第20話 アイラのお手伝い2

 アイラとソフィアがお茶を飲み終えると、いよいよダニエラの裁縫教室が開催する。


「アイラは縫い物とかしたことある?」


 ダニエラのその質問に、アイラは首を横に振る。


「そうなの?そんなに難しいものじゃないから、直ぐにできるようになるわ」


 ダニエラは微笑んでそういった。その言葉にソフィアは苦い表情を浮かべる。


「ダニエラ先生。とても難しいんですが・・・」

「そもそもソフィアは手先が器用じゃないし、作ろうとしているものも難しいし」

「どうすれば上手くできますか?」

「やっていく内に自然に上手くなるわよ」

「それじゃあ間に合わないよ・・・」


 ソフィアは頭を抱えている。


「とりあえず、始めてみましょう」


 ダニエラがそう言うと縫い物教室がスタート。ソフィアには口頭で縫い物のコツを伝授し、その通りに実践してく。ダニエラはアイラに対して、縫い方を実践し、どうやるか見せ、適度に具体的なアドバイスを挟みながら教えてくれた。


「アイラちゃん。上手ですよ。筋が良いですね」


 ダニエラは褒めてくれる。アイラは顔を赤めながら口を開く。


「いえ、ダニエラさんの教え方が良いんですよ」

「そんな事は無いわ。だってソフィアのときにはもっと苦労したもの」


 ダニエラが笑いながらそう言うと、ソフィアはぷくーと頬を膨らませて反論する。


「不器用ですみませんね!」


 それを見たダニエラがふふっと笑った。


「ごめんごめん。でも、大事なのは上手さではないわ。愛情が籠もっているかが重要よ。ソフィアが今作っているコートもとっても素敵よ」


 ダニエラがソフィアにそう言って微笑みかけると、ソフィアは頬を赤くして目をそらす。


「コート?」


 アイラが首を捻ってダニエラに質問した。


「ええそうです。プレゼントなんですって。かわいいわよね」


 ダニエラは頬に手を当ててそういった。アイラも頷いて微笑んだ。


「プレゼントか。いいですね」

「アイラちゃんもどうでしょう。ナツトさんにプレゼントをしてみれば」


 そう言われてアイラは頬を赤める。


「いえ、私は・・・」

「別にそういう関係じゃなくても、そういう気持ちがなくても、プレゼントはしてもいいと思いますよ」


 ダニエラはそう言ってアイラの頭を撫でる。


「ナツトってここに滞在しているもうひとりの男の子のこと!?どんな子なの!?」


 ソフィアが身を乗り出してアイラに詰め寄る。


「いやぁどんな子と言われても・・・」


 アイラが返答に窮しているのを見かねてダニエラが口を開く。


「ほらほら。ソフィア。手が止まってるわよ。そんなんじゃ間に合わなくなるわよ」

「はーい」


 ソフィアはそう言って席に座り、作業を進める。


「この家に2人で滞在してるってことは、アイラちゃんはその男の子と2人で旅してるってこと?」


 ソフィアが作業を進めながら質問してきた。


「ええ。といっても出会ったのは一昨日だけどね」


 アイラもダニエラに教わったことを復習しながら返事をする。


「そうなんだ。じゃあまだあんまり相手のこと知らないんだね」

「うん。まぁね」

「じゃあプレゼントって気持ちにはならないかなぁ」

「そうね。ちょっと恥ずかしいわ。でもそうね・・・。簡単なやつを作ってみようかな」

「いい!それがいいよ!作ってみると色々分かることもあるよ!」


 ソフィアのテンションは一気に上がった。


「分かること?」

「うん。このコートね。幼馴染の子にあげるの。だから色々相手のことを調べたけど、昔はあんなに小さかったのにいつの間にか私の身長を超したなーとか、最近じゃ狩りとかも参加しているからすぐに服がボロボロになるから頑丈に作らなきゃとか、持っていくものも多いからポケットは多いほうが良いなとかそういう事を考えながら作るの」


