第36話 待ち合わせ
僕らは村を襲う魔物を演じた後、そのまま村から飛び出し二度と村には戻らないという予定だった。だが、打ち合わせの時、それでは後味が悪いと村人が言ったので、折衷案で僕らが村から逃げ出した後、どこかの場所で落ち合うという事になった。
場所として話に上がったのは僕らが狩りを行った森。あそこなら多少は土地勘があるし、あそこに潜伏しても大した動物や魔獣も出ないので、僕とアイラなら何日潜っていても大丈夫。ただ、アイラが村を出た方向は森とは反対側だったので、ぐるっと遠回りをして森に行かなければならない。
それはちょっと大変だなと思っていたが、結局アイラが僕をお姫様抱っこしながら長い距離を走破してしまったので、僕は全く大変じゃなかった。恥ずかしかったけど。
そんなこんなで僕らは森の中に入り、適当なところで焚き火を起こし、村人の到着を待つことにした。アイラのおかげで、約束の時間よりはるか前にこの森に入れたので、今日の野宿の準備をする時間は十分ある。僕らは動物を捕まえたり、食べられそうな野菜やきのみを集めて、焚き火のところへ持ち寄った。そして最後に僕は周囲に半球状の封印壁を展開し、その中に引きこもる。
この封印壁は生物の通行を封じるという念を込めて作った。空気だけは通行し、危険な動物は入ってこれないという便利な結界のような使い方。本当に封印能力というのは便利だなとつくづく思う。
日没間近の時間帯に、僕らが魔法壁の中で雑談をしていると、村人がやってくる。
「お!いたいた。ナツト殿、アイラ殿」
落ち合わせにやってきたのはリカルドとその妻ダニエラ、そしてその子供のルーカと幼馴染のソフィア、そしてリカルドの狩り仲間のディエゴとマルコ、その他数名の村人がここにやってきた。
「あ、来ましたね!」
僕は封印壁を一旦解いて、彼らを僕らの中に入れた後、再び半球状の封印壁を展開する。
「おー。やっぱり魔法というのはすごいなぁ」
リカルドはそう呟いた。
「いっそのこと僕らも秘密で勉強してみる?」
マルコがいたずらっぽくそう言うと、ダニエラがマルコをたしなめる。
「止めなさいマルコ。全く貴方はいつまで経っても子供なんだから」
「僕を子供扱いするのは姉さんだけだよ」
マルコは苦笑いをしながらそういった。マルコはダニエラの弟だったのか。知らなかった。
「その後、村はどうでしたか?」
僕はリカルドたちにそう質問するとディエゴが口を開く。
「何とか説得きたぜ。今後は生贄を廃止するという流れになった。お前の棒演技のおかげで苦労したがな!」
「そうね。あれは酷かったわ」
「ああ、ヒヤヒヤした」
「そうだね。あれは駄目だね」
ディエゴの言葉にアイラ、リカルド、マルコの順で頷いた。
「ぐっ!悪かったよ!すみませんね!」
僕は顔を真赤にしてそう言うとそこにいる殆どの人間は笑った。笑わなかったのはルーカとソフィアのみ。
「アイラ・・・」
ソフィアはうつむき気味にアイラの名前を呼んだ。
「ソフィア・・・。ごめんね。私のワガママのせいで」
アイラがそういうとソフィアは顔を上げて口を開く。
「そんなことにない!私はあの時アイラちゃんにひどいこと言った!」
「でもあれが本当の気持ちでしょう?そのお陰で私は自分がひどく自分勝手だったと気づいたわ」
「違うの!あれはなんていうかつい口に出ちゃったと言うか・・・」
「いや私の方こそごめん」
そう言って2人はお互いに謝り合う。それを見たディエゴは呆れ顔をして口を開く。
「あーあー。めんどくせぇ。両成敗ってことでいいじゃねーか。なぁナツト」
「ええ。あれでアイラが謝るなら、村人は全員ソフィアに謝らなきゃいけなくなりますからね」
僕がそう言うと村人は全員目が泳ぐ。
「そんな!皆がいたから助かったの!だから村の人を責めないで」
ソフィアが僕にそういった。
「ええ?いや僕は別にそんなつもりでは・・・」
