第5話 女神リベンジ
ご飯を食べ終わると声の主と内緒話を再開する。テレパスでなら僕らがいくら情熱的な会話をしたところで他の人は誰も聞いていない。心置きなく心の中をさらけ出すことが出来る。
「いや、さらけ出さなくてもいいのよ?顔も見たこともない初対面の男の人に、心の内をさらけ出されても反応に困る」
そう彼女は言ったので僕は明け透けに言葉を発する前に、とりあえず自己紹介をすることにした。
「僕の名前は柊夏人。あだ名はナットーって言われることが多いかな」
「いやいきなりあだ名とか言われても・・・」
「君の名前を教えてくれないかな?」
「うん。私の名前はアイラ。ファミリーネームは持ってないわ」
「なるほどアイラちゃんか。いい名前だね」
「ありがとう」
「君って趣味とかある?どんな食べ物が好き?休日は何してる?」
「え?私の趣味といえば、最近は刺繍を少々ってこんな時に何聞いてんの!?」
「いやまずはお互いを知らないとと思って」
「そんな場合じゃないのわかるでしょ!?」
「僕の趣味はねー」
「興味ないって!貴方、今自分が置かれてる状況わかってるの!?」
なんだ。ツレないな。せっかく広い世界で偶然であったんだ!これは運命だ!というのは当然建前だ。僕だって今の自分の状況がわかっている。とはいえ、僕は死ぬ前は女子と話す機会がまったくなかったので、女の子と話すだけでめちゃくちゃ緊張する。僕ごとき半腐乱のオタクが女の子に「お、おはよう」と言ったら、ゴミを見る目で「話しかけないでね」とか言われそうで怖い。言われたらまじで心臓止まる。そうならないためにまずはいい人アピールをしておく必要がある。そうしておかないと話しているのに「つまんないね」とか若干引き気味のテンションで言われて心臓潰れる可能性がある。
「貴方って明るい振りして、かなりのネガティブね・・・。いきなりあった相手につまんないとか言わないわよ・・・」
「そうなの!君っていい子だね!」
「え?いやまぁ別に普通だと思うけど、そう思ってくれるならそれに越したことはないわ」
アイラは居心地が悪そうにそう呟いた。そして続けて口を開く。
「とりあえず自己紹介の続きはここを出てからにしましょう?」
「わかった!でどうする?アイラちゃんのためなら何でもするよ!命をかけるよ!」
「初対面の人に命まで賭けられたら重いわよ。まぁいいわ。なにか私は今拘束されて動けないの。貴方の方でなにか脱出の助けになるようなものはない?」
「いや、牢の中をくまなく探したけど特に無い」
「そう・・・。じゃあなにか貴方は脱出の助けになるようなスキルはない?ピッキングとか。というか貴方は魔法とか使えないの?」
「ピッキングもできないし魔法も・・・。やっぱりこの世界は魔法があるのか!」
「貴方どうしたの?当然あるでしょう?もしかして記憶喪失か何か?」
「いや、僕って実は魔法も人間以外の知的生命体もいない別世界に住んでたんだけど、その世界で死んだことを神が憐れんでこの世界に飛ばしてくれたらしい」
「また冗談を言ってる?流石に怒るわよ」
うーん。本当だけどなぁ。今まで散々冗談を言ってたのに本当のことを言うと怒られるなんて。やっぱり他人と関わるのは怖い。ここをうまく抜け出したら山奥の小屋を買って静かに暮らそう。せっかくのセカンドライフなんだし。
「ああ。あなたって可哀想な人なのね」
アイラはそう納得してしまった。別に僕は可哀想な人なんかじゃないぞ!単純に友達が少なくて女子と話せなくて。あれなんだろう涙が出てきた。心の汗?
