第6話 付与された力

 目が覚めると壁にある小さな窓から朝日が差している。


「んー」


 起きたばかりの覚醒しきれていない頭で、なぜ僕は石造りの牢のなかの床の上で寝ていたのかを考える。体が冷えて寒気がするし、床が硬かったため体の節々が痛い。わざわざベットがあるのにも関わらず床で寝ている僕は、もしかしたら昔は戦場で生きており、ベットの使うより床で眠ったほうが落ち着くと考えていたかもしれない。いやそれはないか。あ、思い出してきた


 昨日の夜は急に眠くなって寝てしまったんだった。それで夢の中で、やや勤労意欲に欠ける不良女神と感動の再開を果たしたんだった。そして今日は牢で目が覚めたということは、昨日の異世界に落ちた(落とされた)事が夢ではなく、実際に起きたことだと理解する。もしかしたら昨日の出来事は全て夢で、僕はまだ死んでおらずいつもどおりに自宅のベットで目が覚めるかもしれないという淡い期待が頭の片隅ではあったかもしれない。だが今日目が覚めたのでその可能性は低い言わざる得ない。つまり僕は昨日からこの世界でどうにか生き残る方法を探さなければならない。何も知らないこの世界を知り、この世界での生き方、身の振り方を考えなければならない。


 と、少々小難しく考えてしまったが、正直僕は頭が良くないのでそのへんのことはまぁなんとかなるだろうと思ったところでもう一つ思い出した。それは昨日であった少女のこと。


「ふぁ~」


 僕は欠伸をした。それによって少し頭が働くようになる。昨日、この奴隷商人の牢獄で出会ったアイラという少女。まだ顔も、直接声も聞いていない彼女は、今日の夕方にはどこかに売られていってしまう。それを阻止するためになにか考えを巡らそうとしたタイミングで僕は急激な眠気に襲われてしまったのだった。


 彼女を助ける方法。それを考えようにも無力無能な僕はその方法について1ミリたりとも良い案が思い浮かばない。そんな自分に腹が立つ。結局僕はこの世界に来ても無能のままかと自分をついつい責めてしまう。


「あ」


 そこで思い出した。僕は不良痴女女神、略して不痴神ふちがみから何かしらの特別な能力をもらっていたらしい。もしかしたらこの能力をうまく使いこなせばここから脱出する方法を見つけられるかもしれない。


 そう思って僕は目を閉じる。昨日、アイラに教えてもらった方法で自分の能力について探ってみようと試みる。


「・・・・・・・・」


 駄目だ。全然わからん。この盗賊のアジトの全貌は把握できても自分の能力を把握することはできない。どうすればいいだろうか。どんな能力かわからない以上、能力についてどうイメージすれば良いのかもわからないし、習得するなんてもってのほかだ。


 くそぉあの不痴神め。使い方ぐらい教えてくれればいいのに。サービスがなってないぞサービスが。僕が心の中で毒づくと突然頭の中で声が響く。


「誰が不良痴女女神だ!変な名前つけてんじゃねーよ!」

「その声!その不良みたいな口調はまさか!?」


 声の主は僕が死んだ直後とさっきの夢の中で話した女神だった。


「いや不良みたいとか言わないで・・・下品な口調で凄んでしまって悪かったわよごめん」

「よかった!女神!助けてください!」

「え?」


 僕は女神に昨日今日の出来事を話した。


「はぁ?なんでいきなりそんな目にあってるの?」


 女神は呆れたようにそう呟いた。


「なんでって、特別な能力ってやつも持たされず、お金もなく、知識もなかったため大の大人2人に対抗する手段がなかったからですよ」

「まあ・・・それはそうね・・・悪かったわよ。もうちょっと真面目にやっとけばよかったわ・・・」

「今ちょっとピンチなんです。僕はともかくこの牢に捕らえられている少女がどこかに売りに出されそうになってるんです!」

「ああ、さっき話してたアイラって子?確かに彼女の件は気の毒に思うわ。そうね・・・まぁ面倒ではあるけど仕方ない。能力について色々教えてあげましょう。あー面倒くさっ。何で私がひぃぃぃぃ!ごめんなさい神様!ちゃんとします!怒らないで!おやつ抜きとか止めてください!」


 また神の雷が降り注いだらしい。というか罰はおやつ抜きの刑だったのか。叱られるとはいえそれでなんでそこまでビビってるんだ?