僕も目を泳がせる。場を和ませようとちょっとした冗談のつもりだったが思わぬカウンターパンチを食らってしまった。
「じゃあ話はまとまったかしらね?」
ダニエラがそういったのをきっかけに、僕らの視線はダニエラの方を見た。
「じゃあ、ほら。ルーカ。言いたいことがあるでしょ?」
そう言われてダニエラがルーカの背中を押す。背中を押されたルーカは2歩ほど前に出た。
「ふ、2人ともありがとな!おかげでソフィアは助かった!」
ルーカはそう言った。
「いやいや。私は別に・・・」
アイラは満更でもない様子でルーカの言葉を受け取った。だが、僕はひねくれ者のためその言葉をそのまま受け取ることはできなかった。
「ルーカ。わかってるよね。君のしたことは許されないことだ。たとえ好きな人を助けようとしたしても、身内である村人を危険にさらし、あまつさえ重症を追わせてしまった。体だけじゃなく心も」
僕がそう言うとルーカは険しい表情を浮かべる。
「ああ、わかってる。俺はこれから一生をかけて、この村を守っていくつもりだ、俺の犯した罪はアイラが全て持っていってくれたけど、俺の心の中から呵責が消えることはない」
「うん。まぁ僕がルーカを責めても、何様だよって感じだしその辺はリカルドさんに任せるとして・・・。その代わり、一つだけお願いがあるけど聞いてくれる?」
まぁ本当にルーカのしたことについて、僕が口を出す権利も義務もない。それこそ村の問題だから、罰するなりなんなりはリカルドがうまくやってくれるだろう。まぁそれは置いておくとして、僕は一つやってもらいたいことがある。
「お願い?なんだ?」
ルーカは首をひねって僕の言葉を待つ。
「ルーカがソフィアに告白している所がみたいなぁ!」
僕がニヤリと笑ってそう言うと、ルーカが驚愕の表情を浮かべる。
「なっ!何いってんだお前!」
ルーカは顔を真赤にして叫んだ。だが、村人は僕の方に付く。
「おお!良いなぁ!折角だしな!」
「そういうのもいいね」
リカルドとマルコはノリノリで僕の意見を支持。
「ゲスねぇ・・・。まぁ否定はしないけど」
アイラは呆れ顔をしながら笑っている。
「まぁ。いいわね」
ダニエラはそう言って笑う。
「はぁ。そういうもんかねぇ」
そしてディエゴは首をひねる。見回すと周りの村人も僕の意見に賛同してくれているようだ。
「よし。多数決が取れたね。じゃあルーカ。どうぞ」
僕がそう言うとルーカは顔を真赤にしながら黙り込む。
「ルーカ・・・。」
ソフィアも顔を真赤にしてルーカを見ている。
「私は大丈夫だよ・・・?」
そのソフィアの言葉を聞いて、ルーカは言葉に詰まる。
「あ・・・いや・・・・」
ルーカはこれ以上ないほど顔を赤くしている。
「そ、ソフィア・・・・」
そしてルーカは口を開く。僕はその光景を固唾を呑んで見守る。
「お、俺は・・・・・」
ルーカは懸命に言葉を絞り出す。その光景と僕とアイラと30過ぎのおっさんたちがニヤニヤしながら見守る。
「そ、ソフィアの・・・ことを・・・」
ルーカがそこまで言うと、突然バタンと倒れた。
「ルーカ!」
ソフィアが驚いて倒れているルーカの元へ駆け寄る。その光景を見たダニエラは頬に手を会えてて困った表情を浮かべながら口を開く。
「あらあら。我が息子ながら意気地がないのねぇ」
「そういうところは父親にだもんね」
マルコがそう言って笑う。
「うるせぇ!お前ら!俺のときはもっとなぁ!」
リカルドも顔を真赤にして反論する。そのリカルドの姿を見てそこにいる全員が笑った。それをきっかけに、このメンバーで宴が始まる。村人は酒や食事を持ち込み、ダニエラが陣頭指揮を取る。
「祭りの飯は食えなかったからな!ここで食わせてもらうぞ!」
ディエゴは意気揚々と料理に食らいついていた。
暗い森の中に明るい声が響く。そしてそれは数時間にも渡って続いた。
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