第3話 人生のロスタイムにしてバカンス
僕が森で目覚める前の話をさせてほしい。なぜ僕が目覚めた場所が異世界だと理解していたのか。そして不意に訪れた死に対する知識をハッキリと持っていたのかを話したい。
僕が死んで目が覚めると、僕は金色の空に浮かんでいた。森で目覚めたのが死後2回目の目覚めだとするとこの世界で目覚めたのは死後1回目の目覚めといえる。
1回目の目覚めの時は僕自身、自分がどうなっているか理解できなかった。当時の僕は死んだという事実を知らず、事故の記憶も抜け落ち、ただ単純に全裸で浮いていたのだ。僕は慌てて足を着こうとバタバタと空を切り、体を安定させることすらできない。一体何が起こってるのか、ここはどこなのかが僕の16年の知識では全くわからなかった。
「うわぁぁぁ!なんだここ!」
僕が叫び声を上げる。ひたすら叫び声を上げ続ける僕に話しかける者がいた。
「柊夏人・・・。聞こえますか?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!落ちる落ちるぅぅぅ!」
でも僕は冷静さを完全に失って叫んでいるのでその声は届かない。
「あれ?おかしいな。聞こえる?柊夏人!きーこーえーるー!?」
「落ちっ!落ちっ!うわああああああああ!」
「落ち着け人間!」
そう言うとその声の主はなにかの力を使ったのか、突然パルテノン神殿のようなものを作り出し、僕をその場所へ落とした。
「うわぁぁぁぁ!何だこのパルテノン神殿のようなもの!」
「それは私が作り出しました。私は・・・」
「うわぁぁぁぁ!全裸の僕に痴女が話しかけてくるぅ!」
「誰が痴女じゃゴラァ!いい加減落ち着け!」
その声の主は女性だった。その女性は美しい顔と、西洋絵画で描かれる神々のようなはだけた格好をしている。いやこの表現は怒られそうだからやめるとして、とりあえず彼女の服は僕からしたら、はだけてだらしない格好だった。
「えっと・・・?誰?」
僕はあっけに取らてていたので疑問を素直に口にした。
「私は女神。あなたの死後のお世話をする転生の女神です」
「死後の世話をする?」
「ええ。そうです」
彼女は優しそうな笑顔を浮かべている。
「それは老人介護的な意味で?」
「違うに決まってるだろ。分かれよそのくらい」
「す、すみません」
笑顔のまま凄んできた自称女神はめちゃくちゃ怖かった。
「ゴホン。私は貴方があまりに若くして死んだことを憐れに思い、そして死因が滑稽だったので第2の人生をプレゼントすることになりました」
滑稽って。死んでまで馬鹿にされるとは思ってなかった。これぞ死体蹴りというやつか。
「第2の人生?セカンドライフ的な意味で?」
「いやそんなわけ無いだろ。それは生きてる人間が定年後とかにするやつだろ!お前はもう死んでるんだよ!戯言を弄して生きてることにしようとするな」
ノリのよいこの女神との会話が楽しくなってきた。だが、女神の方はとても真面目な顔をしている。
「まぁ仮に僕が死んでいたとしてですよ?第2の人生とはどういうことですか?」
「仮にじゃなくて死んでるんだよ。何度も言ってるだろ・・・ゴホン。それは異世界にて素敵な人生を送ってみませんかという意味です」
なんだか田舎の移住定住事業のキャッチコピーより酷い言い回しだ。というか異世界!いいね異世界!チート!ハーレム!努力も才能も親の子宮に忘れてきた僕の人生のロスタイムにしてバカンス!チートがあればいくら馬鹿な僕でも楽しく過ごせる!
いやでも待て。最近ではチート無しなんてものもある。喜ぶのは早計というもの。それにいい話には裏がある。
「なんか怪しいですね」
「何が怪しいのですか?私は女神ですよ?嘘つくわけないじゃないですか」
すごく怪しい。これは裏があるに違いない。
「もしかしてその世界に入るためにはお金がいったりします?それとも善行ポイント積んでないと地獄行きとか」
「いいえ!お金もパスポートも必要ありません!本来なら選ばれた人間しか行けませんが、貴方は若く、あまりに悲惨な死に方をしたので神達が憐れんで異世界に行くことを許可しました。正式ルートでないという意味では密航に近いです」
「密航って・・・。別の言い方ない?」
「密入国?」
どっちにしろいいイメージのない言葉だ。とはいえ憐れんで境遇を恵んでくれるとは太っ腹な神様だ。今まであまり神様を信じていなかったがこんな事をしてくれるなら、これを機に信じても良いんじゃないかと思いそうになる。
だが騙されるな僕。いい話には裏があるんだ。
「でもやっぱりなにか条件が・・・」
「ねぇって言ってんだろ。余計な時間取らせるなよ。こっちは忙しいんだよ」
「すすすみません!」
「謝らなくてもよいのです。でも話を進めさせてください」
この女神2面性半端ないし、表裏がクルックル変わる。情緒不安定なのかな?