「ともかく早くここを脱出しないと。捕まったのが奴隷商人だから私達すぐにでも売られちゃうわ」
やっぱり奴隷商人なんだ。やっぱり売られる先はどこかの郷士の家で使用人みたいなことをさせられるのだろうか。
「売られたらきっと研究と称して魔法で生きたままバラバラにされたり、魔法の材料にされるわきっと」
え?そんな事されるの?この世界の奴隷システム怖すぎない?人体実験の材料になるの?それはたしかに嫌だなぁ。いや使用人も嫌だけども。
「だけど脱出すると言っても・・・。」
「そうなのよね・・・。私ももうちょっと真面目に魔法の勉強しておけばよかった」
アイラがそう言った時、またこのフロアに大声が響く。
「食い終わったか!じゃあトレーを返してさっさと寝ろ!」
先程の男がこのフロアに入って来た。そして各牢屋を回りながら食べ物の入ったトレーを回収していく。その男がアイラの牢の前に来た時、口を開いた。
「喜べ。お前に買い手がついた。人間型の若い魔人の女なんて珍しいからな。儲けさせてもらったぜ」
「ふん!」
上機嫌に話す男とは対象的にアイラは不機嫌そうに鼻を鳴らした。そんな光景を見た男は愉快そうにニヤリと笑って立ち上がる。
「明日の夕方には出発する。それまで体調を壊すなよ」
そう言って男は立ち上がり、このフロアから出ていく。残されたアイラがとても不安で怯えているのがテレパスを通じて伝わってきた。
「早くここをでなきゃ・・・」
アイラはそう呟いた。僕もなにか出来ることはないか考える。初対面で顔も見えない相手だとしても、これから不幸になることが確定している人を放っておくのは流石に気分が悪い。
そう思っているが急に睡魔が襲ってくる。
「うっ・・・」
「どうしたの?」
「ごめん。なんだか急に睡魔が・・・」
「え?大丈夫?食事に睡眠薬でも仕込んであったのかな?」
「くそっ!」
僕は自分の太ももを叩いて目を覚まそうとする。彼女がこんな状況で僕だけ寝るなんてとんだ薄情者だ。
「いいのよ。夏人」
そんな僕に対してアイラは優しく声をかけてくれる。
「でもここを出る方法を考えないと」
「それは起きてから考えましょう?あの男も明日の夕方って言っていたし・・・」
「うん・・・ごめん・・・」
「おやすみ・・・」
そう言われて僕は目を閉じる。その瞬間に意識が飛んだ。
次に目が覚めたのはこの世界に来る前にいた黄金の空間。
「うわぁぁぁぁ!また全裸だぁぁ!」
「聞こえますか?」
「うわぁぁぁまた痴女が話しかけてくるぅぅぅ!」
「そのくだりは昨日やったわ!いいかげんにしろ!」
女神は僕を一喝する。
「ゴホン。柊夏人。ここに呼んだ理由は他でもありません。貴方に特別な能力を授けましょう」
咳払いをした女神が仰々しくそう言った。
「わざわざ呼び出して授けてくださるんですね」
「ええ。私も大変でした。本来ならすぐに呼び出して能力を授けるはずなんですが、まぁいっかと思って放っておいたらまさか神様から滅茶苦茶怒られるなんて・・・」
女神は落ち込んでる。いや自業自得のような気もするのでフォローする気にはならないがそれでもわざわざ呼び出して授けてくれるとなれば、それはそれで言うべきことがあるだろう。
「それはそれは。わざわざありがとうございます」
「そうです。わざわざ人間なんかの為に私がここまで力を使って・・・」
女神がそう言った瞬間、黄金の世界に稲妻が走る。
「ひぃぃぃぃ!喜んで能力を付与させていただきますぅぅ!」
女神は恐怖の表情を浮かべながら早口でそう言った。そんなに怖いんだ神様。でもそうだよね。雷を落とせるような神様ならそりゃあ怖い。あんな力を見せつけられたらこの女神も勤労意欲が湧くってものだろう。
「では、体の力を抜いてください」
冷静さを取り戻した女神は手のひらを僕の方へかざしてそういった。僕は言われたとおり可能な限り体の力を抜く。次の瞬間、僕の周辺が光りだした。
「うわぁ!」
僕は驚きの余り思わず声を上げてしまった。あまりの眩しさに目を閉じる。
「この者に祝福を与えたまえ」
女神がそう言うと、僕は体からどんどん力があふれる感覚を感じる。そして数秒の時が流れ、光が弱まってくる。
「もう、目を開けていいですよ」
女神の言葉を聞いた僕は言われるがまま目を開ける。
「これで貴方はあの世界に戻った時、特別な力に目覚めます。気分はどうですか?」
「どうと言われても、本音を言うとこっちは全裸なのに美しい女神様に見られて正直興奮するっていうか」
「調子はどうかと尋ねてるんです!」
なんだそっちか。言い方が紛らわしいな。
「よくわかりません」
「そうですか。じゃあ大丈夫でしょうね。早速、あの世界に送り返します」
女神がそういった直後ぼくの足元に穴が開き、僕はその穴に落下する。
「やっぱりこの方式ぃぃぃぃ!?」
僕がそう叫びながら女神をみると、女神はひらひらと手を降っていた。
「もう戻ってこないでくださいねー」
いや意図してこの世界に来れたこと無いんですけど!?そう思った直後、意識がブラックアウトする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます