第33話 パートナー

 アイラが最後の一匹を倒して、ゴブリンたちはすべて撃退した。最後は苦戦していた僕とディエゴチームの元へアイラが加勢に来て、虐殺の限りを尽くしていた。僕も負けじと戦ったが僕が一匹倒すとアイラは5匹は倒していたので僕は改めてアイラに逆らわないことを心の中で誓う。死ぬから。マジで。


「よっしゃ!勝利だ!」


 村人の一人がそう叫んだ。その声を聴いた他の村人も歓声を上げた。


「おいおい!嬢ちゃんもこんなに強いのかよ!」


 ディエゴが笑いながら僕らに近づく。しかし僕らは喜ぶ気にはなれなかった。


「でも、何人か被害が出てしまったわ」


 アイラは俯きながらそう言った。それをみたディエゴは驚いて口を開く。


「嬢ちゃんは優しいな。悲しんでくれてありがとよ。でも、今回の嬢ちゃんのおかげで被害は最小限に抑えることができたんだ。ありがとよ」


 そう言ってディエゴはアイラの肩をポンポンと叩いた。


「うん」


 ディエゴの言葉にアイラは頷いた。その直後、リカルドの声がした。


「おい!ルーカを見なかったか⁉」


 リカルドがそう叫びながら僕らの元へ走ってくる。


「は?ルーカ?見てねぇな」


 ディエゴはリカルドに向かってそういった。


「そうか。あいつどこに行ったんだ?」


 リカルドは首をひねっている。僕はリカルドの様子を見てこっそりと感知魔法を使って村全体を調べる。


「?」


 しかし、村の中にルーカはいなかった。僕はさらに広範囲に感知を広げたがそれでも見つからない。これはどういうことだと考えている僕に、アイラが近づいてきて質問する。


「探してるんでしょ?いた?」


 アイラの質問に僕は首を横に振る。僕の様子を見たアイラは悲しそうな表情を浮かべて呟く。


「そう・・・。じゃあもしかしたらソフィアを・・・。ねぇ夏人。森の方を探してくれないかしら?」


 アイラがそう言ったので僕は頷いて、感知能力を森の方に向けた。先ほどの広域的感知ではなく、方向を絞った感知なので先ほどより感知距離ははるかに伸びる。


「でも、見つけても村の人には言わないで。私だけに教えて」


 アイラはそう付け加えた。僕はその言葉を聞きながら森へと意識を伸ばす。だが、見つからない。さらに集中して森の方を探す。森の奥へ奥へと感知を伸ばす。


「・・・・・・いた」


 僕がそう言うとアイラは僕の腕をつかんで口を開く。


「追いましょう。私たちだけで」

「え?」


 僕が驚きの表情を浮かべていると、アイラはいいからと言って僕の腕を引いて森に向かう。


「アイラ?どうしたの?」


 僕が訪ねてもアイラは何も答えず、無言で僕の手を引いている。そんなアイラに僕はそれ以上何も言えなかった。アイラはそのまま村を出て、森に入ったところで僕の腕を離した。そして振り返って口を開く。


「ごめん。何も言わずに引っ張って来てしまって。でも村の人には聞かれたくなかったの」


 アイラは申し訳なさそうにそう言った。


「それはいいけど、どうしたの?」

「うん。断言はできないんだけど、嫌な予感がするの」


 アイラは険しい表情でそう呟く。


「嫌な予感?」


 断定はできない嫌な予感。その言葉自体は緊急性を感じないが、アイラの表情と強引さが、アイラにとって自身の予感はかなり信頼性があるものだと思っているようだ。ただ事でない雰囲気に、僕の表情も険しくなる。


「ええ。この村にゴブリンが襲ってくるはとても不自然じゃない?」

「村長もそう言ってたね。おかげであらぬ疑いをかけられたけど」


 それにしては横暴な言い方だったけど。思い出しただけでも腹が立ってくる。


「そうね。でも私たちがゴブリンたちに遭遇したのってこれで2回目よね。1回目は覚えてる?」


 そう言われて僕は過去の記憶を手繰り寄せる。僕がこの村に来る直前に出会ったルーカを襲っていたゴブリン。僕らはそのゴブリンを撃退したからこの村に招待された。


「覚えてるよ。そういえばあの時も強大な魔法発動を感じたよね」

「ええ。そこが不自然な気がする」

「不自然?どうして?あの時はゴブリンソーサラーが魔法を使ったから・・・」

「ええ。私もあの時はそう思った。けどもしかしてそれは間違いだったとしたら?」

「間違い?」


 僕がアイラの言葉を復唱すると、アイラは頷いた。


「ゴブリンソーサラーが魔法を使って、それを私たちが感知したと考えるのは、時間的に少し不可解だと思わない?」


 たしかあの時、魔法を感知した後、走って丘の上に上り、ゴブリンたちを発見した。確かに初めに魔法が発動して、その次に発動するまでの間が空きすぎている気もしなくもない。なぜゴブリンソーサラーの魔法発動にそんなに時間がかかったのか。それはゴブリンソーサラーの練度不足?それとも別の理由?たとえば・・・


「最初に魔法を使ったのがゴブリンソーサラーじゃないって言いたいの?」

「うん。その仮定で考えてみて。ゴブリンソーサラーが魔法を使ったから、私たちがゴブリンたちに気付いたのではなく、ゴブリンたちも魔法によって引き寄せられていたとしたなら?」

「え?でもあの場には魔法使いはゴブリンソーサラー以外いなかったよ」

「ええ。いなかった。あそこにいたのはゴブリンとゴブリンソーサラーとルーカ。だからゴブリンソーサラーがいたから魔法を使ったのはゴブリンソーサラーだろうと私は決めつけた。でも、そうとも限らないわよね」


 確かにゴブリンソーサラーがいる事イコールその他は魔法は使わないとはならない。ルーカやゴブリンだって魔法を使う可能性はある。


「じゃあ、ゴブリンソーサラーを除いて次に魔法を使いそうなのは?」

「ゴブリンとルーカだったら、確かにルーカの方が使えそうだね。カリヌ教の教えも受けてるし。でも、普通の人は魔法の訓練すら禁止なんだよね?」

「ええ。禁止されていても訓練すること自体はできるわ」

「それはそうだけど、仮にルーカが魔法を使ったとして、それはいったい何のために?その仮定だと、ルーカが魔法を使った時点ではゴブリンと接触していないだろう?」


 僕がそうそう言うとアイラは頷いた。未だアイラが何を言いたいのかわからないが、僕の反論は一応論点がずれていない様だ。


「そこは確かに問題だけどそこは一旦置いておく。重要なことはルーカが何らかの魔法を使って、それがゴブリンを呼び寄せる結果になったという仮定に矛盾が発生しない事よ」

「確かに矛盾は発生しないけど、あの状況なら他の可能性も考えられるよ。ゴブリンソーサラーが最初に使った場所が離れてて、2回目は接近して使おうと思ったから温存していたとか」


 僕が反論するとアイラはまた頷く。確かにそのとおりよと僕の発言を肯定した。


「もちろん決めつけることはできないわ。でも今回のゴブリン騒動。ルーカの時と一緒じゃない?初めに大きな魔法を感知して、そして最初に村に侵入したゴブリンはゴブリンソーサラーでなく、普通のゴブリン」

「つまりアイラは、前回も今回もルーカがなんらかの魔法を発動させて、ゴブリンを呼び寄せたということ?」

「何らかの魔法じゃなくて、ゴブリンを呼び寄せる魔法という可能性もあるわ」

「確かに筋は通っていそうだけど、何のために?村人にも被害が出てるんだよ?」

「わからない。一番可能性がありそうなのは陽動」

「陽動?なんのために?」

「ソフィアから人間を引き離すために」


 僕はそれを聞いて眉をひそめた。


「つまりルーカはソフィアを一人にさせるために、自分の村の人間に被害が出るような魔法を発動させたということ?」

「有体に言えばそうね。ただ、ソフィアだってこの村の被害者よ」


 アイラはそう言い放つ。アイラはソフィアが生贄になるこの祭りに対して言いたいことがあるようだ。


「それはそうかもしれないけど・・・」

「私はそう考えた。だから村の人に何も言わずにこの森に来た」

「仮定の話とはいえ、こんな話は村人には聞かせられないね。でもうーん。自分の家族も被害が出るかもしれないのに・・・」


 実際被害者は出た。何人もの人間がゴブリンに襲われた。。


「リカルドさんの強さはあなたも知ってるでしょ?村の男だったらゴブリンくらい撃退できると踏んだんじゃないかしら」

「うーん。そう考えたとしてもやり方が拙いというか、子供っぽい」

「そうかしら。好きな人が死にそうになっていたら、どんな事をしても助けようと思うのは普通じゃない?」

「好きな人がってことは、ルーカはソフィアの事を」

「あの2人は両想いよ」


 アイラが驚愕の事実を口にした。


「マジで?」


 僕は驚いて目を丸くしていると、アイラは呆れた表情をして口を開く。


「見てたらわかるでしょ・・・」


 わかるわけないだろ!今までモテたことないんだぞ!


「とはいえ、本人に確認する必要はあるわ。だからお願い。2人を見つけて」

「そういう事ならわかった」


 僕は再び集中してルーカの場所を探す。しばらく沈黙が流れた後、僕は口を開いた。


「いた」


 思ったより早く発見できた。


それだけ追い詰められていたんじゃない?まぁ結局のところルーカに直接話を聞かない事には・・・」

「そうだね。もしアイラの言葉を仮説が確かなら事情を聴かないとね」


 そう呟いて、僕はルーカに向かって歩き出す。

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