 ソフィアが自分が作っているコートを愛おしそうに見つめている。


「そんな日常ではなかなか気がつけないことを、いざ服を作ってみると理解できる。作るのはとても大変だけど、楽しいわ」

「そうなんだ」


 アイラは考える。他人に服を作ってあげるなんて今まで考えたこともなかった。でも目の前のソフィアが楽しそうに、嬉しそうに服を作っているを見て、アイラは羨ましいと感じた。


「私もなにか作ってみようかな」

「うん!それがいいよ!」


 ソフィアは嬉しそうにそういった。その様子を見ていたダニエラが口を開く。 


「んー若い子の話を聞くのはやっぱり良いわね!私もなにか作ってみようかしら!」


 その言葉を聞いたソフィアが嬉しそうに言葉を発する。


「じゃあ、3人でそれぞれ作りましょう!」


 ソフィアの提案にアイラとダニエラが頷く。その直後、玄関の扉が勢いよく開く。


「ただいまー」


 そう言って家に入ってきたのはルーカと夏人。アイラは夏人が入ってくるのを目の端で捉えると慌てて視線をそらした。


「なんだソフィア来てたのか」


 ルーカは目をそらしながらそういった。


「お邪魔してるわ。ルーカ」

「別に邪魔じゃないけど」


 ルーカはそういいながらソフィアに視線をやることもなくキッチンに向かう。


「まぁたくさん取れたのね!」


 ダニエラがルーカと夏人が持っているカゴいっぱいの野菜を見ながらそういった。そしてダニエラは立ち上がりキッチンに向かう。


「じゃあご飯を作りましょうか」

「あ、私も手伝います!」


 アイラが立ち上がってダニエラの後を追う。


「そうですか?じゃあ甘えさせてもらいます」


 ダニエラはアイラにそういった。


「じゃあ私も!」

「ソフィアは作業を進めてて。時間無いんだから」

「はーい」


 ソフィアは残念そうな顔を浮かべて自分の作業に戻る。そのソフィアを見てダニエラは微笑んで、アイラにだけ聞こえる声で言う。


「ふふっ。ソフィアは同年代の女の子が来てくれて嬉しいみたいですね」

「私も楽しいです」

「それなら良かったわ」


 そう言ってダニエラとアイラはキッチンに消えていった。そしてしばらくするとルーカと夏人がキッチンからダイニングに戻ってくる。そしてルーカはダイニングの椅子に座ってソフィアに話しかける。


「頑張ってるなソフィア」

「まぁねー。もうすぐ完成だから、出来上がったら着てね」

「コートだろ?暑いよ」

「実際に着るのは今年の冬だよ」

「・・・・・・・・」


 ルーカは無言になってしまった。ソフィアは次に夏人に話しかける。


「貴方がナツトさん?」


 ソフィアにそう聞かれて、夏人は緊張気味に返事をする。


「そうです」

「年齢は同じぐらいだから楽に話してよ」

「う、うん。わかった」

「でも、ふーん?」


 ソフィアは夏人のことをジロジロと眺める。


「な、なにか?」

「いえいえ。なんでもございません」


 ソフィアはそう言って自分の作業に戻る。


「なんか変だな。いやいつものことか」


 そんなソフィアを見てルーカがそう言った。


「ちょっと!どういう意味!?」

「そのまんまの意味だろ?」

「ふーんだ。コートの内側に針仕込んでおこう」

「いや、止めてくれ。悪かったよ」


 ルーカが謝るとソフィアはよろしいと笑った。


「そういえば祭りの準備は順調なの?」


 ソフィアがルーカにそう質問した。


「ああ、今年は野菜も多く成ってるし食べ物は問題ない。明日と明後日の猟で大物が採れたら言うことなしだな」


 ルーカは淡々とソフィアに説明をした。


「そう。よかった。私の晴れ舞台だもの」


 それを聞いたソフィアは嬉市欧に微笑んだ。


「まぁ料理の方は心配するな。それより衣装は大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。順調順調」

「本当か?自分で作りたいって言ったときは皆不安だったんだが、ちゃんと完成できるのか?」

「できますー。もう殆どできてますー。後は合わせるだけですー」

「そうか。まぁそれなら良いが・・・」


 口を尖らせるソフィアにルーカはそう言った。


夏人はソフィアとルーカの仲の良さに羨ましいという気持ちを感じながら2人を眺める。

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