第37話 宴の終わり

 夜も更けて宴はお開きとなる。


「おー。じゃぁあ・・・みんなぁ・・・帰るぞぉ・・・・」


 完全に酒に酔っ払ったリカルドがその場にいる全員にそう宣言をした。そしてその言葉を聞くのも、酒に酔って地面に横たわっているおっさん達。


「おぉ・・・もうぅ・・・そうだなぁ・・・」


 返事をしたディエゴもろれつが回っていない。その様子に僕はため息を付いた。


「はぁ。森の中なのにこんなに呑んで・・・」

「よほど嬉しかったのねぇ」


 僕の言葉に反応したのはダニエラ。ダニエラは微笑みながら酒に酔った男どもを見下ろす。


「ダニエラさんは大丈夫そうですね。というか忙しくしていらっしゃいましたけど、ちゃんと食べられました?」

「ええ。しっかり呑んでるから大丈夫よ。気を使ってくれてありがとうね」


 ダニエラは僕にお礼を言った。お礼を言われるほどのことではないが、そういえば思い返すとダニエラも何杯も呑んでいたような気がする。ここにいる男どもに何度も酒を注がれ、何度も盃を空にしてはまた注がれる。そうしながら男たちがどんどん潰れていく中で、ダニエラは平然と酒を飲み干していた。


