第8話 脱獄
それからの事態はあっという間に展開する。本来の力を取り戻したアイラは牢の鉄格子を次々とひん曲げていった。人ひとり分がゆうに通れる出入り口を全ての牢に作っていく。だが中に捕らえられていた少年少女はアイラのことを怖がって出てこない。当然といえ当然である。鉄格子を力だけでひん曲げるなんてゴリラにだってできない芸当だ。そんな相手に恐れを感じない人間なんていない。
しかしいつまでもここに滞在するわけにはいかない。すぐさまここを脱出しないと他の盗賊がここを訪れてまた僕やここの少年少女は牢に入れられてしまうだろう。早く出てきてもらわなければ・・・。
「安心して!危害は加えないから!みんなでここを脱出しよう!」
僕は大声でそう叫ぶ。体に力が入らず腹ばいの状態でそう叫んでも説得力はないかもしれない。だが、それでも僕は叫んだ。
「怖がらせてごめん。でも私はあなた達を傷つけないわ。一緒に人里に帰りましょう?」
アイラもアイラで牢に捕まっている少年少女一人ずつにそう言っていく。その気持が通じたのか一人、また一人と牢から出て来る。
「あの・・・お兄ちゃん大丈夫?」
そして助けたはずの少年少女から気遣われる僕。うーん。やっぱり格好がつかないや。いや正確には僕が助けたわけじゃないけども。
「よし!逃げましょう!」
アイラが捕まっている少年少女を助け出すと、僕を掴んで抱え上げてそういった。少年少女達もうなずいてアイラの後に続く。
「いや~。すみませんねこんな姿で」
「なんで敬語なの?」
「いや抱えられてるから」
「それは気にしないで。私はあなたに助けられたのよ。だからこれはお返しだと思って」
そう言ってくれると若干僕の心も軽くなる。16才の男が同世代の女の子に運ばれる光景だということはとりあえず忘れてしまおう。とにかくここから脱出することが必要だ。
「てめぇらなんでここに!グァ!」
「てめぇ何しやがんだ!ウグッ!」
僕らが逃げている途中に次々と出てくる盗賊たちを、アイラが次々と吹き飛ばしていく。本来の力を取り戻したアイラはこれほどまでに強いのか。というかなんでこんなに強いのに捕まったんだろう?
アイラは出口に向かって走る。
「ちょっと待ってちょっと待って!」
僕が慌ててアイラを止める。
「どうしたの?」
「せっかくだからここのお金をちょっと頂いていこう」
僕の提案にアイラは眉をひそめる。
「それって窃盗じゃない?」
アイラは至極まっとうな意見を言うが、相手は盗賊なのでこいつらに社会常識を適応させる必要はないと僕は考える。というか逃げるにしても必ずお金は必要だからここで少しお金を奪っておくことが、盗賊から逃げおおせるにには必要不可欠だ。
「ただの迷惑料だよ」
「ふぅん?まぁ夏人がそう言うなら別に良いけど、お金の在り処はわかるの?」
「うん。今日の朝、アイラが教えてくれた方法で気配を探っていたら見つけた」
「え?そんなことをもわかるの?」
「わかっちゃった」
僕がそう言うと、アイラは驚いた顔をした。
「昨日はテレパスもできなかったのに・・・。あなた一体何者?」
「まぁまぁ。そういった事はここを出てからゆっくり話そう?僕も君のこともっと知りたいし」
「わかったわ。じゃあその場所に案内して」
「はいはいー」
本当は先行してアイラ達を導きたかったのだが、今はアイラに背負われている状態のため口頭で行き先を指示する。定期的に出現する盗賊たちはアイラが一撃でどんどん沈めていく。そしてしばらく行くと、広いテーブルが設置された、盗賊のたまり場のような場所に到着した。
「なんだぁオメェら!」
この場所には複数人の盗賊がいたが一瞬のうちにアイラが全員をぶん殴って気絶させる。
「よーし少年少女諸君!袋にお金を詰めるんだ!」
僕は高らかに宣言した。気分は銀行強盗犯。少年少女たちは次々とお金を袋に詰めていく。アイラと僕はその光景を眺めている。
「子供がお金を鷲掴みにして袋に入れる。こんな光景見たくなかったわ」
