第22話 狩猟
翌日、僕とルーカはリカルドに連れられて村の猟に参加していた。この猟は村の男達が総出で行い、祭りや村の食卓のために大きな獲物と取るために定期的に行われているものなのだそうだ。そんな話を先程、リカルドから説明してもらった。
だが僕は今、村の恒例行事に思いを馳せることはできない。昨日の話が未だに頭の中でグルグルと渦巻いている。
昨日の夜、アイラにも僕が村長宅で耳にした内容を話した。アイラも僕と同様に驚いていた。そして僕らは話し合った結果、たとえ、生贄が人間だったとしても僕やアイラだと決まったわけじゃない。明日それとなく、ダニエラさんに探りを入れてみるということだった。
確かに僕らのことだと決まったわけじゃない。なぜなら祭りは年に一度決まった時期にやるのに、そのタイミングで丁度旅人を捕まえれるかはわからないからだ。それなら村の誰かを生贄にしたほうが祭りの継続がしやすい。どちらにしても胸糞の悪い話ではあるが、この村にお世話になっている以上、しきたりに対して口を挟むべきじゃないというのは道理だ。
「よし!皆揃ったな!じゃあ出発するぞー!」
リカルドが皆の前に立ち、その場にいる全員に向かってそう叫んだ。
「おー」
大きな声を出すリカルドと対象的に、村の男達は気の抜けた返事をする。その光景を見たリカルドは呆れ顔をする。
「いやもっとやる気出してくれよ。猟なんだぞ」
それに対して一人の男が口を開く。
「いや、猟なんていつものことじゃねーか。毎回元気溌剌ってわけにはなぁ」
「たしかにそうだな」
リカルドが納得したところでこの村の狩猟チームは出発した。みんな槍や剣、ナイフ、弓などを手に持ち、森の中に入っていく。
僕は何もわからなかったのでとりあえずルーカと共に、一団の後ろをついていく。そんな僕らの元へリカルドが近づいてきた。
「ルーカ。ナツト殿。狩りは命がけだ。覚悟はいいか?」
リカルドは僕らにそう念押しをした。対して僕とルーカは頷いた。
「よしよし。それならよし」
リカルドは僕らを見て満足そうにそう呟いた。そのリカルドに対して僕が質問する。
「ところで、狩りはどういった流れで行われるんですか?」
「ああ。まぁ基本的には罠だな。この村にマルコっていう猟師がいるんだが、そいつが昨日仕掛けておいた罠をみんなで見て回るんだ。そこで獲物が罠にかかってたらそいつをみんなで担いで連れて帰る」
「なるほど」
僕がリカルドの話に納得して頷くと、次はルーカが口を開く。
「どの罠にも掛かっていなかったら?」
「そりゃお前。また、エサを新しくしてまた仕掛ける。そんでその後はみんなで獲物を探す」
「一昨日の食卓に並んだボアみたいなのを探すの?」
「バカ言え。あんな大物を捕まえるならこっちだって被害が出る可能性がある。そういうのは村で狩りがうまい奴らに任せておくんだよ。基本的には兎とか小さい奴を探して捕まえるんだ」
「ふーん。父ちゃんも兎組?」
「俺は基本的には大物狙いだが、今日はお前たちがいるからな」
「なるほどねぇ」
ルーカはリカルドの説明を受けて退屈そうにそう呟いた。そんなルーカの様子を見てあきれ顔でリカルドは口を開く。
「あのなぁ。突然大物と鉢合わせする可能性もある。気を抜いていたら殺されるぞ」
「わかってるよ。その時は逃げたらいいんだろ?」
「そうだがあいつらは人間よりはるかに素早く、悪路も平気で踏破する。理想を言えば常に気を張っておき、出会わないようにするのが一番だ」
「そんな事できるの?」
「できるかどうかじゃなくて、可能な限り気を付けろってことだ」
「なるほど」
リカルドの言葉を聞いてルーカは頷いた。その様子を見て、リカルドは笑ってルーカの頭を撫でる。
「ちょ!止めてくれよ!」
ルーカは嫌そうな顔をしてリカルドの手を払った。
「なんだよ。恥ずかしいのか?」
「そうだよ。こんなところでやらないでくれよ」
「そうか。残念」
リカルドはそう言って僕らから離れて、一団の先頭に戻った。それからしばらくは雑談をしながら森の中を歩く。森の中は村や街道とちがって歩き難いが、獣道が通っているので進めないということはない。村人たちはその獣道を選びながら、マルコという村人が仕掛けた罠を目指して進んでいく。