「はい」
僕が戦々恐々としながら頷くと、女神も頷いた。
「貴方が異世界に行くに際し、特に条件はありません。それどころか貴方には様々な能力が付与されます」
「おお!それは!?」
「それは行かないとわかりません。異世界に入った時にその人にあった能力が付与されますので、現時点では私にもどのような能力なのかわかりません」
出たとこ勝負というわけだ。これでなんの変哲もない能力なら落ち込むが、すごい能力ならハーレムも夢ではない!
「能力は出たとこ勝負ですが、基本的にはその人のもともと持つ頭の良さや身体機能によって強さは変わります。平均化を図るためそれらの能力の低い人は強い能力が付与される仕組みです。だから心配しなくても大丈夫ですよ」
そうかそれなら心配ないな!と手放しでは喜べないこの感情に名前をつけるなら何?というかなんかちょくちょくディスってくるなこの女神。
「なるほど」
「あ、あと見た目もちょっと変わります。基本的な部分は変わらないんですけどちょっと美化されます。よかったですね」
「それを良かったと喜んでしまうのはうちの両親に申し訳ないんですが・・・」
「じゃあだいぶ美化されます」
「いや美化すること自体が親不孝というか」
「遅れてますね。考え方が。人間同士、心が繋がっていれば姿かたちなんて関係ないとかありきたりな言葉があるでしょう?」
自慢気に倒置法なんて使いやがってこの女神。
「大体死ぬこと自体親不孝じゃないですか。それに比べてめちゃくちゃ美化したところで関係ないですよ」
僕の見た目もだいぶ手を加えようとしてる!造形を抜本的に見直そうとしてる!
「いやいやいや!どんどん美化しようしないで!」
「これも先程の能力の話と同じで均一化されます」
「間接的に僕のことをブサイクっていうの止めてもらっていいですか?」
「まぁどっちにしろどうイジるかは私の裁量なので文句を言われても受け付けません」
なんだかこの女神に自分の見た目を任せるのは不安だけど、この件に関して僕がどうこうできる権限はなさそうだし、とりあえずそれでいいとしよう。考えても無駄だ。
「次もつかえてるんでさっさと移動させますね。質問はないですか?」
「うーん」
僕は考える。訊きたいことも不安も山ほどある。だがどれから質問していくべきか・・・。
「じゃあなさそうなんで早速いきますね」
「待って!時間無いからって"巻きでお願いしまーす"とか無いから!」
「じゃあ早く質問してください。これでも忙しいんですよ」
「わかった。これは前から異世界物で気になってたことなんですけど、言葉ってどうなるんですか?日本と異世界じゃあ当然違うでしょう?」
「ああそれ言い忘れてた。不思議なパワーで言葉は全て理解できるようになります。はい次」
「これから行く異世界というのはどういうところですか?」
「あー説明面倒くさいんで、それは行ってから確かめてください」
お世辞にも返答が丁寧とは言えないが、まぁそれほど時間がないなら質問はあと一つだけにさせてもらおう。
「じゃあ、最後に。僕の死因はなんですか?」
「道端で足を捻って転んで、ころんだ先が道路だったので丁度のタイミングで来たトラックに轢かれて死にました。ちなみに体は真っ二つにちぎれたそうです」
「うえぇぇぇ」
なかなかグロい感じの死に方だ。それが自分の身に起きたと考えると少し気分が悪くなる。
「あ、後付け加えるとちぎれた上半身は吹き飛び、さらに道路で転がったため全身擦過傷だらけで残っている皮膚の部分が殆どないくらい・・・」
「すみません!すみません!もう結構です!詳しく説明しないで!」
トラックに轢かれるなんてグロい死に方だと思ったら、現実は想像以上にグロかったようだ。良かった。死んだときに意識を失っていて。そんな自分の体を見たら気絶しそうだ。
「じゃあもう良いですね。異世界に飛ばしますよ」
「は、はい・・・」
僕が返事をすると自分の足元に穴が空いた。そして僕はその穴の中に落下した。
「うわぁぁぁぁ!!」
僕は突然の落下にまた叫んでいた。
「あ、能力を付与するの忘れてた」
女神の衝撃の独り言が聞こえた直後、僕は意識を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます