第18話 ナツトのお手伝い2
リカルドに連れられて向かったのは村外れにある畑。そこには大きなウリのような見た目のものや、野菜類が植えられている。浅学にしてその野菜が一体何なのかはわからないが、どれもみずみずしく育っている様子が見て取れる。
「とーちゃん。やっと来たか」
畑にはルーカが立っていた。ルーカはカゴを持って熟れた野菜を収穫していた。
「すまん。遅れた」
そう言ってリカルドはルーカに謝ると、床に置いてあるカゴを拾って畑の中に入っていく。僕もリカルドの後ろをついていく。
「よぉ。ナツト。父ちゃんになんか変なこと言われなかったか?」
ルーカはニヤリと笑いながらそう聞いてきた。
「い、いや特には・・・」
僕は歯切れ悪く返事をした。
「なんだ。つまらない」
僕の返答を聞いたルーカはそう言って作業に戻る。
リカルドに変なことは言われなかったが、僕とアイラの関係性については考えさせられることがある。この世界では僕らの年齢になると伴侶探しが始まるそうだ。そして当然その事は、この世界の住人であるアイラも知っていることだろう。その点を踏まえて、僕はアイラと旅をするということ自体をもうちょっと真剣に考えなければいけないだろう。
アイラは魔族ではあるが、あの通りとびきりの美人であるため、彼女が望めば恋人の1人や2人を見繕うことなんて容易だろう。そんな彼女が僕のような男と旅をしていたという事実は、アイラにとって良くない風評を巻き起こすかもしれない。
僕としては、アイラとそのような風評が経つことは吝かではないというかバッチ来ーい!という気持ちではあるが、うら若き乙女であるアイラのことを考えると少々胸が痛む。でもいいな。アイラとそんな関係になったら。
「おーい。なんだか知らないが鼻の下を伸ばしてないで手伝えー」
考え事をしている僕にルーカが冷静に突っ込む。いや、別に鼻の下伸ばしてないし!
「ごめんごめん。何をすればいい?」
「とりあえず足元にあるカゴを持ってこっちに来い。俺が人数分持ってきたから」
僕はルーカにそう言われて足元を見ると、カゴが地面に置いてあるのを確認した。そしてカゴを脇に挟んで、ルーカに近寄る。
「どの野菜が熟れてるかわかるか?」
そう聞かれて僕は首を横にふる。自慢じゃないが僕は今まで土いじりをしたことがない。本当に自慢じゃないが。
「なんだよ。わかんないのか?あ、そうか記憶喪失だったな」
そうそう。そういえば僕は記憶喪失設定だったな。この設定便利だなー。どんなに無知でもある程度許してくれるし。
「じゃあ、カゴを持っていてくれ。俺が収穫してどんどんカゴに入れるから」
そう言ってルーカは、自分が持っていたカゴを僕に手渡した。カゴの中にはすでに半分ぐらい野菜が入っている。
「よし。じゃあ始めるぞー」
そう言ってルーカは植物の状態を一つ一つ確認しながら、成っている身に手を伸ばす。そして選別を行い、食べられそうなものだけをちぎってカゴに入れる。
「美味しそうな野菜だね」
「これはそんなに味しないぞ」
ルーカは僕の言葉に淡白な言葉を返す。その間もルーカは次々と野菜を選別し、食べられそうな野菜をちぎってはカゴに入れていく。驚くべきはその速度。野菜を確認し、熟れ具合を判断するスピードはひとつあたり1秒もない。そんな一瞬一瞬で即座に野菜の状態を判別し、千切るかどうかを判断している。
「ルーカは慣れてるね」
「そりゃこんだけ手伝わされたらな」
「偉いね」
「嫌々だけどな」
口では憎いことを言っているが、作業に関しては真剣そのもの。僕と話している中でも一瞬たりとも手を止めず、次々と野菜を収穫していく。すぐにルーカから手渡されたカゴは一杯になり、新しいカゴと交換する。
「そういえばこの村のお祭り、楽しみだね」
僕がそう言うとルーカの手がピタリと止まる。
「内容は聞いたのか?」
「リカルドさんに概要だけ。食って呑んで騒いで献上品を奉納するだけって聞いた」
