第30話

「せめて岩を投げてたフェアが言うならまだわかる、お前にはないぞ、その薄汚い手をどけろ」

「そうですか、……わかりました…………言いふらしてやる」


 あれ? 落ち込んでる? 言い過ぎたか? なんか最後ボソッと聞こえたが。


「股間ビームマン」


 !?


「お前今なんつった!」

「別になにも言ってませんが?」


 プイっと顔を背けた。


「嘘つけ! 悪口言っただろ!」

「やめてください! 直接喉仏を掴むのはやめて! 向き合うにしても頭とか襟首とかにして! 痛い! あっ! 腕が痛い! 仲間のために犠牲にした腕が痛い!」

「ぐっ……」


 それは、俺のせいなのか?

 苦虫をかみつぶしたような顔をしていたのかもしれない。

 もしくは離した手から何か感じ取ったのか。


「あれ?  ……はぁ…………腕が痛いですねぇ、痛いなぁ、分け前ほしいですねぇ」


 再生しかけている腕をさすりながらニヤニヤとしている。


「……今は現金の手持ちがない、村に戻ったら用意する」

「チョロ」

「!? お前――」

「そうですかそうですか! なら利子をつけなくてはいけませんね! ヒサン! 一日につき三割の利子で手を打ちましょう! 村に戻るまで何日かかりますかねぇ!」


 こいつ!


「そうか、わかった。……この牙を売った額は一千万だ、その四分の一は二百五十万、もしかしたらオークションや欲しがっている者に売ればもっとするかもしれないが、ここは砂漠で普通なら運ばないといけないな? 誰がここまで取りに来てくれるんだ? お前が運ぶのか?」

「えっ?」

「まぁ、無理だよな。しかし俺も鬼じゃない、もう売っちまったしこれの取り分は確定で二百五十万それでいいか? その確認だ」

「なるほど、いいですよ」


 一瞬ビビっていたがほっとしたのか胸をなでおろしたようだ。


「でだ、確か俺はお前の借金を肩代わりしたな? いくらだったか、そう五百万が二回の一千万だったな? トゴ、十日で五割でいいぞ、俺は優しいからな。ちなみに俺は村まで一日かからず帰れるし、ネッコは俺に今助けられた恩があるだろうから連れて帰ろうと思う。村で清算だよな? なら村にすぐ来れないお前が悪いから俺のヒサンは村について金を用意した時点で止まって無効だ、お前のトゴがこれからどうなるか楽しみだな、はっはっは」

「あの、私たち仲間ですよね? さっきのは冗談じゃないですかいやだなぁもう。…………すいません! 無視しないでください! お願いしますなんでもしますからそれだけわあああああああああああああああ!」

「ねぇねぇこれは持って行かないの?」


 フェアに何か透き通った石を見せられた。


「なにそれ」

「魔石も知らないの? プププ」


 こいつらうっぜええええ。


「し、知ってるに決まってるだろ! 良く見えなかっただけだ!」


 そういってポケットにしまった。

 獣人たちの手際はよく、あっというまに焚火が作られ、肉が削がれて串焼きが完成した。獣人たちはバクバクと頬張っているが、俺は焼き肉のタレをかけて食った。柔らかく適度に脂肪もあり普通に美味い。いい部分なのかもしれないな。

 魔物美味いじゃん。今までの肉は何?


「おにいたんそれなーに?」


 心臓を鷲掴みにされた気がした。気温は高いのに冷や汗が止まらない。


「ネッコ、助けてくれ」


 微動だにせずに、頭の上で肉を食うネッコの返しに期待した。


「んにゃ? これは焼き肉のタレっていうんだよ」

「頭お花畑のお姉ちゃんが覚えたならおいしいものだね! 私もほしい!」


 視線を合わせずに献上した。

 気配から察するにタレをかけて、肉を頬張ったようだ。


「なにこれおいしいいいいいいいいい! みんな~、戦利品とった~!」


 残りの肉はネッコにあげた。

 も、もうこの肉はいいかな。

 乾いた口の中をコーラで潤すことにし、さっそく買う。一気に喉に流し込むコーラは刺激もあり最高だった。やっぱこれよ!


「おにいたん?」


 ……なぜ……後ろにいる……。


「コーラだよ全部、持って行ってください」


 いっぱい出しておいたんだ、日本人の感覚で水を貰ったわけだが、砂漠なんだ、当然みんな水がほしいはずなのに、いきなり来た俺に貴重な水をくれた。その恩は返しておきたかった。


「わ~い! んなにこれしゅわしゅわしゅる~、あま~い! んぐんぐ、ぷっは~」

「ははは、みんなにもあげてくれな、くれますか?」

「いいよ~配ってくるね~」


 はぁはぁ、体力が、減っていく。

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