第7話 死の恐怖
「あ、アイラ。起きてたの?」
僕はテレパスでアイラに話しかけた。
「ええ。なんかうるさくって起きちゃった。誰と話しててたの?」
「ああ。ちょっと女神と」
「ああ。またあなたはそんな事を・・・。可哀想に・・・」
僕はアイラの表情を見れないが、あからさまに憐れんでいるのは感じる。いや違うんだって!ほんとにいるもん!僕見たもん!
「まぁそんなことはいいわ。今日の夕方までにここを出ないと私はどこかに売られてしまう。でも一晩中、脱出の手立てを考えても思いつかないわ。もうだめかもね・・・」
アイラが弱気になっている。昨日はあれだけ元気だったのに、今日はとても気持ちが沈んでいるのが伝わってくる。
「もしかしたらだけど、どうにかできるかも」
僕はアイラに元気になってほしいと思った。昨日今日出会ったばかりだが、少し話してどんな人か少しは理解した。そんなアイラに沈んだ気持ちのままでいて欲しくない。
「え?ほんと?」
アイラは期待半分でそう聞いてきた。
「もしかしたら僕の力でなんとかできるかもしれない」
「んーっと。そんな力持ってたの?」
「持ってたらしい。教えてもらった」
「誰に?」
「女神に」
「・・・・・・・」
アイラは無言になった。これはどうやら信じられていないな。本当のことなのに。
「あはは。ありがとう夏人。私を元気づけるためにそう言ってくれたんだね」
アイラは乾いた笑いでそう言ってきた。これは本気で冗談と思われているらしい。まぁ思うよね。女神の存在を信じてないんだから。というかアイラが女神の存在を信じていない今、僕の今までの発言はかなりたちの悪い冗談のように受け止められている可能性がある。だっていきなり神や女神が現れて助けてくれるなって通常ありえない。女神を信じていない人間ならそんな事が起きるとは夢にも思わない。そんなのは狂人の戯言みたいなもんだろう。
でもそれは今回に限っては違う。僕は立ち上がり鉄格子の前まで歩く。そして封印能力を使うイメージをした。刀のように薄く伸ばすイメージ。そして最も大事なイメージは"できて当然の自分"をイメージすること。
出来る。僕は出来る。だって女神が言っていたじゃないか。出来るに決まっている。それにできなければアイラが連れて行かれてしまう。それは嫌だ。嫌だ!なんとして出来るできるようになる!
そう思うと僕は指先に短いナイフのような力の形を感じた。とても短くて小さいが確かに感じる。僕はその指で鉄格子をなぞってみる。そうすると固いはずの鉄がバターのようにスルッと切れた。
「できた!」
僕がそう言うとアイラが反応する。
「どうしたの?」
僕はアイラの言葉に反応しない。代わりに僕は鉄格子のうちの一本を切り外して牢の外へ出た。そしてアイラがいる牢の前に歩いていく。
「アイラを勘違いさせてしまってごめん」
「え?何が?」
僕は歩きながらアイラに対してそう言う。そしてすぐにアイラの牢の前にたどり着く。僕は腕を組んでアイラの顔を見る。
「決して元気づけるためだけに言ったんじゃない!僕は君を救いたいんだ!」
僕はアイラの姿を見る。アイラは黒髪で角の生えた細身の少女。背中には悪魔のような羽が生えている。手錠がされているが、白くてきめ細やかな肌が黒いワンピースとよく似合っている。宝石のような赤い瞳のくりっとした目が僕の方を見上げている。
え?え?アイラすげぇかわいい!想像の1万倍かわいい!
「え?どうやって・・・?」
神も女神もたまには助けてくれるんだよ。
「めちゃめちゃかわいい・・・」
「え?」
しまった。思うことと言うこと間違えてしまった。慌てて僕は言うべきと思ったことを言う。
「神も女神もたまには・・・助けてくれるんだよ」
冷静になると発言の内容も間違えたこともかなり恥ずかしいけどなんとか言い切った!僕偉い!