しばらく歩いた後、一団は目的の場所に到着して止まった。
「入ってないな」
村人の一人がそう呟く。その言葉が一団の総意だった。そんな村人を見回してリカルドが口を開く。
「よし。じゃあここを拠点にするか。いまから残り2つの罠見回り班と狩猟班に分けて行動する。俺は今日は息子と一緒に罠を見回るようにする。それ以外はいつも通りのメンバーでいいだろ?」
リガルドがそう言って見回すと、村の人々は頷いている。
「よし、じゃあ2時間後にここで落ち合おう」
そう言うと村の人々が2~5人ずつに分かれて、それぞれの方向へ歩いていく。残ったのは僕、ルーカ、リカルドと罠を仕掛けの達人であるマルコ、そしてもうひとりの男性の5人。
「よし。今日の狩り開始だ。ナツト殿も俺に付いてきてくれ」
僕は頷いた。すると僕の隣に村の男が険しい顔で近づいてくる。
「なんだ?こいつがリカルドの家に泊まっているというガキか?」
男は不機嫌そうに言った。
「ああそうだ。名前はリクト。礼儀正しい少年だよ」
「ふん」
男は威圧的に鼻を鳴らして僕を見下ろす。
「リクト殿。その男の名前はディエゴ。今日は俺達と一緒に行動してくれる」
リカルドにそう言われて僕はディエゴの姿を観察する。
身長180cmは越しているであろうというほど長身で、ボディービルダーもびっくりなくらい筋肉隆々。髪型は栗色の短髪直毛。手には大きな斧を持っている。つり上がった鋭い眼光と険しい表情で僕を見下ろしている。
こわっ。めっちゃ怖いわこの人。高い身長と筋肉のおかげでめちゃめちゃ圧迫感あるうえに、表情がもうすぐにでも人を殺しそう。というか僕が殺されそう。首を掴まれてゴキッとやられそう。何でこんなに睨まれてるんだ?僕が何か悪いことしたか?もしかして僕はよそ者だからよく思っていないとか?
「よ、よろしくおねがいします」
僕はビビりまくりながら何とかそう言った。
「ふん」
僕が挨拶すると、ディエゴの表情は一層険しくなり、ゆっくりと僕の首元に手を伸ばす。
「ッ!」
僕は恐怖に縮み上がって身動きできず、じっとディエゴの目を見ていた。体がピクリとも動かない。
「なんてな!」
ディエゴは僕の肩をポンポンと叩く。
「は?」
僕は何が起こったかわからず唖然としていた。そんな僕にディエゴは笑いながら声を出す。
「いやぁ!つい意地悪したくなったんだ。本当に怖がってるみたいだから。ごめんごめん!」
そう言いながらディエゴは笑い、僕の肩を何度も叩く。
「あ、あはははそうなんですねー」
僕は無理やり笑顔を浮かべてそういった。
「おいおい。ディエゴ。悪ふざけがすぎるぞ。リクト殿の顔が引きつってるじゃないか」
「いやーあんまりにも反応が良かったからついな。悪かったなリクト」
ディエゴは先程とは打って変わって、人懐っこそうな表情を浮かべて僕に謝ってきた。よく見ると鋭い眼光の中にはブラウンの優しい瞳に気がつく。
「あはは・・・。本当に怖かったですよ。演劇の才能があるんじゃないですか?」
「そうか?ありがとなリクト」
ディエゴはそう言ってまたポンポンと僕の方を叩いた。ディエゴが僕の肩を叩くおかげで、僕は激痛に耐える羽目になっている。本人は軽く叩いているつもりだろうが、ディエゴの腕は丸太ぐらいでかいのでとても重い。僕のもやしのような骨格は潰されてしまいそうだ。
そんなやり取りをしている僕とディエゴにもうひとりの人間が近づいてきた。
「ディエゴ。止めてやれよ。その子の肩が外れるよ」
そう言ってきたのはこれまた身長が180cmほどの長身の男。ただ、ディエゴと違って痩躯で理性に溢れる顔をしている。
「こんにちはリクト君。僕はマルコという。罠師として狩りには来てるんだ」
そういってマルコは手を出してきた。僕はその手を掴んで握手をする。
「よろしくおねがいします」
そういうとマルコはニコッと笑った。
「よーし。挨拶は済んだな。じゃあちゃっちゃと罠見に行くぞー」
リカルドそう言うと、マルコは肩をすくめた。
「リカルドは相変わらずせっかちだな」
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