「あーあ。これは送っていかないとね」


 酒豪ダニエラについて考察している僕にアイラがそう言った。


「そうだね。うーん。じゃあ僕が村まで送っていくよ。アイラはここの焚き火をの番をしてて」

「大丈夫?何人もいるから流石に一人じゃ重いんじゃない?」

「大丈夫。封印能力で運ぶから一人で大丈夫だよ」

「なるほど。わかった。私はここで待ってる」


 アイラは僕の言葉に頷いてそういった。その様子を見たダニエラは微笑んでいる。


「ちゃんと歩けるのは私とルーカとソフィアだけね」


 ダニエラがそう言うと、遠くにいるルーカとソフィアの方に目を向ける。二人はとても楽しそうに話をしている。


「本当に仲いいわねあの2人。私も昔を思い出すわ。あーあ。ここにはカップルが2組もいるのに、私の旦那様は寝てるし・・・」


 ダニエラの言葉にアイラが慌てて反応をした。


「わ、私は違いますから!そういうのじゃないですから!」

「あらそうなの?変なこと言ってごめんね」


 ダニエラは謝りながらもほほえみは崩さない。


「さて、じゃあ私達も帰りましょうかね。ナツト君。お願いできる?」

「はい」

「ルーカ!ソフィア!帰るわよ!」

「え!もう?」

「わかりましたダニエラさん!」


 僕は封印能力で作り出した球体に男たちをポンポン投げ入れる。そしてその球体を浮かせながら移動する。


「じゃあ行きましょうか」

「ええ。でもその前に。アイラちゃん」

「なんですか?」

「またこの村に来てね」

「え?でも私は・・・」

「大丈夫よ。リカルドを信じてあげて」

「・・・はい!」

「じゃあねアイラちゃん!」

「じゃあね。ソフィア。ルーカと仲良くね」

「なっ!今それ言う必要あるか⁉」

「あるでしょ、どう考えても」

「うぐぐ・・・」

「ふふふ。ルーカ。いこ」

「・・・・・・・うん」

「じゃあ行きますよー。ルーカ君。顔を赤くして大丈かなぁ?」

「うるせぇんナツト!気持ち悪い話し方するな!」

「はいはいー」

「ふふふ」


 そう言ってナツト達は焚き火の場所から離れ、森に入っていく。その姿をアイラは見送った。


「さようなら」


 アイラはそう呟いた。そしてアイラは焚き火の側に近寄って腰を下ろす。


「ふぅ・・・」


 アイラはため息を付いてその焚き火を見つめている。その状態が暫く続いた。


 突然、アイラの上空に光が現れた。森を照らしてしまうほどの強い光。アイラはその光を見上げて口を開いた。


「女神様」


 アイラがそう言った直後、その光から女性は美しい顔と西洋絵画に描かれる神々のような服を着ている。


「アイラ・・・。クソ野郎と再開できましたか?」

「え?クソ野郎?」

「ああ、ナツトのことです」

「はぁ・・・。あいつ、なんかやらかしたんですか?」

「いえいえ!大丈夫です!こちらの話ですので私がなんとかします。秘密裏に・・・」


 女神は微笑んでいるが、含みの有りそうな言葉を口にしている。女神は続けて言葉を放つ。


「それにしても。イノリ。あなたも変わったことしますね。ただの幼馴染で恋仲でもないのに、惚れた男を長い時間と自分の命を使ってまで生き返らせるなんて」

「ああ、それですか・・・」


 アイラはそう言って俯く。


「そうですね。馬鹿ですよね私。それでもまた会いたかった」

「・・・・・イノリ。覚えていますか?正体がバレたらあなたはこの世界にいられなくなります」

「はい」

「これは私でも変えようのないルール。だから絶対正体がばれないよにしてくださいね」

「はい。ありがとうございます」

「これでも私はあなたのことを気にかけてます。あの野郎は別にどうでもいいですけどね」

「あはは・・・。気をつけます」


 アイラはそう言って微笑んだ。そんな彼女に女神は質問する。


「もし正体がバレても、あなたからいくつかの言葉を贈る時間はあると思います。あなたはその時何を言いますか?」


 その質問聞いてアイラは少し驚いた顔を浮かべ、そしてまた俯く。


「私はその時、なんと言えばいいんでしょうか。ソフィアの時と同じように、私はわたしの自分勝手な願いで、夏人の意思も聞かずに生き返らせてしまった。しかも知り合いもいないこんな世界に。私の正体を知った時、夏人は私のことをどう思うんでしょうか」

「さぁ、それはわかりません。何も考えていないんじゃないですか?バカそうだし」

「もし・・・。もしかしたら私は恨まれても自分のことを覚えていてほしいと思ってしまうのでしょうか」


 その言葉聞いた女神は悲しい顔をして、アイラの側に近寄る。


「イノリ。私はあなたの味方ですよ。もしあの男があなたのことを忘れそうになったら私が神の雷を落としてでもあの男にあなたのことを思い出させます。だから、あなたは忘れられるなんて考えず、あなたの愛を伝えなさい」

「女神様。ありがとうございます」

「いいえ。信者の願いを叶えるのが神の務めです」

「でも、私の気持ちが重荷になってしまったら・・・」

「そんなもの背負わせてやればいいんです。それぐらいの器量も持ち合わせていないつまらない男なのですか?あの男は?」

「・・・・・わかりません」


 そう呟いたアイラを見て、女神は微笑んだ。


「私もわかりませんが、まぁなるようになるでしょう。もし、あなたが消えるようなことになったら私がいいようにしておきますので安心しなさい」

「ありがとうございます」

「おっともうそろそろ時間です。私は帰って野球中継見ますんで、もう帰ります」

「え?あ、はい。ありがとうございます」

「それでは~」


 そう言って女神は消え、光も消失した。アイラはそのままじっと火を見て考え事をする。しばらくすると夏人がかえってくる。


「ただいま。いやー重かったよ」

「おかえり夏人。大丈夫だった?」

「ああ。無事送り届けたよ。まーあの村も大変だろうけど、リカルドさんがいればなんとかなるよ」

「そうね・・・」


 夏人は焚き火に近づいて腰を下ろす。しばらく無言の時間が続く。


「ねぇ、夏人。昔のことを覚えてる?」


 アイラが突然、夏人に向かって口を開く。


「昔のこと?だから記憶喪失で・・・」

「それは私に合わせてるだけでしょ?今は何を行っても信じるから教えて」

「・・・・・覚えてるよ。自分でも信じられないような話だけど」

「あなたには家族とか仲が良かった人は射たかしら?」

「ああ、いたよ。家族とは喧嘩もしたけど基本的には良好。あと、幼馴染がいてさ。ハルキとイノリっていう名前の」

「・・・・・・・それで?」

「まー2人共いいヤツでさ。3人で色々馬鹿やったよ」

「その2人とは仲良かったんだ」

「うん。あぁね。ハルキとイノリがくっつくまでは3人でよく遊んだ。でもぁ2人が付き合うようになってからは僕は居づらくなってさ。ホントを言うとさ。僕もイノリのこと好きだったんだと思う」

「・・・・・・・ッ」


 アイラは唇を噛んだ。夏人はそのアイラの行動に気づかず言葉を続ける。


「でもまぁ、ハルキはいいやつだし。馬鹿な僕よりお似合いって感じでさ。だからまぁいいかなって」

「何が?」

「ん?」

「何がいいの?」


 アイラは夏人の顔を睨む。夏人はその雰囲気に呑まれておどおどしながら口を開く。


「初恋だったけど、ハルキならまぁ諦めても」

「・・・・・・・そう。今はそのイノリって女の事をどう思ってる」

「まだ、引きずってるかなぁ。ははっ情けないだろ。誰にも言わないでくれよ」

「・・・・・・・・そうね。誰にも言わない」


 そう言ってアイラは空を見上げた。木々の隙間から見える星々はとても美しいと思った。でもすぐに滲んでよく見えなくなる。


「アイラ?どうしたの?」

「いいえ。なんでもないわ。今日は早く寝て、明日はまた街にいきましょう?」

「そうだね。やっぱり色々買わないといけないし、情報も色々仕入れないと」

「そうね」


 アイラは夏人に背を向けて横になる。


「じゃあおやすみ」

「おやすみ」


 2人は森の中で眠る。明日からはまた一緒に居られるようにと願いながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

死んだら異世界で楽しく暮らしたい! ゆうさむ @fyrice

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