しなんだ、頼むからそれまで。


「見てる?……、お……にい、……あたし、馬鹿だけど……おにい……だけは……ずっと覚えて」


 マンティコアが近づき、ネッコの腕を踏みつぶした。嫌な音がした、血が辺りに飛び散るのが目に入る。


「にゃあああああああ!」


 ネッコから始めて悲痛な叫びあがった。


「ああああネッコおおおお! 俺も覚えてるから! だからネッコ! 死ぬなああああああああああ!」


 死を予感した、もう消えかけた線香花火よりも命の灯は小さい。

 殴っても殴ってもヒビが大きくなるだけで、一向に割れなかった。

 反対側で手を振り下ろすのが視界に映る。

 マンティコアが大きくためを作ると、口の中で今までよりも高温な炎が作られるのがわかる。それはネッコに向かうのだろう。体中で鳥肌が立った。肌を焼く感覚がした。

 ネッコの絞り出したような声が聞こえる。でもその声色は笑っているようで。


「おにい、……二回も…………幸せをくれ……て……ありがとう」


 あきらめたのかよ、お前。――――あきらめるなって言ったのお前だろうがよ! 俺は絶対あきらめねぇぞ!


「やめろおおおおおおお!」


 涙が溢れた。……家族が俺のために死ぬ? そんなのは、許されない! 必ず助ける! 最後の一瞬まで俺は足掻いてやる!

 思いっきり壁を殴ると、ついに割れた。

 これでネッコを助けられ――。


「お……にい…………大す――」


 嘘だろ……また……。


「俺も好きだネッコ、ネッコおおお!」


 ネッコが炎に包まれるの見た。

 手を伸ばしても、また、間に合わなかった……。

 俺は、……無力だ。こんなことになるなら、神になんてならなくてよかった。……ネッコを使徒にさえしなければ、こんなことには。

 大切なものが失われる喪失感。自分の力の無力感、悲しみ、それらを通り過ぎて。

 下を向くと、女神の声が聞こえた。


「…………大丈夫だし、あんたとあの子の絆が今、つながったし!」


 ニヤッっと笑う女神と、光の中でより輝くネッコの姿が見える。その光はどんどんと膨れ上がっていって。


「ネッコ? 無事なのか?」

「ギフトが今、……覚醒するし!」


 目を開けていられない程の強烈な光がすべてを覆った。一瞬目を閉じると光は縮小し、ネッコの変わった姿が目に入る。

 それは最初羽に覆われていた。雛が孵るようにゆっくりと卵型にされた羽が広げられると。傷が完全に治っている。

 人型のネッコの羽には真っ赤な鳳凰を思わせる羽、青龍を連想させる刃、玄武を想起する盾に、白虎を彷彿とする被り物をしていた。


「力が湧き上がってくるみたい」


 天を仰ぐネッコからは激しく燃える命の灯が感じられた。

 俺の中から怒りの感情が薄れていった。真っ黒に染まり、禍々しいモヤが宿っていた拳を下げる。

 なんだこの手。


「なにが、起きたんだ?」


 女神に聞いたが。


「ぶわあ~ああああああん、よかったし~、死んじゃうかと思ったし~」


 といって床に号泣しながら崩れ落ちた。

 ダメだこいつもう使い物にならん。てか泣き方汚ねぇ。

 マンティコアが空に飛び上がりブレスを噴いた、が、盾が阻む。その炎は後ろを守るように弾かれ消える。


「あたし、結構強いかもしれない!」


 急接近し爪でネッコに襲い掛かるが、その場所にもうネッコはいなく。はるか後方に回り込まれるマンティコア。


「おにい! おにいが昔好きだった変身ヒーローについになったよ! でも制御できない!」


 マンティコアのすべての足がいきなり切り落とされ、体の支えがなくなった。

 すれ違う時に切ってたのか。

 炎を吐くことくらいしかもうできないだろう。だがそれも瞬間移動でもしているようにマンティコアには見えていたのだろう。移動しては止まる、それだけですべての炎を避け切る。


「終わりにするね!」


 天高く飛び太陽を背に急落下、反応できないマンティコアを刃で貫くと、白虎の被り物の顔が大きくなり、丸ごと飲み込み咀嚼する、バリバリと音がしたかと思うと元の大きさに戻った。


「あたしの完全勝利だああああああ!」

「ははは、化け物みたいに強くなりやがって、……よかった」 

「夫婦は似るって言うからね! 見てた!? あたしの勝ち!」


 ただまあ、今回は素直に褒めといてやるか。

 俺は走り寄ってきたネッコの頭を撫でながら。


「よくやったな」


 と、言うことにした。


「えへへ~、おにいはあたしのこと好きなんだ~! さっき告白したもんね!」

「……は? 家族として好きなだけだが? いつからそんなマセタこと言うようになったんだよ」

「え? ……むうううううう!」


 ニッコニコの笑顔から、少し涙を浮かべてほほを膨らませたネッコは、まぁそこそこ可愛かった。別に告白はしてないが。いつかこいつと結婚する男は慎重に選んであげないといけない。

 だがこれを納得できない者もいるようで。


「ふざけるな! あんな、あんなのは無効だ」


 怒りに任せて言っているのだろう。ずんずんと近づいてくる。

 確かに普通に自分の勝ちが濃厚であんな奇跡が急に起きたら言いたくなるのもわかる。

 正直俺だって何が起きたかわからないし、仲間が死ななかった安心感だけでお腹がいっぱいだ。

 俺が考えていると相手はその勢いを増し握りこぶしがネッコを襲った。


「おい、俺の仲間になにしようとしてんだ?」


 かばうようにした結果顔面で拳を受けることになった。

 が、同じ神であるはずなのにその拳はあまり重くないように感じた。ネッコは風圧の余波で吹っ飛んでいったが大丈夫だろう。


「イラついてんのはお前だけじゃないんだぞ?」

「うるさい!」


 先の手と反対の左拳で殴ってきたので、次の拳は躱した。体重を乗せて力いっぱい殴ってきたのかバランスを崩している。


「じゃあ俺も遠慮なくやらせてもうぞ!」


 みぞおちに左拳を叩き込んだ。

 体がくの字に曲がり、口から息が吐きだされる。


「くはっ」

「こんなもんじゃまったくスッキリしねぇ!」


 顔面に拳をお見舞いし振りぬくと壁まで吹っ飛んでいった。壁の一部が崩壊し、崩れていく。一角に大穴が開いた。

 罪悪感はまったくない、こいつはそれだけのことをネッコにした。

 少し待つとまた飛びかかってくる。


「なんだよ、なんで僕が負けるんだよ!」


 拳の連打だ、こいつも確かに神の体になっている、ネッコでも避けられないだろう。俺の避ける場所を予測し逃げ道を塞ぐように拳が置かれている。

 空を切るごとに大気が揺れのを感じた。

 しかし俺は自分に当たりそうなものだけを選んでそのすべてを叩き落とした。


「神にも差があるみたいだな」


 殺す気でカウンターを放つと間一髪で反応したのか耳が吹き飛んだ。

 いや、少し躊躇ったのか、それが今でよかった。俺の命はもう俺だけのものじゃない、俺が死んだらネッコに危険が及ぶ。もうこれからは殺すことに躊躇いは持たないように努めよう。