「そうか」
ルーカは再び作業を開始する。そしてしばらくの間、ルーカは無言になった。
ん?なんだか今、ルーカの反応おかしくないか?祭りの話は禁句だったのかな?でも昨日はルーカも祭りの話をしていたし。もしかして、ルーカは祭りに参加しないのかな?自分はワイン呑めないとか言っていたし。
「なぁナツト。そんなに祭りが楽しみか?」
「ん?うん。まぁ楽しそうではある」
「そうか・・・」
再び会話が途切れる。ルーカは一体何が言いたんだろうか。部外者の僕が祭りに参加することに快く思ってないのかな?昨日の時点では別にそんな素振りはなかったけど。
「ナツト。考えたんだがお前たちは祭りの前にこの村を出て行ったほうが良いかもしれない」
ルーカは突然変なことを言い出した。
「え?なんで?」
「それは・・・ちょっと言えないんだが・・・」
理由は言えないが村を出ていったほうがいいという忠告。見ず知らずの人間に言われたなら、理由を言えと問い質すところだけど、ルーカは意地悪でそんな事言うタイプだとは思えない。本当に何らかの言えない理由により、僕に村を出るように言ったのだろう。しかし、突然そんな事を言う意味に全く心当たりがない。気づかない内に僕はなにか悪いことをしたかな?
僕がルーカの言葉の真意を考えていると、ルーカは口を開く。
「まぁ理由が分からず出てけって言ってもわけがわからないよな。だが、今回は何かが起きる気がするから注意だけはしていろよ」
ルーカは僕たちの事を気遣って忠告してくれたようだ。
「わかった」
よく分からなかったがとりあえず、僕はルーカの言葉に頷いた。そうこうしている内に2つ目のカゴもいっぱいになった。
「よし。今日の収穫はこのぐらいにしておこう。おーい!父ちゃん!」
「おう!終わったか!?」
「ああ!」
「よし。じゃあ野菜を持って一旦帰るか」
「わかった」
リカルドとルーカの話がまとまると、ルーカは僕の方を見た。
「一つカゴを持つ。もう一つを持って付いてきてくれ」
ルーカがそう言ったので僕は頷いて、ルーカの後に続いてリカルド宅に向かって歩き出す。
「いやー!今日も豊作だったな!」
リカルドが満足気にそう言った。
「今年は雨が少なかった気がしたけど、野菜は順調に育った」
「水をくんで移動するのは大変だったが、これだけ取れれば救われた気がする」
リカルドとルーカは農家トークをしていた。僕はそのへんの知識が全く無かったので話に入れなかったが、こういう親子の会話は見ていて微笑ましい気持ちになる。ルーカは口は悪いところがあるが、しっかりと父親を尊敬しているし、リカルドもルーカのことを可愛がっている。
「そう言えばナツト殿。なにか苦手な食べ物ってあるか?」
僕は突然話を振られて驚いた。苦手な食べ物?そう言われてもパッとは思いつかない。うーん、強いて言うならゴーヤとか?でもこの世界にゴーヤなんてあるかわからないし・・・
僕が返事に窮しているとリカルドは思い出したように口を開く。
「ああ、そうか!記憶喪失だったな!忘れてた。ごめんごめん」
リカルドは謝ってきた。しかし、別に謝られることでもないから大丈夫ですと僕は答えた。
「俺はあるよ。苦手な食べ物」
ルーカがそう言うと、リカルドは興味深そうにルーカに聞き返す。
「ほう?ルーカに苦手のなものなんてあるのか?何でも食ってるだろ?」
「父ちゃんの作ったスープ」
「なんだと!この野郎!」
リカルドはそう言ってルーカの頭に手を載せて、ガシガシと強めに撫でた。
「やめろ!やめろ!」
「あはははは!」
ルーカは本気で嫌がっているが、リカルドは楽しそうに笑っている。まぁ今回はルーカが悪いので僕も特に止めることもなく、親子の会話を眺めていた。
そんなこんなしながら、僕たちはリカルド達の家に到着した。
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