「えっと・・・。あの・・・。悪いけど・・・私を助けてくれないかな・・・?」
「よろこんでー!」
「そんな居酒屋スタッフの返事みたいな・・・」
アイラはちょっと引き気味にそう突っ込んだ。僕はすぐさまアイラの鉄格子を切り裂いてアイラを牢の外に出す。
「よし。他の子も助けてここを脱出しよう」
僕がそう言って踵を返そうとすると、突然足の力が抜けて倒れてしまった。石の床超痛い。てか、え?なんで?なんでこんなにダサい倒れ方したの?僕は慌てて立とうとするが体に力が入らず立ち上がれない。
「大丈夫?」
アイラが心配そうな顔で僕を見ている。
「大丈夫大丈夫!こんなの日常茶飯事だから」
「え?倒れるのが日常茶飯事ってそれはそれで大丈夫なの?」
少なくとも僕が死んだ時はこうなったんだろう。確かにこう考えると滑稽だな。あの女神の言っていたことも一部は正当性があったと証明できた。いやそんな証明したくなかったんだけども。
僕がそうやって立とうとした直後、このフロアに入ってくる影がある。
「なんだぁ!うるせぇな!」
僕を捕まえて、僕に冷や飯を食わせた張本人であるガタイの良い男だ。なんてタイミングでここに来るんだ!昨日のご飯は冷えてたけど美味しかったよ!
男は僕らが牢から脱出しているのをみるとギロリと睨んで口を開く。
「てめぇらどうやって牢から出た?」
そう言って僕らにゆっくりと近づいてくる。巨漢の男に凄まれるとすごく怖い。つい財布を渡したくなるけどこの世界での僕はお金を持っていないから最悪の状況は避けられたとホッと一安心。
「夏人。私の手錠を切って」
アイラは焦った口調で僕にそう言ってくる。
「わかった。僕の右手人差し指に手錠を近づけて」
アイラはうなずいて僕の指示に従った。
「おい!何やってるんだてめぇら!」
僕らの行動を不審に思った男がこっちに向かって歩調を速めて近づいてくる。僕は人差し指に意識を集中させ、再び封印のナイフを作ろうとする。しかし体に力が入らずうまく形作れない。
頑張れ僕!やれば出来る!
僕は必死で自分の力をひねり出す。だがその直後、男が僕たちがいる場所までたどり着く。
「逃げようとするなんていい度胸じゃねぇか!」
そう言って男はアイラに向かって手をのばす。僕は駄目かと思ったが、その腕がアイラを捕まえることはなかった。
「手錠で魔力を封じられてなければあなた達になんか負けない」
アイラがそういった。僕は身を捩ってアイラの方向を見る。そうすると男の筋肉質な腕をアイラの細腕が掴んで止めている。男は力を入れているがアイラの力には敵わず、腕をピクリとも動かすことはできない。
「良くも私をこんな目にあわせたな。覚悟はできているか!?ニンゲン!!」
アイラがそう叫ぶと男の腕をボキッと折った。そして男の腹に掌底を行い、男を数メートルほど突き飛ばした。驚くべき腕力である。僕は恐ろしい魔物を解き放ってしまったようだ。
というかこれ僕やばくない?絶体絶命じゃない?動けないから逃げようもないし、アイラが僕を殺そうと思ったらまさに赤子の腕をひねるぐらいの簡単さで出来そうなんだけど。
「夏人・・・。」
アイラは静かに僕の名前を呼んだ。
「ハイナンデショウ」
僕は至って冷静にそう返答した。どういった言葉がアイラの怒りに触れるかわからない。僕が動けない今、彼女のことを怒らせてしまったら一瞬で亡き者にされてしまう。髪の毛一本も残してくれないかもしれない。僕は一度死んでいるので、一度も二度もそんなに変わらないと、あの女神あたりは考えそうなものだけど、いざ死に直面すると普通に死ぬのは怖い。やっぱりアイラだけ助かるというより、2人とも助かるのが一番いいな。それこそハッピーエンドだ。特に僕にとっては。
そんな事をチクタク考えている僕に向かってアイラは口を開く。
「もーなんなのその口調?助けてくれてありがとう」
そう言ってアイラは笑った。
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