「いや貴方はそう言うけどね。神様は怒らせたら本当に怖いんだから」

「ふーん。例えば?」

「ほら。ホラー映画とかあるじゃない」

「映画見るの?」

「私にはすべての世界の娯楽を楽しむ権利があるのよと。ほら、私達って全知全能じゃん?」


 いやそれは知らないけど。


「ともかく、ホラー映画の吃驚シーンあるじゃない?そのシーン直前のとても緊迫したシーンを狙って雷を落としてくるの」

「うわ・・・それはびっくりするね」

「そうなのよ!めちゃめちゃびっくりするんだから!」


 というかそれって映画のいいシーンを潰してない?結構悪いことするな神様。


「というかそれってホラー映画見なければいいんじゃないの?」

「え?見ないと死んじゃう。だってやっぱり面白いじゃん」

「というか女神なんだからそういう幽霊とかゾンビとか別に怖くないんじゃないの?」

「いや女神でも怖いものは怖い。女神をやっていても基本は乙女のなのよ!」

「はぁそうですか・・・・」


 まぁ自称乙女女神の日常は面白そうな話だけど、今はアイラの事をどうにかするほうが重要だ。早く能力について教えてもらわなければ。


「女神様!お願いです!僕の能力について教えて下さい!」

「はいはい。わかったわよ。しょうがないわね」


 女神は心底面倒そうにそう呟いた。


「あなたの能力は・・・えっと見た感じ・・・封印能力といえば良いのかしら?」

「封印能力?」

「ええ。その言葉が一番近い表現になるかしら。えっと・・・うわぁこの能力めちゃくちゃ強力ね。これがあったら魔王討伐も夢じゃないわ。良かったわね無能で!」

「能力均一化の話で、無能なら強い能力がとか言ってたのは言ってたけど別にその設定掘り返さなくていいから。むやみに僕を傷つけないくていいから」

「使い方は・・・えーっとねぇ・・・。物を封印して世界から隔離したり、事象の性質を性質を封印したりできる」


 物を封印して世界から隔離するというのはいわゆるその対象の周りにバリアを張るようなイメージなのかな?そうすることで触れられないようにするとか?


「事象の性質を封印するって?」

「あーえーっとね。なんて説明したらいいかな・・・。例えばあなたは今、石造りの床の上にいるじゃない?その石造りの床から"固い"という性質を封印すると、その床でトランポリンみたいに飛び跳ねることが出来るようなるの」

「え?マジすか!?そんなこと出来るようなるの?」

「まぁこれには結構、練習がいるしそこまで柔らかくするのは大量のオドが必要だけども」

「ええ!すごい能力じゃん!よかった僕は無能で!」

「ええ良かったわね!無能で!」


 ぐっ。チクチクと心が痛むぜ。


「まぁあなたの能力を鑑みるに、今あなたが陥ってる状況から脱出することは可能ね。鉄格子だろうが、ダイアモンド格子だろうがあなたにとっては紙切れと同じ」

「え?そうなの?」


 ん?でもダイアモンドって衝撃に弱いんじゃないっけ?


「だって考えてみて?封印能力を薄く伸ばしてカッターのように切り裂いたら、その断面だけを封印できるわけでしょ?つまり理論上はどんなものでも切り裂けるようになる」

「ハッ!確かに!さすが女神!」

「そうでしょうそうでしょう!私は頭がいい!」

「頭がいい!慈悲深い!さすが女神様!僕は今度から不良痴女女神の信者集めに貢献するよ!」

「それはやめろ!」


 本当にノリがいいなこの女神。いつまででも話していたくなる。


「あ、もう時間だわ」

「え?もう帰るの?」

「ええ。私だって忙しいの。業務時間が終わっちゃうわ。基本8時間労働だから」

「女神にも労働基準法が適応されるんだ」

「後輩と飲みに行く約束があるの。じゃあ頑張って!面倒だからもう二度と呼び出さないでね!」


 そう言って女神との会話は終了した。面倒だからとか言ってるから神様に怒られるんじゃないかなと邪推したが流石に人間の尺度で女神を測るのはおこがましい気がする。ということでそのへんの話はスルー決定。次の問題は僕に付与された能力を使いこなせるようにあるにはどうすべきかということ。


 僕は再び目をつぶって集中する。そして頭の中でイメージを作る。女神が言っていた封印という言葉。それを今日の夕方までに使いこなしアイラや他の子供達をここから助け出さなければ。そしてさっき感じたこのアジトにある金銀財宝を奪ってウハウハで暮らしたいという小さなのぞみを達成するため。そのためにだけに僕は集中した。


「なんかすごい俗っぽい願い事を聞いた気がする」


 僕の頭の中にアイラの言葉がこだました。

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