第24話

 盗賊に治してもらうと意気揚々と出発していく。

 俺は広場に戻り。


「ほれじじい、新しい調味料だ」


 老人にペンダントを投げ渡すと涙を零してお礼を言われた。

 落ち着いてきた食事風景を眺めているとネッコが肩に乗っかり、いきなり大きな声を。


「思い出したにゃあああああああああああああああ!」




「おにい! 聞いて!」  


 ネッコがまとわりついてきたが無視して、盗賊のもとへ向かった。


「盗賊、頼みがあるんだが」

「ねぇおにい! ねぇったら!」


 広場の大きな石の上に立ち、奴隷に指示を出していた盗賊は俺に気が付くと。


「なんでぇ水臭いぜアニキ、なんでも言ってくれぃ」


 飛び降りて同じ高さに立った。


「いいのか? というよりまだ居てくれるだけでもすでにありがたいんだが」

「いいかぃアニキよく聞いてくれ。儂はアニキの漢気に惚れちまったんだ、あんなにつえぇのによぉ、奴隷を助けて飯振舞って、そのうえ住むとこまで与えるなんてよ。弱きを助け強きをくじく。儂もよぉやってみたくなっちまったんだ、本当の人助けってやつをなぁ。だからアニキ! 頼む! ここにいさせてくれ! 儂は一生ついて行きてぇんだ! アニキの手助けをしてぇんだ!」


 盗賊が頭を下げていた。

 ……あの、俺よりすっごい色々考えて行動してそうなんですけど。かっこよすぎん? 主人公かよ。


「ももも、もちろんだ、頼りになるやつがそばにいてくれて助かるよ」

「へへっそうかい、それで頼みってのはぁなんだ?」


 頭をポリポリと掻くと照れ臭そうに笑った。


「!? 盗賊ルートに入ってるの! ホモなの!」

「ちょろすぎません? これがチョロインって呼ばれてる人ですか」

「やめろや! 台無しだろ! 盗賊の照れくさそうな顔が変に見えてくるだろうが! 染まった頬とか見たくねぇんだよ!」

「それでアニキ、頼みってのはなんだ?」


 すげー、主人公みたいなスルースキルやんけ。


「ああ、実は奴隷、というかこの村のまとめ役になってほしくてだな、一生ついてくるんだろ?」

「そんなことか! もちろんいいぜぇ手下で慣れてるしよ」


 ふぅよかった。

 飯を作った時はみんなと同じ目線で、輪の中の一人的な立ち位置だったからよかったが、指示していくとなると無理だ。

 盗賊みたいに高い石の上に立って指示とか冷や汗が出る。黙って眺めてるくらいならできるがな!

 と、キュラがおずおずと挙手をしながら。


「あの、村長なら私もやりたいのですが」

「は? お前にできる訳ねぇだろ」

「………………」

「どうした? 返事しろよ、お前でも言葉で傷つくとかあんの?」

「お前ではなく村長と呼んでもらえますか?」

「その気になるの速すぎだろ! ……ちなみに村長になったらどんなことすんの?」

「そうですね、まずは生かさず殺さずギリギリの重税を課しましょう」

「いいこと言えよ! そんな公約でだれがお前を支持すんの!? それに色々要望聞いたり指示したり仲裁したりとか絶対大変だけどお前できるの?」

「え!? 村長って何もしなくても大金が毎月手に入って、女をはべらしてセクハラし放題の職業じゃないんですか!?」

「ふざけんな! そんなんだったら俺がするわ!」

「…………」


 あの、みなさん? その目止めてくれます?


「俺はそんなことしないよ? こいつが言ったんだからね?」

「じゃあいいです、気軽に人を殺して全財産奪っても許されるくらいの権力がもてないならいいです」


 なんなのこいつ? 鬼の子じゃん、いつか悪い方で歴史に名を残すだろ。

 もうこいつ無視してよかったんじゃないかな?


「……というか奴隷全員来てないか? 自分の町に帰るやつとかいなかったのか?」

「一度貴族に目をつけられた連中だからな、家族に迷惑はかけられないとか言ってたぜ?」

「え~、お嬢様クソビビってたから大丈夫だと思うんだが、まぁ、価値観的に怖いのか。なら家族とか呼び寄せてやれるくらい安全で大きい町にしてやるか。ついでだしな」

「孫に、また会えるのかの?」


 近くにいたじいさんが涙を浮かべてこっちを見ていた。

 え? 俺声に出してた? 環境が出来上がるまでは口に出して言うつもりなかったんだが。


「……運がよかったらな」

「ありがとうの」


 約束なんてする気はないが、出来るだけ善処してやる。

 さて次は、なんて考えていると。


「おにいいいいいいいい!」


 耳元で叫ばれ鼓膜が破れた。

 こいつの声量は武器なのかもしれない。


「お前! 人の鼓膜は簡単に破っていいものじゃないぞ!」


 神なんですぐ治ったが。

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