「まぁまぁ。これはお金じゃなくて迷惑料だから」
「詭弁な気がするんだけど。結局奪ってることには変わりなくない?」
「まぁ悪行ではあるけど、必要なことでもあるよ。この子達を親元へ返すためにお金を渡して荷台に乗せてもらったり、用心棒を雇ったりしないといけないかもしれないでしょ?」
「そう言われればそうかも知れないけど・・・」
見た目が小悪魔チックなアイラの心は道徳心で溢れている。対する人間の僕は少年少女を使ってこんな悪行を行っている。結局、一番の悪魔は人間の心かもしれない。
「いや、いい感じでまとめようとしないでよ」
「まぁまぁ。ここは僕を信頼して」
「うん・・・ちょっと不安だけど・・・あなたを信頼するわ」
だいぶアイラは僕のことを信頼してくれているなぁ。昨日出会ったばっかりで、顔を見たのはついさっきなのに。この他人を信じやすい性格に付け込まれて、こんなところに捕まってしまったのかもしれない。
そんな事を考えてると少年少女たちは袋にお金を詰め終わっていた。
「じゃあ持てるだけ持ってここから逃げよう!」
僕がそう言うと少年少女たちは頷いた。そして僕はアイラに出口に向かうように頼んでアイラもそれを了承した。そして僕らは走り出し出口まで向かう。お金は意外と重いので移動速度は遅くなったが、出てくる盗賊たちは皆アイラによってぶっ飛ばすので(比喩ではない)安心して出口を目指すことが出来る。そして暫く行くと出口と思われる場所にたどり着く。
「出口だ!」
少年が叫ぶ。
「みんな走って!」
少女も叫ぶ。そして皆が一斉に外に出た。そこには森が現れ、自由へ続く道があるはずだった。
「へへへ」
出口の外にいたのは数名の男たち。その男たちはナイフは棍棒を持って僕たちの行く手を阻む。
「この程度の人数で・・・」
アイラはそう呟いて数歩前に出る。その瞬間、出口の影に隠れていた男が棍棒でアイラの頭を殴る。
「グッ!」
アイラは殴られて倒れ込む。そしてアイラが背負っていた僕も一緒に吹き飛ばされた。
「ぐわぁ!」
僕は地面に叩きつけられ、地面で腹ばいの状態で倒れる。地面からアイラの方までの高さはおおよそ150センチ程。その高さから受け身も取れない状態で落とされるのは結構痛い。
「ぐ・・・・」
それよりも問題なのはアイラだ。アイラは後ろから想像もしていない攻撃を受けたため防御ができず、男の攻撃はクリーンヒット。そして現在は気絶している。
これはまずい状況だ。動けない僕と気絶しているアイラ。そして恐怖の表情を浮かべている少年少女たち。まさに絶体絶命だ。それに奴らの金を持ち逃げしようとしているわけだから、盗賊団にとって見ればかなり不愉快な光景だ。
「テメェらただで済むと思うなよ!」
案の定、盗賊たちは激怒している。男たちはアイラが気絶しているの確認すると僕らに向かって歩きだした。
「特にそこの倒れている女!貴様は特にヒデェ目にあわせてやる!」
おいおい。君たち奴隷商人じゃないのかい?商品を傷つけるなんて三流のやることだぞ?と思ったが彼らの表情は本気そのもの。これは本格的にやばい。だけど動けない僕にはどうしようもない。
盗賊たちの魔の手がアイラに伸びる。
「やめろぉぉ!」
僕は頭に血が上り、盗賊たちに向かって出来る限りの大声でそう叫んだ。叫んだはずみで僕は立ち上がる。
「あれ?立てる?」
僕はなんの苦労も無く立ち上がった。先程までは体をよじるのも一苦労だったが、どうやらアイラに運んでもらっているうちに体力が回復したようだ。
「へへっ!テメェ一人でどうしようってんだ?」
盗賊は立ち上がった僕を見て嬉しそうにそういった。彼からしてみれば、僕が立ち上がったことでサンドバックが殴りやすくなったぐらいに思っているかもしれない。
僕はニッコリと笑った。そして僕は封印能力を発動する。
「酸素を封印する」
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