「いっつ……おかしい、なんだよ、なんで当たらないんだよ!」


 相手はすぐに回復したようだ。

 神同士でどう決着がつくのだろう。

 そう考えていると相手はいつの間にか剣を握りしめていた。

 俺の目が見開かれるのを見たのか。


「どうした! 作れないのか? ははは、遠慮はしないよ、殺してやるよ!」


 何度も剣が振るわれた、そう何度もだ、そのすべてを俺は躱せた。

 護衛さんよりあきらかに無駄が多い動きだな。

 上からからぶるごとに剣の跡が地割れのように石畳に刻まれる。

 隙だらけの膝に蹴りをいれるとグシャっと音がして崩れ落ちた。


「ぐあああああ! なんで当たらない!」


 叫びながらもすぐに治り、文句を言う、その声の方が大きいくらいだ。

 痛いなら痛覚を消せばいいのに。


「お前じゃ俺に勝てないみたいだな、謝れよ、俺の仲間に」

「う、うるさい! 僕は負けるわけにはいかないんだ!」


 突き出された剣先を躱し、カウンターの拳を顔にめり込ませた。また壁に激突するが今度は追撃した。

 素早く追いつき、壁にめり込んでいる頭を掴み地面に叩きつけると大きなクレーターが出来る、次いでかかと落としで後頭部を蹴り、地面に顔をうずめさせた。

 下が固いのか鼻でも潰れたのかグシャとした音とともに血が飛び散った。


「ぐっ」

「今のはフェアの分ってことにしといてやる。そしてこれは、ネッコの分だ!」


 両腕の根本を掴み背中に足を置いて、いっきに引き抜いた。


「うわああああああ!」

「ヒーローはあいつに任せることにしたんだ」


 千切り取った腕を捨てて襟首を掴み、持ち上げて汚い顔面をもう一度殴り飛ばし、地面に頭を叩きつけた。頭を物理的に下げさせて、みんなのところに戻った。

 ふぅ、すっきりした。


「あの、私の分はないんですか?」

「あ、忘れてた、なんかしたっけ? ……いる?」

「ひどい!」 


 おずおずと申し出たキュラの分に石ころを投げつけておいた。

 いつの間にか復活した女神が歩いていき。


「あんたは神になる資格なんかないし」


 と、言い放った。

 ひどい! 泣いてるよ?


「まず使徒をただ駒のように使い潰したことだし」


 あ、真面目な話しだった?


「あんたと違ってこいつは奴隷や獣人、魔族にも救いの手を差し伸べたし」


 ……あれ? 救うとかそんなこと思ってないけど? 成り行きだったけど?


「そして自分が死ぬ事よりも使徒を心配した自己犠牲は見事だし」


 ……それは、したけど。家族だしな。


「いい? 人も神も、評価するのは周りだし。自分がどう周りから見えるか考えるし、あんたは神失格だし」


 え? なんだろうつまり俺もずっと見られて試されてたってこと? ……こわっ! 今までの神様ライフの行動すべて? ……こわっ!


「ぐ、うう、死にたくない。また死ぬのは怖い、もう嫌だ。もう一人は嫌だ」


 恐怖で涙と鼻水があふれていてグチャグチャだ。それを隠そうとはしていない。

 ……怖いよな、死ぬのって。いたぶった俺が言うのもなんだが。


「大丈夫だし苦しい思いはもうさせないし。きっと次はいい友人といい親の元に生まれるし」


 女神が手をかざすと暖かそうな光が包み、丸い球が浮かび空に消えていった。

 安らかな寝顔をしていた。


「……最後はあっけないんだな、転生したのか?」

「そうだし」

「そうか…………で? 最初に言った神様のチュートリアルは終わったってことでいいんだよな? やっとこれで俺も世界作ったり色々と――」

「なにいってるし? まだだし」

「え?」

「確かにびっくりする速さで一人覚醒したけど、まだ二人目の覚醒もしてないし、大神様ゲームにも参加して序列あげもしなくちゃだし、……とりま次はダンジョンの作り方でも覚えるし」

「は? ちょ、どんだけ神様になるステップ多いんだよ!」

「神様だし? 大変に決まってるし! それよかあんた、今ちょっとやりたいことあるんじゃない?」

「……うっせ、なんでわかんだよ」

「ふふん、これでもあ~し女神だし?」




 プルルルルル、プルルルルル。


「もしもし」

「……」

「もしもし?」

「……」

「いたずらですか?」

「……あっ…………」

「っ! ジン!? ジンなのか! おいジン生きてるのか! 今どこにいるんだ! 無事なのか!?」

「……なんで、俺だって……わかる……ん……だよ」

「一言あればわかるに決まってるだろ! 親なんだから! そうか、生きてたか、そうか、……そう……か……よかった」

「…………父さん……産んでくれて……ありがと」

「……いいんだ、……今、幸せか?」

「……うん」

「そうか、……ならいいんだ」

「あ、ちょっと待ってろって」

「どうした? なにかあったのか!?」

「いや、隣の家の子供も今俺と一緒にいるんだけどさ、手作りのクッキーを出来立てのうちに食えってうるさくて」

「そうか、……あの子も一緒か。食べてやれよ、またいい兄貴やってるんだな」

「まぁね、じゃ、一口だけ。……………………ヘドロの味がする」

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